勇者ご令嬢 ニオの物語
弱虫で臆病で泣き虫。
ニオという少女はそんな人間だ。
気が付いたら王宮という名のーー国の中で重要な場所で育っていたその少女は、一人の王子の遊び相手になった。
王子の名はエルランド。
優しく穏やかな性格の少年だった。
そのためニオは、すぐにエルランドを信頼し、好きになった。
そんな彼女は、人見知りでもあるため、他の子供達とうまく交流する事ができない。
エルランドに促されても、出かけた貴族の社交界では、隅っこのほうでじっとしているだけだった。
そうでない日は、そのエルランドの傍にくっついているだけだ。
そんな少女に声をかけたのが、とある少年。
帽子の中にたくさんのお菓子を入れて持ち歩いている少年だ。
その帽子の少年は、他国の王族で、エルランドの顔見知りだった。
帽子の少年は、エルランドの「ニオの友達になってやってほしい」という頼みを聞いて、ニオをかまうことにした。
帽子の少年はニオに対して、ぐいぐい話しかけ、勢いのある喋り方をするものだった。
そのためニオは、彼の事を最初は苦手に思った。
しかし、付き合いを続けるうちに、その少年が優しい事が分かったため、ニオは帽子の少年にもエルランドに向けるような信頼を抱いた。
小さく狭かったニオの世界は、少しずつ広がりを見せ始めた。
そんな中、エルランドの遊び相手から、護衛になるための訓練が始まった。
それは、王子から王になる過程で、エルランドの命がねらわれる事が増えたためだ。
ニオは戦いや争いが苦手であった事から、最初は訓練に積極的ではなかった。
しかし、エルランドがとある暗殺事件で怪我をしてからは、一生懸命とりくむようになった。
自分の性格を変えようと、一生懸命強くあろうと努力した。
その過程で、ニオには特殊な力がある事が判明し、呪いを無効にすることができるようになったのは幸いだった。
世界には、表世界には出ない「呪いという力」が存在していたため、地位のある人間が命を狙われる際には、ニオの力が護衛として便利だったのだ。
ニオはエルランドを守れる自分の力を誇りに思っていた。
それから少しだけ月日が過ぎていく。
ニオは自分が大した事はできない人間だと知っていたため、多くを掴みとろうとはせず、エルランドだけをしっかりと守ると決めていた。
だから、親しかった帽子の少年が命を狙われた時でも、エルランドの事だけを守る事にしたのだ。
別れは突然でニオはとても悲しくなったが、それは仕方のない事だと割り切るしかなかった。
そんなニオは、エルランドの傍を離れて、王宮から遠くにある騎士学校へ入学する。
さらに戦う力を身につけるためだ。
騎士学校での日々は順調で、ニオは良い成績をおさめていく。
指揮能力もあげて、集団を統率する力も身につけた。
けれども、そんなニオに近付くものがいた。
それは呪術師という人物で、世間で指名手配されている犯罪者だった。
呪術師は呪いを使って人を害する存在であり、裏世界のものたちには有名だ。
そんな呪術師はニオの力の秘密を教えるといって、王宮の中にあるいくつかの隠し通路を伝えた。
その隠し通路を使って久しぶりに王宮に戻ったニオは、秘められた場所で自分の力の真実を知った。
地下空間にあったのは呪術の実験場で、そこで閉じ込められた人たちは、非道な実験に使われていたという事実が明らかになった。
年代や性別は様々で、主に犯罪者を使っているが、親から引き離した子供を連れてきて、様々な実験を行う事もあった。
その子供の一人がニオだった。
ニオを監視していたのか、その場に導いた呪術師が現れて、こう囁く。
「自分を不幸にした王宮や、そんな実験を行わせていた王族が憎くないかと」
ニオは、首を横に振って否定した。
どこまでエルランドが知っていて、関与しているか分からないが、自分は守るべき主人が困るようなことはしない、と。
だから自分はエルランドを狙う刃にはならないと答えた。
もうじき王となる予定のエルランド。
そこまで生き延びてきたエルランドは、自分の命ほしさに誰かを不幸にするような人間ではなかった。
命を狙われた時も、他者を慮り、国を良くしていこうという決意を固めていくような人間だった。
だからニオはそんなエルランドを信じる事にしたのだ。
ニオは、これからエルランドの命を狙うであろう呪術師と対峙する。
その戦いの結末がたとえ敗北になろうとも、敗北しかないと悟る時が来ても、ニオは自分の考えを曲げるつもりは微塵もなかった。
そこには、かつて臆病だった少女などどこにもいない。




