表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

セカンドコンタクト

作者: 南蜘蛛
掲載日:2025/12/10

四作目です。人と再び向き合うことをテーマにして書きました。読んでくれるとありがたいです。

 私にとって、他人とは宇宙人だ。

 宇宙人は得体の知れない生き物であり、自分が住んでる惑星とは違う惑星に住んでいる。

 惑星は円を描くように動き、他の惑星とは決して交わらない。

 衝突もせず、知ることもなく、ただ廻り続ける

 惑星は宇宙人であり、宇宙人は惑星なのだ。

 だから理解できなくて当然なんだ、宇宙人というものは。

 届きそうもない太陽に窓越しに手を伸ばしながら、呆然とそんなことを考えていた。


 *


 高校生になったばかりの私は、教室の窓際の一番後ろの席から宇宙人達を眺めていた。

「おはよ〜」          「…………ん」      「サボろっかな〜」

    「昨日のアニメ見た?」     「ねみ〜」

  「宿題見してくんない?」   「はよ〜」    「ちょ、机座んなって」

         「朝からだり〜」        「はい俺勝ち確〜」

 「課金しよっかな〜」    「え〜何それあたし初耳」   「へ〜」

        「これ可愛くない?」    「トイレ行かね?」

      「…………」       「何読んでんのそれ?」

 「今いいところなんだから!」         「ん、どしたの?」

  「今日放課後カラオケ行かね?」          「朝飯食ってね〜」

 教室の中には様々な宇宙人がおり、朝のホームルームが始まるまでの間、各々が談笑したりソシャゲをしたりと、それぞれが違ったやり方で過ごしていた。

 そう、当たり前のことだが、宇宙人は一人一人顔も性格も何もかもが違う。

 故に理解できず、仲良くなるなんてことはありえない。

 ましてや友達同士になるなんて論外だ。

 宇宙人を真に理解し、友情を育み合うことなど、できるわけないんだ。

 今までも…………これからも…………。

 それなのに、私がなぜ教室の隅から宇宙人たちを眺め、観察まがいのようなことをしているのかと聞かれたら、特に意味はないと答える。文字通り暇つぶしだ。

 強いて言うなら、宇宙人のことは理解できないから遠目で見るのに限る……といったところか。

 何事も距離感が大切だ。こうしてぼ〜っと宇宙人を眺めていれば、自然と時は過ぎて行き、いつもの一日が始ま……


「ふんぎゃ!?」


 突然気の抜ける声が聞こえた気がした。

 気のせいだろうと宇宙人観察を続けようとしたら、再び声が聞こえてきた。

「痛てて……あ、真依ちゃんおはよ〜」

「……」

 呆れた私は声がした方向に振り向くと、床にうつ伏せになりながらも笑顔でこっちに手を振っている宇宙人の姿があった。

「何してるの、小沢さん」

 私は小沢晴香(おざわはるか)に返事を返した。

「あはは〜また盛大に転んじゃったよ〜。これでも気を付けてるんだけどな〜」

 小沢は何事もなかったように平然と答えた。おそらく引き戸のスライド部分に足を引っ掛けて転んだのだろう。顔を見ると鼻血が出ていた。

 よく見ると、小沢の顔は所々絆創膏が貼られており、肌が見えている部分には傷の跡があった。流石に気になり、聞いてみた。

「傷? あ〜これね〜実は今朝家で階段から転げ落ちちゃってさ〜。それでちょっとよろけたら棚に足の  小指ぶつけて倒れちゃったんだよね〜。しかもその後に棚の上にあった物全部落ちて下敷きになっちゃったんだよ〜。あれは流石に痛かったな〜。でも全然大したことなかったからグッジョブだよ」

 大したことしか起こってない気がするけど。

 朝からそんな悲劇に見舞われたのにも関わらず、小沢はヘラヘラと笑っていた。

 小沢晴香という宇宙人は、基本的にこういう奴だ。

 マイペースでヘラヘラしており、感情の起伏が少ない。おまけに極度のドジで、たとえ小石ひとつない道を歩いても盛大に転んでしまうほどだ。そのせいで身体中に頻繁に怪我を負っており、疫病神でも憑いているんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。

