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2.あなたたちは敵よ!

僕は、無理やり連れ込まれた喫茶店で飲まされた、キリマンジャロ一杯分の義理を果たすため、やむを得ず城内先輩が生徒会長になるための手助けをすることなった。


もっとも僕には勝算があった。

おそらくそんな面倒なことにならず城内先輩を生徒会長にするというミッションを達成できる勝算が・・・。


「あの郁美先輩。ご相談があるんですけどこの後残ってもらえますでしょうか?」

「ああ、うん。もちろんいいよ~。」


翌日、生徒会の打ち合わせの後、僕は副会長である2年生の倉科郁美先輩に声をかけた。

もし城内先輩が生徒会長になれる可能性があるとすれば、彼女がキーパーソンになるはずだからだ。


「それで、どうしたの?浮かない顔だけどなにか悩み事?力になれることある?」

郁美先輩はニコニコと穏やかな笑顔で親身になって話を聞いてくれる。

1年間一緒に生徒会の仕事をしてきたが、郁美先輩が怒ったところを見たことは一度もない。いつも笑顔を絶やさず、誰にでも優しいまさに人格者の鑑。

城内先輩とは対照的だ。


「はい。実は次期生徒会のことなんですけど、郁美先輩も立候補予定ですよね。」

「う~ん・・・そうなのよ。受験に差し障るし断りたかったんだけど、他になり手がいないし・・・。あっ?もしかして翔太君も生徒会を続けてくれるの?それだったら助かるわ。」

「いえ・・・すみません。それはちょっと・・・。でも聞いてください。生徒会長に立候補したいという生徒を見つけました。それだったら郁美先輩も立候補しなくて済むんじゃないかと。郁美先輩がやる気だったら申し訳ないんですが・・・。」

「え~っ、助かる~!探してくれたの?ありがと~。私も先生に頼まれて仕方なく立候補するしかないかって思ってたし、やる気がある人がいるなら、私は喜んで譲るわよ。」

郁美先輩は手を合わせて感謝してくれた。

いつも笑顔なので逆に何を考えているのかわかりにくいが、今回に限っては本当に喜んでいる様子が伝わってくる。


「それはよかったです!」


郁美先輩は生徒会活動だけではなく、それ以外の悩みにも親身に相談にのってくれる。しかもいつも的確な対応を教えてくれる。だから僕は密かに師匠と呼んで敬っている。

そんな敬愛している師匠を喜ばせられたことは掛け値なしにうれしい。


「それで、立候補したい人って誰なの?」

「ああ、はい・・・実は今日呼んでいますのでこれから紹介します。今後の段取りとか、心構えとか注意点とか、いろいろと伝授していただけると・・・。」

「え~っ?誰だろ?楽しみだな。」


ニコニコと笑い、リズミカルに体を揺らしながら全身で喜びを表現している郁美先輩を生徒会室に残し、僕は隣の教室に入った。

そこには約束通り城内先輩が待っていた。


「ちょっと!!遅いわよ。いつまで待たせるつもりなの?」

「すみません。郁美先輩と話はつきましたので生徒会室の方に移ってください。紹介しますので後の詳細は二人で打ち合わせていただけると・・・。」

恐縮しながら僕が促すと城内先輩は、舌打ちしながら億劫そうに腰を上げてくれた。


やれやれ。これで城内先輩と郁美先輩が話して、城内先輩に候補を一本化できれば一件落着だ。

対立候補がいない城内先輩は希望どおり生徒会長になれるし、郁美先輩も面倒な仕事から解放される。

もしかして、僕はすごくいいことをしたんじゃないだろうか。自分で自分を褒めてあげよう。


「お待たせしました。お連れしましたので、後は二人で今後の段取りについて話してもらえると・・・。」

「えっ・・・!まさか・・・城内美野里・・・さん?」

僕の後に付いて生徒会室に入って来た城内先輩を見た瞬間、郁美先輩は凍りつき、目を見開いた。

いつもの温厚な笑顔も一瞬で消え去り、驚愕か恐怖かわからない複雑な表情をしている。


「そうよ。城内美野里です。初めましてかしらね。」

城内先輩は、そんな郁美先輩の異変に気付かないのか、何事もなかったかのように郁美先輩の前の椅子に座った。


「あの・・・城内先輩、倉科郁美先輩です。現在生徒会の副会長であり、次期生徒会長に立候補予定なんですが、城内先輩が立候補するならご自身は立候補を取り辞めてもいいと・・・。」

