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異世界幸福生活譚~幸せへの帰り道~  作者: 円 円々


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雪解け




 雪が降らなくなり、学院組が屋敷を去ってから、集落から使用人の三人とルイがまた屋敷に通いはじめた。

 魔力循環が随分上達したルイに、いよいよ魔法訓練を行う。

『*想像するんだ。指に火が点くのを。ここから火が出るかどうか』

『*わかった』

 火魔法を試してみたが、ルイには適性が無いのか魔法は発動しなかった。水魔法も発動せず、風魔法を試すと魔法が発動した。

『*うわっ!』

『*ルイには風魔法の適性があるんだね!』

『*嬉しい! 風なら実も落とせるし船も動かせる!』

 指先に小さく渦巻く風の消し方を教えると、パッと消してみせた。

『*うん! 上手だよルイ!』

『*ありがとう』

 何度も小さな風を生み出しては消す。暫く続けた後で裏庭へ行き、土魔法も試してみた。土魔法は発動しなかった。

『*ルイは風魔法が使えて、鑑定能力持ちだね』

『*役に立つ魔法だな!』

『*うん、僕もそう思うよ。風魔法使う時は魔力切れに気を付けてね』

『*わかった!』




 二日に一回、集落から使用人達とルイが屋敷へやって来るようになり、日中の気温が少しずつ上がりはじめる。日の節に入り、雪解けがやって来た。

 村ではコゲ麦、ゴジョモ、ティカロの作付けがはじまる。ウィリアムは村の畑の一つにトマトとズッキーニに似た大トンゴ、かぼちゃを植えてみた。世話は村人に任せるが、これが成功すれば収獲が増える。


 集落では大急ぎで水田作りが行われた。溜め池も掘り、水は沢から井戸への分岐路を作って水を引く。土魔法を使えるドランと共に集落へ行き、ウィリアムがこっそり魔法を使った。

 水田の他にも新しい家屋の前に広い畑が耕され、かぼちゃと大トンゴが植えられた。

「上手く行くといいなぁ~」

 ウィリアムは水田に実る稲穂を思い浮かべ、両手を合せた。


 裏庭の畑からは玉ねぎが収獲された。冬の間も藁やバレン袋をかけていたお陰か、無事冬を越せたようだ。一部の玉ねぎは種を採る為に残した。収獲した玉ねぎを干すのも一苦労だった。

 収穫後に裏庭にもゴジョモ、ティカロ、大トンゴを植えた。かぼちゃとトマトはウィリアムの空間収納から出せるので作らなかった。




 日の節もひと月が過ぎ、ウィリアムは裏庭に追加で大豆とパプリカに似た赤甘辛子を植えた。さつま芋に似たビタモも植え、レイチェルに促成魔法を掛けて貰う。大豆は村と集落でも植えるよう指示を出した。


 畑の準備に皆がバタバタ忙しくしていると、ある日史郎がルイ達と共に屋敷へやって来た。

『お願いがあって参りました』

『うん、どうしたの?』

『あの…シファ様が使っていらした、茶色い鞄をお貸しいただけないでしょうか』

 応接室に通された史郎がソファから腰を下ろし、床に座って頭を下げる。

『だから土下座はいらないって!』

 ウィリアムは慌てて史郎を引っ張り起こし、ソファに座らせた。

『どうしてあのカバンをかりたいの?』

 レイチェルが尋ねる。

『実は、また海へ行こうと計画しております。あの鞄があれば、もっと多く海から食料を持ち帰れます』

『うん! 貸そう!』

 ウィリアムは即答した。レイチェルも大きく頷いている。

『あのカバンなら生魚も持って帰って来られるよ! 時間が停まるから!』

『なまざかな! おさしみ! やきざかな!』

『アクアパッツァ! カルパッチョ! フィッシュアンドチップス!』

 興奮する二人が落ち着くのを待ち、史郎は確認した。

『あの、宜しいのでしょうか? そんな簡単にお借りしても――』

『うん! 海の幸欲しいもん! あのカバンは元々僕が貰った贈り物なんだ。だから良いよ、貸すよ!』

『ありがとうございます! 前回よりももっと沢山お土産を持ち帰ります!』

『なんなら全部生で持って帰って来てよ! あのカバンで保管しておけば腐らないからさ。八重子たちが帰る時にカバンから出して持って帰れば良いんじゃない?』

『そ、それは助かります!』

『ひものもほしいわ。でももっとかるくかわかしたのがいい』

『試してみます』

『あとできればワカメも、ほしてないなまのワカメがすこしほしいわね。おねがいできる?』

『ええ、勿論です』

『貝類もあれば、あと蟹とか海老とか!』

『獲れたら持ち帰りますね』

 はしゃぐ二人を史郎は柔らかな笑顔で見つめた。


 ウィリアムは鞄を持って来ると、史郎へ使い方を教えた。

『すごい…ですね』

『便利でしょー?』

『ええ。肌身離さず持ちます』

『史郎たちが前に住んでた小屋二つ分は入るよ』

『そんなに入るのですか⁈』

『うん。あ、カゴとか袋もあったら良いよね⁈ ちょっと待っててー』

 ウィリアムは再び部屋を飛び出すと、村人達が手仕事で作った籠や藁紐、バレン袋を抱えて戻った。

『これ持ってって!』

『宜しいのですか?』

『うん! いっぱいあるから』

 税の一部として納められた手仕事の品だが、使いたい物があれば好きなだけ使って良いと言われている。売るにしても、あまり高い値段が付かないのだそうだ。

 マジックバッグに荷物を詰め、史郎は大事そうに抱えて集落へ帰って行った。普通に使わないと怪しいから肩から掛けるように言うと、海へ向かう時はそうすると言っていた。


『あー…生魚楽しみだなぁ~』

『おさしみで食べられるさかなあるといいなぁ~』

『ねぇ? あのワサビがやっと活躍する時が来るよ!』

 長野の道の駅で安かったのと物珍しさで買った、小さなおろし器付きの山葵だ。

『あったかくなったらざるそばもいいねぇ』

『そうだね。なんだかんだでまだあの生そば一回も使ってないもんね』

 信州生蕎麦四人前、麺つゆと七味付き。機会を逃してまだ食べていない物の一つだ。

『あー、ヤバーい。海の幸が楽しみ過ぎるー!』

 二人は史郎を見送った後なのにずっと日本語で会話していた。


 数日後、史郎が前回と同じ顔触れで海へ向かったと屋敷へやって来た八重子に聞いた。



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