 だが一番の問題点は、やたらと私に付き纏ってくることだ。

 同じクラスで隣の席同士という接点しかないというのにやたら絡んでくるし、どこにでもついてこうとする。

 正直こいつと一緒にいると自分も怪我を負いそうでハラハラする。こっちの身にもなって欲しいものだ。

「ねえねえ真依ちゃん。今日放課後って暇〜? 授業終わったらどっか食べに行かない〜?」

 思ってたそばから誘われた。仲良くなった覚えなんてないというのに食事に誘うだなんて、やはり宇宙人は理解できない。

 ここは堂々と断ろうと返事を返した。

「い、いや、私今日はちょっと……」

「え〜ダメなの〜」

「ダメっていうか……その……用事があって……」

「私真依ちゃんとご飯行きたいよ〜」

「あの……だから……」

「私奢るからさ〜。ね? ね? いいでしょ?」

「……ええと……」

「だめ〜?」

「いや……」

「どうしてもだめ〜?」

「……」

「行きたい行きたい〜」

「………………いいよ」

「ほんと! やった〜!」

 無理だった。何で私はこういう時素直に断れないんだろう。

 小沢は意外と積極的な一面もある。その積極性に押し負けて、イエスと言わざるを得ないことも多くある。本当に掴みどころがない宇宙人だ。

 私は小さくため息を付き、顎を右手に乗せながら隣を見る。

 小沢は私とご飯に行けるのがよっぽど嬉しいのか、体を左右に揺らしながらずっと鼻歌を歌っている。

「ふんふんふふ〜ん」

「……」

 不覚にも、小沢に誘われてもあまり悪い気分にはならなかった。

 不思議だ。宇宙人と関わるなんて時間の無駄だと思っていたのに。

 …………もしかして私は、小沢に誘われたから嫌じゃないのか?

 よく考えてみたら、他の宇宙人だったら否応なしに拒絶してたような気がする。咄嗟にそんな考えが浮かび、私は頭を振り払った。

 そんなはずがない。小沢は他と同じただの宇宙人なんだ。それ以上でもそれ以下でもない。そんなこと考えても無意味だ。

 ……でも……

 そしたら私は…………


 私は小沢にとって、なんなんだろう。


 ……………………わからない。

 やっぱり私には、わからない。


 *


「あれ、真依ちゃん全然食べてなくない?」

「……私少食だから」

「真依ちゃん手足とか細いんだからもっと食べて肉付けないと〜」

「ああ……うん」

 学校が終わり、放課後に私達は近くのファミレスに寄って早めの夕食を食べていた。私は頼んだポテトをもそもそと食べ、小沢はハンバーグを美味しそうに食べていた。

 しばらくたわいもない会話を続けていたが、主にしゃべっていたのは小沢だったので会話と呼べるかは怪しかった。

 さすがに少しは会話に参加しないといけないと思い、私はその場の思いつきで小沢に問いかけた。

「……あの、小沢さん」

「ん? どしたの真依ちゃん?」

「その……小沢さんっていつも笑ってるけど、何か嬉しいことでもあったの?」

 我ながら唐突な質問だなと思ったが、小沢は変わらず笑顔で答えた。

「ふっふっふ〜。それはね、私の頭の中では常に好きで溢れかえっているからなんだよ」

 予想もしてない答えが返ってきて、私は少々困惑した。

「す、好き?」

「そう、好き! 朝早く起きた時にきれいなお日様を見れたこととか〜、道端で猫ちゃんと戯れあったこととか〜。そういうことを考えるとだんだん楽しくなってきちゃってさ、すぐ顔に出ちゃうんだ〜。まあそのせいでよそ見しちゃって転んじゃうこともよくあるんだけどね〜」

 楽しそうに語る小沢を横目に、私はポカンとしていた。

 好きなことを考えているから楽しくなる。だから笑顔になる。

 単純明快すぎて笑ってしまうような結論だが、どうにも納得いかなかった。

 私は朝早く目覚めても眠いからと二度寝してしまうし、猫を見つけても「あ、猫だ」と思うぐらいしか感情は動かない。

 そんな明日になったら忘れていそうな出来事を、小沢は心底楽しそうに話していた。

 何なんだ、この宇宙人は。

「あともちろん、真依ちゃんも大好きだよ!」

「……へ?」

 私が今まさに頭を悩ませている時に、聞き慣れない言葉が聞こえた。。

「な……何で私が好きなの?」

「え? だって……」

 疑問を投げかけると、小沢はさも当然のような口ぶりで答えた。


「私達、友達でしょ?」


 ………………は?

 とも…………だち?

 こいつは今、私のことを友達と言ったのか?