「イヤよ!」


説明の途中で食い気味で口を挟んできたので、驚いて郁美先輩をまじまじと見つめてしまった。話が違う。


「他の人だったら立候補を辞めてもいいと思ったけど、この人だったら絶対イヤ。こんな人に生徒会長を任せられない。」

そう強く断言した郁美先輩の顔はみるみる紅潮した。しかもどんな時でも絶やすことがなかった笑顔が消えている。


「どうして他の人なら譲って、私だったら立候補するって話になるの?ちゃんと合理的に説明してちょうだい。そもそも私たちは初対面よね?あなたにそんなに嫌われるようなことあったかしら?」


郁美先輩とは対照的に城内さんは涼しい顔である。

目の前でこんなに怒りを露わにしている人がいるのに表情一つ動かさずいられるなんて、どれだけメンタルが強い人なんだろう。


「たしかに直接話したことはないけど、でも忘れたとは言わせないわよ!去年の文化祭のミスコンでの不正のことを!!」


文化祭のミスコン・・・。

僕たちの高校の文化祭では、昭和の頃から伝統的にミス雁宿高校を選ぶミスコンが開かれている。

もちろん今の世の中でミスコンなんておかしいという反対の声もあり、年々風当たりも強くなっているが、伝統行事であり、男子を出場可能にしたり、容姿ではなく学業や人格なども審査対象に加えるなどのマイナーチェンジを繰り返して根強く残っている。


「そういえば、去年のミスコンは郁美先輩も出てましたよね。」

「そう・・・。出場者が一人しかいなくて成立しないからって実行委員に頼まれて仕方なく出場したんだけど・・・。そのもう一人の出場者が、この城内さんだったのよ。」

「そして、結局、私が勝ったわけだけどね。もしかして私に負けたことを恨んでるんだったらお門違いだわね。」

そう言って城内先輩はフフンと鼻を鳴らした。


「違う!もし正々堂々と戦って城山さんが勝ったんだったらそれで構わない。問題は城山さんが不正をしたことよ!!」

「人聞きの悪い。私がどんな不正をしたっていうのよ?」

城内先輩は涼しい顔のまま、唇の端を少しあげた。

まるで冷笑して煽っているようにも見える。

そんな城内先輩の表情に刺激されたのか、郁美先輩はどんどんヒートアップし、声も大きくなっていく。


「覚えがないとは言わせないわよ!あなたが投票を買収したことを!」

郁美先輩は立ち上がり、ついには城内先輩に指を突き付けた。指の先がフルフルと震えている。


その後の郁美先輩の説明は、興奮しすぎたせいか取っ散らかっていて正直よくわからなかった。ただ、まとめるとどうやら以下の経緯があったようである。


まず、一昨年までのミスコンは、生徒に1枚ずつ配られる投票用紙による投票により勝敗が決められていたらしい。僕は入学する前なので知らなかった。


しかし、去年に限っては、投票用紙ではなく模擬店で使える10枚つづりの利用券の台紙が投票用紙となっており、そこに候補の名前を書いて投票することになったらしい。

文化祭実行委員長であった城内先輩の強い要望によって。


「なるほど・・・。しかし、実際にはそれでも大差ないのでは?どうせ生徒は1人あたり一組しか利用券を買わないわけですし・・・。」

「そう・・・。だから先生も生徒会も特に城内さんの提案に反対せずに受け入れたんだけど、そこに彼女の巧妙な罠が仕掛けられていたのよ・・・。」


僕の高校の文化祭は3日間にわたって行われる。最初の2日間は学校の生徒のみが参加できるが3日目は学外からの一般来場者も入場可能となる。


「最初の2日間の投票では、私が圧倒的にリードしていた。2日目までの投票だけでも既に全校生徒の過半数以上の票を獲得していたと聞いているわ。」

「ああ・・・郁美先輩は人気ありますもんね。わかります。でも、それでなんで最終的には城内先輩が逆転できたんですか?」

「覚えているかしら?最終日、模擬店の利用券が開場と同時に売り切れたことを。」

「うちの高校の文化祭って人気あるんだって思ってました。」

「あれは、きっと城内さんが利用券をこっそり買い占めたのよ!そして利用券に付いた投票用紙を使って自分に投票して・・・。そうでなければ最終日に急に逆転することなんてあり得ない!!だって、プライバシーと安全に配慮して、一般来場者向けにはミスコン出場者の写真とかプロフィールをまったく開示してなかったのよ。おそらく一般来場者はミスコンが開催されていたことも知らなかったんじゃないかしら。それなのに城内さんにだけ急に票が集まるなんておかしいじゃない!」


郁美先輩は真っ赤な顔でブルブルと震え出した。たしかにそんな不正があったなら、正義感の強い郁美先輩が怒るのもわかる・・・。

あれ?でもそうだとしたらおかしくない?


