5.なんか、真面目に考えると虚しいよね
「よぉ。おっ、数日ぶりに見れば顔色がマシになったじゃないか」
タンデさんが、珍しく真っ昼間にやってきた。
「ここ最近、お陰様で眠れるようになってきました」
私の睡眠不足は、見た目にも出ていたようで。 タンデさんは、夜な夜現れると薬は体質もまだわからんからなと眠りやすくなり、また副作用の低いほうじ茶の香りにそっくりな茶葉をくれた。
それだけではない。メイドさんの二人、チコリさんとローズマリーさんが、CDによく似た音楽が流れるという小箱に物凄く触り心地がよい抱き枕をくれた。
「タンデさんからのアドバイスを頂いて、女神様に細かく書いて落ち着きました」
一番の効果はやはり、身の安全に安心感がもてたからだろうな。
女神様とやらに、命だけでなく、痛いのも毒殺や魔法魔で攻撃されるのも嫌だ。改善されなければ、私のメンタルは崩壊すると私の仕事だというソレも放棄し毎日毎日クドいほど書いて訴えた。
『わかった』
そうして約十日後に完璧に満たされているとは言えないものの、契約をもぎとった。
「実験して納得できたのもありますね」
「ある意味、スゲーよ」
そう、私は、自ら毒を飲み魔法をぶっ放してもらうなどの実験をした。
勿論、毒は解毒剤がある物で魔法も加減はしてもらった。
「担当した奴ら、真っ青で可哀想だったなぁ。下手したら首が飛ぶなんて聖女さんも、なかなか酷な頼みをするよな」
「まさか本当の意味だなんて知らなかったんですよ」
私の生きてきた場所とは、文化から宗教観まで違いすぎる。
「王様の言葉は、最終判断で覆る事はない」
首が飛ぶとは文字通り、死刑だ。
絶対に黒だろうとトップが白と言えば白が正しい。
「一番上に立つ命は重く、それ以外は非常に軽いですよね」
同じ命、ただの人間なのに。
「まぁ、それを言うなら聖女さんは、最上位に入るな」
通常、同じ世界の人間が男女、年齢問わず選出されるらしい。
「書物によると、二百年ぶりだ。女神さんもやむなくだったんだろうが」
私の役割は、この世界の壁、ようは生きる為に必須である酸素を維持する膜の強化。
『壁の先にあるのは?』
神殿の人間、医者、学者も答えられなかった。
女神からの返事は。
『無』
「…生きてれば、どうせ終わりは来るから生きますけど」
けどなぁ。
「救世主とか崇められてチヤホヤされるのが生き甲斐になれるタイプだったら良かった」
捻くれた考えかもしれないけど。
「外部から来た私は、壁さえ強化すれば必要ないし、むしろ迷惑しかないですよね」
もしかしたら、この国にとって変な知識は脅威になるかもしれない。
もしかしたら、壁を扱えるからと傍若無人に振る舞うかもしれない。
もしかしたら、女神と関われる、即ち王より権力を持つのではないか。
「ある意味、とてつもなく厄介物ですよね?」
ズズッとお茶をすすった彼は、答えた。
「まぁ、そうかもな」
救いになる言葉はゼロ。だけど、上辺だけな嘘つきな言葉の羅列よりずっといい。
「お茶、おかわりいります?私が淹れますよ」
暗く重苦しい筈の内容に反して、私の気持ちは意外にも悪くなかった。