「友達なんだから好きに決まってるじゃん〜。逆に嫌いだったら一緒にご飯なんて食べてないよ〜」

 思考が追いつかない。

 つまり小沢はずっと、私のことを友達だと認識して付き纏っていたということなのか?

 いや、そんなのありえない。宇宙人と友達だなんてどうかしてる。私にとって宇宙人は赤の他人のようなもので、小沢は百歩譲ってもただの知り合いだ。偶然席が隣で登下校が一緒になったり、こうしてたまに放課後どこかに連れられるだけの関係に過ぎない。

 もしも…………もしもそれが友達だと言うのであれば………………


 私は一体、何のために一人になったというんだ。


 頭の中がごちゃごちゃになっていると、今度は小沢の方から問いかけてきた。

「真依ちゃん? なんか難しい顔してるけど大丈夫?」

「え……ああうん大丈夫。ちょっと考え事してて……」

「それでさ、真依ちゃん好きなこととかある?」

「す……好きなこと?」

「うん。私達まだお互いのこと詳しく知らないじゃん? だからまずは好きなことを共有できたら良いな〜って」

 何ともお気楽な小沢らしい問いかけだが、私は返答に迷った。ただでさえ頭の中がスッキリしていないのに他のことに脳みそを割いてる余裕がない。

 にもかかわらず、

「星」

「え?」

「夜に……星を見ること」

 私の口は、勝手に動いていた。

「星か〜……。良いねそれ! 星きれいだし! なんか素敵! そっか〜真依ちゃんは星が好きなのか〜。意外とロマンチストなんだね真依ちゃんって。」

 小沢は瞳を星みたいにキラキラさせながら言った。

 それより私……何であんな簡単に……

「じゃあ逆に嫌いなことは?」

 再び問いかけてきた。しかも今度は少しセンシティブな内容だ。

「…………きらい……………」

 宇宙人たちとはあまり関わらないのでわからないが、自分の嫌いな物事を打ち解け合うのはあまり気持ちの良いものではないのだろう。

 なぜなら自分が嫌いだと思っていることは、相手が好きだと思っていることかもしれないからだ。

 なのに、


 きらい


「嫌いってさあ、マイナスイメージがあるからあんまり外で声を出して言えないじゃん? だからちょうど良いかな〜って」


 きらい


 なのに私は、


 嫌い


「私はね〜………………」


「宇宙人」


 それが私の絶対的な答えであるかのように、はっきりと答えた。

「……え? 宇宙人?」

 疑問符が混じった小沢の声でハッと我に帰り、私は自分が何と言ってしまったのかを繰り返し思い出した。

 宇宙人……宇宙人……宇宙人……

 私は宇宙人が………………嫌い。

 客観的に言えば、それはお化けが嫌いなのと同じで、何もおかしなことはないように見えるのだろう。

 でも、さっき小沢に言い放った言葉は、なんだか言ってはいけないような気がして……

「真依ちゃんは宇宙人が嫌いなの?」

 少し意味も違うような気がして……

「真依ちゃん? どうかした?」

 というかどっちかって言うと、嫌いより怖いの方がしっくりきて……

「大丈夫? なんか顔色悪くない?」

 何で怖いのかはきっと、宇宙人が理解できないから。

「やっぱり体調悪いんじゃ……」

 理解できないから怖くて、怖いから理解できない。

 そんな嫌な思いをするくらいなら…………

 私は最初から…………


 拒絶する。


 パンッ


 何かがぶつかり合う音がした。

 小沢が私に向かって差し出してきた右手を、私は無意識に振り払っていた。

 小沢は私の顔色を確かめるために前髪をどかそうとしたらしい。それを私は拒絶した。

 振り払った左手には、微かな痛みが残り続けている。

「……真依ちゃん……」

「……! ごめん。先帰る」

 とても一緒にいられる居心地じゃなくなり、私は自分の分の食事代をテーブルに置いてすぐに店を出た。

 小沢は先程の出来事に驚きながらも、私を引き止めようと手を差し伸べたが、無視して通り過ぎてしまった。

 宇宙人は嫌い。それが私の本音。

 宇宙人は怖い。それも私の本音。

 だから関わっても良いことはない。そんな考えが脳裏にこびり付く。

 外に出て見上げた空は、夕日が沈みかけていて、薄暗かった。

 左手の痛みは、しばらく引かなかった。


 *


 中学一年になったばかりの頃、私はひとりぼっちだった。

 元々人付き合いが苦手だったし、自分から誰かに話しかける勇気も持てなかった。

 そんな無気力な私に、一人の女の子が話しかけてきた。名前は思い出せないけど、彼女はラインを交換しようと言ってきた。私は願ってもなかったので即了承した。