「あの、すみません。口を挟んで申し訳ないんですが、僕は生徒会で文化祭担当だったのでよく覚えています。利用券は1組2000円、一般向けだけで1000枚近くは発行しているから、それを全部買い占めるとなると200万円くらいかかりますよ。いくらお金持ちでもミスコンのためにそんなに出せますかね?それに城内先輩が一人で200万円分も利用券を買ったら、さすがに問題になって先生から注意されると思うんですが・・・。」

「そう。中村の言う通りよ。あなたの話は不合理な臆測に過ぎないわ。私は買い占めなんかしていない!!言いがかりはやめてちょうだい。」

僕の発言を引き取って城内先輩はきっぱりと疑惑を否定した。ただ、その表情は皮肉っぽくニヤついている。


「えっ・・・、あっ・・・?確かに翔太君の言う通りかも・・・でも・・・。」

郁美先輩は明らかに僕の指摘と城内先輩のきっぱりした否定に戸惑っている。それに畳みかけるように今度は城内先輩が郁美先輩にビシッと指を突き付けた。


「私は利用券を買い占めてなんかいない!利用券を買ったのは祖父の会社の社員よ!!」


「はっ・・・?」

僕は城内先輩が何を言っているのか理解できなかった。郁美先輩も同感のようで、思わず僕と目を見合わせる。


「祖父は文化祭を楽しみにしていて、自分の会社の社員も一緒に楽しませてあげたいと思ってたくさん連れて来たと聞いているわ。しかもなるべく長く楽しめるようにお小遣いを与えて早朝から校門前に並ばせておいたみたいね。それでその社員たちが開門と同時に一斉に何組も利用券を買ったから、結果としてすぐに売り切れたんじゃないかしら?」


「・・・じゃあ、最終日にミスコンで城内先輩に票が集まったのはやっぱり不正では?」

「ちょっと!人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。私は祖父にも社員にも私に投票して欲しいなんて頼んでないわよ!」

「・・・でも、もしかしてミスコンに出場していることをおじい様に話されましたか?あと利用券の台紙が投票用紙になってることも・・・。」

「ああ、それは話したわよ。祖父も雁宿高校のOBだし、そこで出会った祖母が昔ミスコンで優勝したって話を小さい頃から聞かされてたから、祖父が喜ぶと思って話したんだけど・・・。いけなかった?」

「ちょ、ちょっと!それってつまり、おじい様が動員した社員が利用券を買い占めて、組織票でミスコンに勝ったってことじゃないの?やっぱり不正じゃないの!!」

一時は虚を衝かれて大人しくなっていた郁美先輩も状況を理解して怒りが再燃したようだ。


「はっ?これのどこが不正だって言うのよ。一般来場者の中に祖父の関係者がいただけだって話でしょ。その人たちがたまたま私に投票したってルール上何の問題もないわよ!あなたの家族とか知り合いとかだって文化祭に来てたんじゃないの?ルール違反って言うならそれも同じなんじゃないの?」

城内先輩は鼻で笑った後、立ち上がり、腰に手を当てて勝ち誇った表情で郁美先輩を見下ろした。


「ムキ~!!ルールじゃなくてモラルの問題よ。そんな悪徳な金権政治家みたいな方法でミス雁宿高校になってうれしいの?」

「ああ、なるほど。なんやかんや言って、あなたはミス雁宿高校になりたかったのね。いいわよ。私はミス雁宿高校なんてどうでもいいし。今日からあなたがミス雁宿高校を名乗ったらいいじゃない。フフンッ。」

「ち、ちがう・・・そんなことじゃなくて・・・。」

「何が違うのよ。論理的に説明してちょうだい!」

城内先輩は腰に手を当てたまま、傲然と郁美先輩を見下ろしている。

郁美先輩は震えながら目に涙をためている。

もはやいじめっ子といじめられっ子の図にしか見えない。

「いずれにしても!あなたみたいなやり方は絶対に許せない!そんな人に生徒会を任せるわけにはいかない!城内さんが生徒会長に立候補するなら、私も立候補する!」

郁美先輩は涙をためて真っ赤になった目に決意をこめて城内先輩を見上げた。

しかし城内先輩は動じることなく、涼しい表情で郁美先輩を見下ろしたままだ。


「いいわよ。選挙で決着を付けましょう。私と中村で、正々堂々とあなたに勝ってみせるわ!!」

「わかったわ!今日からあなたたちは私の敵よ!古来より悪が勝った試しはないって思い知らせてあげるから!」

そう言って郁美先輩は城内先輩、そして僕をキッと睨みつけて、生徒会室を飛び出して行った。


あれっ?いつの間にか、僕もまとめて郁美先輩に敵として認定されてる?


「やれやれ・・・。これで選挙は避けられないようね。一緒に頑張りましょう。」


あれっ?こっちには仲間認定されちゃってる?


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