年齢性別不詳の主人公がただ耳かきされる話
タイトル通り、ただ主人公が耳かきされる話です!
文章だけでどこまで耳かきの至福を表現できるかにチャレンジしました。
夜、独り寝のお供に良いかも。
私は彼女の膝に頭を乗せていた。彼女の黒髪が一房、絹の簾のように落ちた。こめかみのあたりに触れたその重みを、私は軽く手で払った。
私は少し微笑んだ。気にしなくてもよい、と伝えるために。
彼女の頬は少し恥ずかしげに朱に染まった。
私の横たえた身体の下にはまだ青い色味の畳があった。ここは12畳ほどの和室で、日差しの入る縁側に近い床の間には木彫りの鯉と薄青の釉薬に染められた大皿があった。
私の下半身は日差しに温められていたが、上半身とこれを支える彼女の身体は日陰になっている。へその辺りに陰陽の境界があるが、その境界線の寒暖差に注意が向いてしまう。
「お耳をほぐしていきますね」
そう呟くと、彼女は綿の薄いガーゼを私の耳にかぶせ、その上から細い枝のような指で挟み込んだ。人差し指を耳甲介の壁面に固定し、その傍ら親指で耳の裏側を摩擦していく。
耳たぶの近くから上の方まで、側頭部の硬い肌を、彼女の柔らかな親指の腹が擦っていく。ところどころ気になる部分があるのか、彼女はやや爪を押し当てるようにして耳輪全体をもみほぐしていく。
彼女の指と耳の接点を中心に、痒みと快楽を混ぜ合わせたような感覚が全身に広がり、筋肉のこわばりを溶かしてゆく。私の緊張が緩むのを感じたのか、彼女は少し嬉しそうに微笑むと、私の鬢の近くの髪に指を絡ませ、撫でるように梳いた。
私の髪は彼女のしとやかな黒髪と比べると、乾燥していてくすんだ色をしている。そのため彼女の指が縮れ毛に絡まり、枯れ草の弦を千切るような音を立てた。ときどき固い玉結びに当たると、彼女は少し指を浮かせてそれを避けた。
「なんだか楽しいです」
少し舌足らずな声がして、湿り気を帯びた息が私の鼓膜を揺らした。
「麻布みたいで好きですよ」
それは褒め言葉になっているのだろうかと少し疑問に思う。私はすねたように彼女の太ももに顔を埋めた。
少し固い紺色のスカートの上、その布の厚みを隔てて彼女のぬくもりと汗ばみを感じた。「綿棒入れていきますね」
そう言って彼女が私のもみやげを払うと、外気にさらされて冷涼が耳を洗った。
「動かないでくださいねえ・・・・・・」
彼女は片方の指で私の耳介をつまみ、少しだけ広げた。薄暗い穴の中で滞っていた空気が入れ替わり、産毛が少し怯えるように震えた。
彼女は少し前屈みになって綿棒を近づけてゆく。
「まずは外側を」
耳介のくぼみに綿製の球が入り込み、彼女の指の動きに合わせて壁面をこする。そのたびごとにこびりついた垢が削られると思うと少し恥ずかしさを感じた。くぼみの奥まった部分に綿棒を押し当て、器用に指先で回転させる。
「気持ちいいですか?」
「ん? うーん・・・・・・」
ごしょごしょとくぐもった音がするけれども、どうも軟骨のすぐ上を擦っているようで、隔靴掻痒の感が否めない。
彼女は少し上半身を傾けて「じゃあ・・・・・・」と呟いた。
「このあたり?」
綿棒がそこに触れると一瞬肩が震えた。軟骨の少し裏側、神経が集まった部分をそっと触れられる。彼女が指先にわずかに力を込めてたゆませると、産毛が綿棒との距離の変化を感知するのか、私はそのたびごとに薄肌の一点に近寄る綿毛の感覚に身をこわばらせた。 弱点を見つけた彼女は、先に触れた一点を中心に、小さな同心円を描くように綿棒を動かし始めた。小刻みな先端の振動が私の耳壁を揺らし、汚れを雲母の剥片のように剥がしてゆく。
「はい・・・・・・綺麗になりました」
綿棒が抜き取られると、その空間にまた冷たい外気が入り込む。汚れを落とされて剥き出しになった赤肌を、気流が撫でる。
「耳かき・・・・・・入れていきますよ」
その言葉に、私はまた少し緊張した。
木製のさじが耳穴の入り口の部分を二、三度掻いた。はじめはそっと触れるように、次には押しつけるように。
それもまた快感だったが、彼女はまた私の耳穴を上向きに広げ、耳かきを奥にそろそろと侵入させる。
ほんの数ミリほど入ったところで、さじの部分を使って外壁を優しく擦る。突如固い木片に触れられた薄皮がその圧に耐えかねてわずかに窪むのを私は感じた。その窪んだ部分を支点に、スコップで土を削るように、耳かきはじりじりと奥をかき分けてゆく。
期待とわずかな不安が入り交じり、私の意識は耳かきの先端に集中した。
やがて何か引っかかりを感じたのか、彼女はさじを少し浮かせるとそのままさらに奥へ入れ込む。そしてさじを接地させると、手前へ向けて引っ掻いた。
その塊に引っかかったのが私にも分かった。
「ありますねえ・・・・・・」
耳垢の少し奥の地点から手前に引っ掻くたびに、耳かきのさじが引っかかる。引っかかるたびにまた少し奥へ入れて、固さを確かめるように何度か突っつく。
「痛かったら言って下さいね」
奥から少し力を入れつつ壁をなぞり、耳垢の少し手前で浮かせて、垢が肌からわずかにめくれた裏側の部分にさじを引っかける。
そこから魚の鱗を逆撫での刃でそぎ落とすように、垢と肌の間にさじを入れて耳垢を浮かせてゆく。
彼女が少し力を込めてさじを引くと、何かが剥がれる感覚がして、耳かきのつっかえが消えた。
「ん・・・・・・取れました」
色合いの薄い木の皮のようなそれを彼女は私に見せた。
「ふううー」
耳に息を吹きかける。
「はい・・・・・・終わり」
彼女は私のこめかみの辺りをぽんぽんと叩いた。
表現力アップのために書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
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