 それから時々一緒に昼食を食べたり、どこかに遊びに出かけたりもした。

 楽しかった。

 何もかも新しいことだらけでワクワクしたし、心の底から彼女のことを友達だと思っていた。

 中学二年になった頃、クラス替えで彼女とは別のクラスになってしまった。

 それでも私達が一緒にいる機会はあったし、連絡も取り合っていた。

 だけど徐々に頻度が少なくなっていって、ラインもいわゆる既読スルーされるようになった。

 中学三年になった頃、廊下で彼女を見つけた。両隣にいた見覚えのない人達と話していたようで、彼女は楽しそうだった。

 私は話しかけた。私も混ぜてと言うように。

 振り返った彼女は私に気づくと、申し訳なさそうな顔で答えた。


 えっと……ごめん、あなた誰だっけ?


 その時、彼女は宇宙人になった。

 ラインも消した。何もかも消し去った。

 その日はとにかく苦しくて、自分の部屋のベッドで枕を手放せなくなった。そして二つのことに気づいた。

 私の心はガラスみたいに脆くて弱かったということ。

 もう一つは、私にとって友達というものは、思ってた以上に大事な存在だったということ。

 でも、こんなに悲しい思いをするくらいなら……最初から理解できないことにしておいた方が良い。

そう決めてたはずなのに


 *


 目が覚めると、真っ暗闇が広がっていた。そこは私の部屋だった。

 ベッドから体を起こした私は、スマホを手に取り時刻を確認した。深夜一時だった。

 中学の頃の夢を見たのは久しぶりで、あまり寝覚めは良くなかった。原因はやはり今日……正確には昨日の出来事だろう。

 私は多分、小沢に対して酷い態度をとってしまったのだろう。小沢は私を心配してくれてたのに、その好意を無下にしてしまった。

 そう思うと、あの夜みたいに胸が締め付けられて苦しくなった。

 もしかしたら私は、小沢のことを無意識に友達と思ってしまっていたのではないのか?

 でも、なんで今さらそんなことを思うのだろう。

 ……中学三年のあの時、ちゃんと彼女と対話していれば、違う結果になっていたんじゃないか。私にとって宇宙人ではなく、友達になっていたんじゃないのか。

 ふと、部屋の窓の外を見ると、夜空が広がっていた。そこは数えきれない星々で埋め尽くされており、月は星一倍に輝いていた。

 夜は好きだ。真っ暗で静かな雰囲気は、まるで宇宙みたいだから。

 宇宙は好きだ。そこはおそらく無で溢れていて、一人でいても誰にも邪魔されず、心地良いだろうから。

 宇宙まで行けば、きっと星は掴み放題なのだろう。

 だけどここだと……一つも掴めやしない。

 窓越しに映る月に手を重ねながら、私は再びベッドに寝転んだ。

「……明日謝んないとな……」

 それだけはやらなきゃいけないと心に決め、私は目を閉じた。


 *


 翌日、私はいつもより早く起きて学校に向かっていた。いつも早起きしても二度寝しちゃうのがオチなのに、今日は何故か目が冴えていた。

 とにかくまず一番に小沢に会わないといけない。まだ学校には来てないかもしれないけど、それでも待たないといけない。

 小沢に会って、昨日のこと謝って、それから…………

「真依ちゃぎゃふん!?」

 突然、聞き覚えのある声が聞こえた。

 声が聞こえた方向を振り向くと、地面にうつ伏せになっている小沢の姿があった。

 会えたことに対する安堵感と、なんでここにいるのかという困惑が入り混じって頭がこんがらがったが、それは後にして小沢のもとに駆け寄った。

「小沢さん、大丈夫?」

「う〜……あ、真依ちゃん! ごめんまた転んじゃった。こんな時でも転ぶなんてドジすぎるよね〜」

「ああうん……とりあえず平気そうで良かった。あと小沢さん……私……」

「真依ちゃんごめん!」

「え?」

 昨日のことについて謝ろうとしたら、逆にこっちが謝られてしまった。わけがわからない。

「え……小沢さん、なんで謝るの?」

「だって昨日真依ちゃん悲しそうな顔してたから、私何か酷いことしちゃったんじゃないかって思って」

「いや……私は全然……」

 まさか小沢も私と似たようなことを考えていたなんて……

 でも、なんだか妙にしっくりきていた。

「私昨日真依ちゃんに嫌いなことについて聞いたじゃん? でもよく思い返したらすごくデリカシーのない質問なんじゃないかって思って。そしたらいてもたってもいられなくてダッシュで来ちゃってさ。私おっちょこちょいなくせに不器用だから……」

