初雪
集落から帰ったウィリアムは早速ウアとレイチェルと裏庭へ向かった。コケモモの枝を朴の木の隣に植え、回復と促成魔法をレイチェルが掛ける。ローズマリーに似たマネロ草は左側の畑、レモングラスの隣に植える。ハクベラは裏庭の右奥、石造りの塀に沿った場所に植えた。
「こんだけ離しておけば大丈夫でしょ」
「なに? もしかしてミントみたいにふえるけい?」
「なんかめっちゃ増えるってルイが言ってた」
「えー、そうなんだ」
新しい植物には回復と促成魔法を、他の植物には促成魔法を掛けるレイチェルの横で、ウィリアムは大きくなあれの舞いを踊った。
ウィリアムが水魔法と火魔法の同時使用で各浴場の用意をする。両親の使用する三階に一つ、ミセリアーテとレイチェルが使う浴場と双子が使う二階の浴場を二つ、使用人用の一階の浴場、注ぎ足し用の湯も各浴場に用意した。
「こんだけ寒いとやっぱお風呂だよねー」
ウィリアムは自室に戻り、二階の浴場が空くのを待つ。いつもはレイチェルと同じ浴場を使用しているが、休暇中はミセリアーテが共に使用するだろう。双子の使っている浴場が空くのが早いだろうかと考えつつ、バルナバートから送られた斜め掛け鞄を持ち出した。マジックバッグになっている鞄の中身を取り出し空っぽにする。大抵は空間収納に仕舞っているので大した物は入っていなかった。
「さーて、拡張しますか!」
鞄の中に両手を入れ、ウィリアムは目を閉じ心の中で唱えた。
(庭師小屋の大きさからどんどん広がって、もっともっと入るようになる――ぐんぐん、ぐんぐん大きくなーる。すくすく、すくすく大きくなーる……)
庭師小屋が膨らみ、ボワンボワンと広がっていく様を思い浮かべながら魔力を流す。暫く続け、ウィリアムは目を開けた。
「ふーっ。こんなもんでしょ」
恐らく庭師小屋の一・五倍程にはなっただろう。
ソファに腰掛けのんびりしていると、扉がノックされた。
「はーい」
部屋へやって来たのはレイチェルとミセリアーテだった。
「にぃにー」
「はいはーい。こっちおいでー」
いつものように風魔法と火魔法の併せ技で温風を出し、レイチェルの赤いくせ毛を乾かす。ミセリアーテが興味津々にウィリアムの両手を見つめた。
冷風で乾かし終えると、続いてミセリアーテを椅子へ座らせる。真っ直ぐな黒髪はサラサラで、肩甲骨辺りまでの長さだ。
「便利な魔法ねぇ」
「でしょー? 人間ドライヤーって呼んでー」
「ドライヤァ?」
「あははは! なんでもなぁーい」
レイチェルは髪をブラシで梳き、二つに分けて三つ編みにした。編み終わりの毛先に状態固定魔法を掛ける。
「僕はアレも便利だと思う」
ウィリアムはレイチェルのおさげ髪をチラリと見た。
「アレ?」
「チェリーの魔法だよ。状態固定魔法」
「状態固定魔法…」
「髪をまとめるのに便利なんだよねぇ」
レイチェルは真顔でVサインをして見せた。
「最後に冷風当てると良いんだってー」
サラサラの黒髪に冷風を当て、乾かし終える。ミセリアーテは自分の髪に触れホウと吐息を零した。
「凄いわウィル。いつもより具合が良いもの」
「んふふーありがとー」
「ねぇねもおそろいにする?」
レイチェルが自分のおさげ髪を両手で持ち上げる。ミセリアーテは笑顔で頷いた。
「んじゃ、僕はお風呂入って来るねー」
ウィリアムは着替えを持って自室を出た。
ウィリアムが風呂を終え自室に戻ると、何故か双子まで部屋に居てソファで寛いでいた。
「あれ? みんな揃ってどうしたの?」
「風呂空いたーって言いに来たらチェリーとミリーいたから」
「俺は呼ばれて」
緑茶とどら焼きでお茶をしていた様だ。
「ウィル、このドラヤキってすごく美味しいわ」
「うん、ウマい」
「じゃあみんなのマジックバッグにも入れておかないとねー」
「取って来るわ」
「俺も」
「オレも取って来る!」
ミセリアーテと双子が部屋を出て行く。
「そんな急がなくても…あ、チェリーお願いがあるんだけど」
「なに?」
