姉弟たちの学院生活
ミセリアーテは学院の下級食堂の列に並んでいた。カウンターの上にはカトラリーとカップ、籠に山盛りの黒パンが置かれている。ご自由にお取りくださいの黒パンも、飢饉の時には一人一個と制限が掛かった。今はその制限も無い。
カウンターを進んで行くと茹でたゴジョモに厚切りベーコンが一枚添えられた皿が何十枚と並んでいる。これは一人一皿で、カウンターの内側にいる調理員が都度ベーコンを焼いては補充している。更に進むと大きなスープ鍋が三つ並んでおり、調理員がスープをよそって手渡していく。
木製トレイの上に昼食を取り、ミセリアーテは先に来ている友人を探した。食堂内を見回していると、手を振る友人を見つけた。
「お待たせ」
「少し遅かったね」
「うん。ちょっと先生の手伝いしてたから」
二人は向かい合って食事をはじめた。十人掛けの長テーブルにはテーブル毎に大き目のポットが置いてある。このポットは魔道具で、お茶が自動で補充される。カップに注ぐと、香ばしい匂いがフワリと漂った。
「ミリーは成年の祝賀会の衣装ってやっぱりお母様の?」
ミセリアーテの友人、リチュエルが黒パンを千切ってスープへ浸しながら聞いた。互いに四層に領地を持つ下位貴族で、悩み事や心配事もよく似ている。
「ええ、お母様が着た衣装を少し手直しして着る予定よ」
リチュエルが大きな溜息を溢した。
「やっぱりそうよねぇ…私は姉のお下がりよ」
「お姉様のお下がりなら良いじゃない」
「そんなこと言わないでー。成年の祝賀会くらい仕立てたいじゃない」
ぽってり厚い唇を少し尖らせる。
「私はお母様のお下がりで充分よ。それより妹に仕立ててあげたいもの」
「あー出た出た。ミリーの弟妹好き!」
「だって可愛いのよ? もう、本当にねぇ――」
「あ、噂をすれば」
リチュエルが食堂の入り口に視線を遣る。その先には双子の弟のフォルティスとエヴィニスがいた。振り向かずとも分かっているミセリアーテは、一口大に切った厚切りベーコンを口へ運んだ。
(今日の昼食は当たりね!)
噛めば噛むほどじゅわじゅわ油が染み出すベーコンにミセリアーテは薄ら口角を上げた。
「相変わらず美味しそうに食べるわねぇ」
「今日のベーコンは当たりよリーチ」
「あら、本当?」
リチュエルもフォークとナイフを手に持った。
「ミリー」
ミセリアーテとリチュエルが食事を進めていると、双子がトレイを手に近付いて来た。
「どうしたの?」
「家に手紙送ろうと思って。ミリーの分も一緒に送るか? まだウィルとチェリーに手紙送ってないだろ」
家を出て来る時に二人へ約束した手紙はまだ送れていない。手紙鳥に手紙を運んで貰うのは距離や重さによって金額が変わる。サビール領は学院からの距離がある為、決して安い額では無い。
「はい、ミリーの分」
エヴィニスがポケットから筒状に丸めた魔紙を取り出した。
「これどうしたの?」
「先生の手伝いの報酬に貰ったんだよ。それなら三人分まとめて送れるだろ? 明日出すから」
「わかった。明日の昼食で渡せば良い?」
「うん、それでよろしく」
立ち去る双子にリチュエルが手を振ると、双子もヒラヒラ手を振り返した。
「あーカワイイ…私もあんな弟が欲しかったぁ」
「あれはそんなに可愛くないわよ?」
ミセリアーテが溺愛しているのはウィリアムとレイチェルだ。双子も弟として可愛くないとは言わないが、二人とは比べものにならない。
「まぁまぁ人気なんでしょう? 私の従妹がキャーキャー言ってたわよ」
「弟の人気なんて知らないわよ…興味も無いわ」
「ええー?」
「双子だから目立ってるだけじゃないかしらね?」
ミセリアーテはスープでふやかした黒パンをスプーンで掬って食べた。
(ああ…家のスープが飲みたい)
早く休暇が来ないかと思いつつ、手紙に何を書こうか悩むミセリアーテだった。
***
翌日の昼食時、食堂でミセリアーテから手紙を受け取った双子は手早く食事を済ませ、学院内の文送署へ向かった。
「サビール領の領主邸までお願いします」
窓口で署員へ手紙三枚を手渡すと、その場で重さを計る。
「中型規定内ですね。サビール領までなので――銀貨三枚です。おいで」
待機場の手紙鳥の一羽を署員が手招きすると、バサリと大きな翼を広げ飛び上がった。数度の羽ばたきで署員の元へやって来て止まり木へ止まる。
文送署の手紙鳥には体の大きさや特徴に合わせて手紙を入れる為の鞄や足筒がある。署員は手紙鳥の大きさに見合う鞄を選んで手紙を入れると、魔鳥の首から細長い鞄を引っ掛けた。鞄の下部から垂れるベルトを翼の下で留める。何ヶ所か引っ張り、しっかり留まっているか、弛みは無いかを確認し一つ頷く。
「出発させますが宜しいですか?」
「はい」
「お願いします」
双子に確認後、署員は手紙鳥に「行け」と手を振った。バサバサと大きな羽音を立て天窓から鳥が去る。二人は飛び立つ鳥を見送り、教室へと戻った。
***
サビール邸、執務室――コンコン、と窓を叩く音に三人の視線が集まった。
「手紙鳥ですね」
出窓台に佇む魔鳥がまたコンコンと嘴で窓を叩いた。
ドランが窓を開けると、鳥が胸を張る。首に掛けられた鞄から手紙を取り出すと、手紙鳥は「ケーッ」と一鳴きして飛び立った。
「学院のお三人からですね」
ザっと手紙を検分し、バルナバートへ差し出す。
「どれどれ」
サンテネージュも横から手紙を覗き込み、一緒に読み始める。
「――ウィルとチェリーへのお手紙ね」
「そうみたいだね。僕たちには少しも無しかい?」
バルナバートは寂し気に眉根を寄せた。
「ふふっ、それならバルには私が書きましょうか?」
「ああ、久しぶりに恋文も良いね。僕も返事を書くよ」
「あら――」
見つめ合い、甘い空気を醸し出す夫婦にドランはわざとらしい咳払いをした。
「お手紙をお預かりしてもよろしいですか? お二人に届けて参ります」
「うん、頼むよ」
バルナバートから手紙を受け取り、ドランは執務室を出た。
ふーっ、とつい息を吐き出す。
「本当にレイチェル様に妹か弟が出来そうですね…」
手紙を運んだ後は暫くどこかで時間を潰そうと思う執事だった。