 その瞬間、私はすごく大事なことを思い出した。

 いや、知ってたんだ。

 小沢は元々、こういう人だったんだ。


 *


『ああ〜ごめん! ほんとにごめん黒川さん!』

『小沢さん落ち着いて。これくらい平気だから』

『でもでも、私が木から落ちたのを受け止めたせいで怪我を……』

『小沢さんのせいじゃないよ。それより、猫は無事?』

『あ、うん。猫ちゃんは大丈夫。もうどっか行っちゃったけど』

『そっか。よかった』

『それより黒川さん早く保健室行かないと! 急がないと!』

『え? いやだから大丈夫だって……』

『だめだよそんなの! 怪我が悪化しちゃう!』

『ええ……』

『あと、黒川さんのこと、これから真依ちゃんって呼んで良い?』

『は?』

『席隣同士だし、もっとお近づきになりたいって思ってたから』

『いや、それは』

『これからよろしくね! 真依ちゃん!』

『えええ……っちょ、小沢さん! 前見て』

『え……ぎゃっ!』


 *


 あの日、学校に迷いこんだ猫を助けた日から、小沢は小沢のままだ。

 ドジでマイペースなくせに、まるで隕石みたいに私の心に割り込んでくる。あと少し心配性で。

 そして、お人好しだ。

 私はまだ、宇宙人のことは理解できない。

 理解できないものは怖いし、嫌うこともある。そのせいでまた悲しみに暮れて、真っ暗な宇宙が恋しくなると思う。

 でも、

「わかんないんだけどさ、ほんとにごめ」

「晴香」

 それでも私は、

「私は晴香のこと、嫌いじゃないよ」


 私は今、目の前にいる友達を知りたいと思ってしまった。

 その瞬間、私の瞳には宇宙人ではなく、ありふれた人の姿が映ったような気がした。

 幼さを残している、可愛い少女の姿が。


 偽りのない本音を伝えると、小沢は呆けたような顔をしていた。

「え……ああうん、それはすごく嬉しい……って、真依ちゃん今私のこと名前で呼んだ!?」

 これ以上ない気持ちを伝えたのにしくじったと感じて、咄嗟に口元を隠した。

「ごめん今のなしで」

「え〜なんでなんでなんで!? もっかい! もっかい言って真依ちゃん!」

「いや、それはちょっとまだ早すぎるから……。ほら行くよ、小沢さん」

「あ〜待って真依ちゃ〜ん!」

 しつこく言わせようとしてくる小沢から逃れるため、猛ダッシュで学校に向かった。そして小沢も逃すまいと、全力疾走で私を追いかけてきた。

 この日私は、久しぶりに人と会話をした実感があった。友達と本音で語り合えるのが、こんなにも嬉しいだなんて忘れていた。

 今はもう、友達と言える存在と走ってる時間さえ愛おしいと思える。

 これからは、もっと彼女と話そう。

 もっと小沢のことを理解するために。

 もっと友達を知るために。

 確固たる決意を胸に、私は無我夢中で走り続けた。

 隣に追いついてきた小沢の顔を見ると、満面の笑みで溢れており、気づけば私も笑っていた。

 今だったら、太陽にも手が届きそうな気がした。


 *


「そういえば、小沢さんの嫌いなものってなんだったの?」

「三輪車」

「三輪車?」

「そう。私小さい頃に三輪車に乗って転んで怪我したことがあって。でも普通の自転車に乗ったら転ばなかったんだ〜。それ以来三輪車を見るたびに怖くなっちゃって」

「へえ〜……そう……」

やっぱり理解するのは難しい。

                                              終

おそらく読み終えたであろう読者の皆さま、そうじゃない皆さまも、ありがとうございます。

この作品のタイトルは「セカンドコンタクト」なんですが、宇宙人と初めて接触することを「ファーストコンタクト」と言うらしいので、それを二回目のものとしてタイトルにした所存です。

短い内容ですが、何か一つでも心に刺さったものがあれば嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