ウィリアムは机に置いていた自分の鞄を取りレイチェルの前に差し出した。
「個人専用魔法剥がしてくれない?」
「いいの?」
「うん」
レイチェルは鞄を手に持ち、目を閉じた。
(こじんせっていかいじょ)
魔力を流すと、鞄からフワリと淡い光が散った。
「うん、これでもうだれにでもつかえるよ」
「ありがと!」
その後、マジックバッグを持って来た三人に包装フィルムを剥がして綺麗な布に包んだどら焼きを五個ずつ渡した。以前買った、レイチェルの掌に乗る大きさの口の広い小壺にたっぷり詰めたアカシアハチミツと、某肉屋のスパイスもそれぞれへ渡す。
「これで少しは学院でのごはんが美味しくなると良いね」
保存容器がもっとあれば他にも色々渡せるのだが、足りないので仕方ない。
ヒランが夕食の準備が出来たと呼びに来たので皆で食堂室へ移動した。
夕食はマヒディの練り込まれた黒プチパンにゴジョモを使ったポテトサラダ、スープストックで作った野菜スープとバータの丸焼きだった。
二日後、やけに冷え込むなと思いながら目を覚ますと、窓の外が真っ白に染まっていた。
「うわぁー、雪だー!」
ウィリアムとレイチェルは身支度を整え玄関を飛び出した。
「すっごい積もってる!」
「うまっちゃう!」
「おーい、おはよー」
除雪用のシャベルを持ったシファが厩舎の方から歩いて来る。
「おはようシファ」
「おはよう」
「寒いだろ? 大丈夫か?」
「少しだけだし大丈夫!」
「ゆきかき?」
「ああ。多少はやっとかないとな。親父が鳥小屋辺りからやってる」
シファは厩舎周りから雪かきをしていたようだ。
「じゃあ僕らはヌルエ小屋行こっか」
「うん」
「全部雪に埋まってるから気を付けろよー」
ウィリアムとレイチェルは屋敷の中へ戻り、裏庭へ向かった。
「おお、畑が無くなってる!」
「たまねぎだいじょうぶかな」
「冬を越して春に採れる…はずだから大丈夫だと思われ!」
雪の深さに足を取られるのに苛立ち、レイチェルは風魔法で雪を巻き上げ同時に押し固め、ヌルエ小屋までの道を作った。
ヌルエ小屋の前、柵で囲んだ広場にも雪が降り積もり小屋の入り口を塞いでいた。
「じゃあここは僕が!」
ウィリアムは風魔法と火魔法の併せ技で熱風を出し、雪を溶かした。
「チートめ!」
「うはははは!」
「ゆきかきしてるウアとシファがかわいそう」
「それはチェリーも同じだからね!」
雪を溶かし終え小屋の中に入ると、三匹が身を寄せ合って暖を取っていた。
「おー、寒いよねぇ? 大丈夫かー?」
ピギピギ鳴く三匹を軽く撫で、餌と水を補充し小屋の中を掃除する。
「ウィル坊、チェリーお嬢様、おはよう。雪は魔法でやったのか?」
藁を抱えたウアが小屋へ入って来た。
「あ、ウア。おはよー。うん、小屋の周りは僕が魔法で溶かしたー」
「そうか。ありがとう」
小屋の一部にたっぷり藁を敷き詰める。ウア曰く、ヌルエは毛皮が温かいのでこれで充分らしい。
「ククは?」
「鳥小屋も対策して来たよ」
ウィリアムとレイチェルは木々に降り積もる雪を風魔法で払い、食堂室へ向かった。
今日の朝食はミネストローネスープとカンパーニュ、チーズの入ったオムレツだった。食後はレイチェルの部屋にミセリアーテと双子も集まり、魔力循環を行う。
「魔力循環だけでも大変なんだけど…」
「普通ここまでしないんだよ」
魔力を流す速度を変えたり、他人の体に流す事は普通しないらしい。
「でも魔力押し相撲楽しくない?」
「この遊びは危険過ぎるって」
「もうムリ」
双子は床に大の字に伸び、ミセリアーテはぐったりとソファの肘掛けに倒れ込む。
「みんなへやできゅうけいしたら?」
「うん。そうだね」
「わたしはラーダのところにいってくる」
「あ、僕もー!」
ウィリアムとレイチェルは元気に部屋を出て行った。
「ヤダ…なんであんなに元気なの?」
「オレ動きたくねぇ」
「俺も」
双子が同時にくしゃみをした所で、三人はようやくノロノロ体を動かし自室へ引き上げた。




