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異世界幸福生活譚~幸せへの帰り道~  作者: 友利 円


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ルイマチスの過去といつか




 ルイ・マチスは港町で生まれた。


 父親は伯爵家の三男で、平民と結婚し貴族籍を抜けた身だ。貴族籍は抜けたが、兄の継いだ領地にある別荘とその土地を受け継ぎ、姓を名乗る事を許された。

 父親は小さな商店を母親と二人で営んでいた。兄と姉が一人ずつ、一番下がルイだ。


 ある日、友達と浜辺で遊んでいた所を袋に詰められ、船に乗せられた。同じ船に乗っていた友達は先にいなくなった。


 別の船に乗せられ、暫くしたらまた違う船に乗せられた。

 船で一緒に囚われていた人たちは、ルイの知らない言葉ばかり話した。

 檻の向こうの人間も、知らない言葉を話している。ルイは怖いし心細いしでずっと怯えていた。何を怒鳴られても理解出来ない。だから怒鳴らないで欲しい。


 人が減っては、増える。どこからか連れられて来る。

 

 嵐に遭って船が壊れた。ルイは泳ぎが得意だったので、なんとか船からは脱出出来た。

 浮いた木に掴まり、死にたくない…死にたくない…生きていたらまた家族に会えるかもしれない――何度も力尽き、海の底に沈みそうになりながらそれだけを思った。


 気が付いた時には、牢に一緒に閉じ込められていた男がルイを背負ってくれていた。

 言葉は分からない。でも、怒られてはいない。優しい響きだ。

『大丈夫だ、大丈夫だよ。絶対助かる。君だけは助けてみせるからな』


 食べる物も水も無く、人を探して歩いた。

 空腹で、何度も歩けなくなった。ルイが歩けなくなると、男達が代わる代わる背負ってくれた。

 どんどん骨が近くなる背が辛かった。誰一人満足に食べらていないのに、少ない食べ物をルイの口へ入れてくれる。


 ごめんなさい、ありがとう、ごめんなさい、を心の中で繰り返した。


 お腹が空いた。みんなが食べられる食べ物が欲しい。みんなで生きたい。なにか、なにか食べられる物は無いか。


 毎日毎日、食べ物を探した。そうしていたら、急に食べられる物が分かるようになった。

 道に生える草を、木になる実を、土に埋まる根を――

 見つけたら皆で食べた。食べられない物や毒のある物を間違って採って来られた時は必死で止めた。言葉が通じなくてもどかしかった。


 ようやく人のいる村に辿り着いたけど、そこには住めなかった。最初は草の上に藁を編んだものを敷いてみんなで寝た。少し寒くても、くっついていれば温かかった。その内藁で編んだかぶるものも作れた。

 

 何人か村から人がやって来て、小屋を三つ建ててくれた。

 少し狭いけど、屋根と壁のある所で寝るのは久しぶりで、ぐっすり眠れた。


 時々食料を貰えるけれど、それでは到底足りなかった。けれど、食料をくれる人も自分達程じゃ無いが痩せていて、これが精いっぱいなんだと皆が理解していた。


 人の居る村からは離れていたが、山に恵まれ助けられた。水も食料も、籠や皿の材料もある。

 ルイは頑張って食べられる食料を探した。一度見つけた物は分かる。でも、新しい食料を探すのはとても大変だった。疲れて、時々頭が痛くなる。


 一度、食料が減って来たからもっと食べられる物を探そうと頑張ったら、山の中で倒れてしまった。数日間寝込んだら、白いドロドロの食べ物を食べさせられるようになった。

 白いドロドロは、少しずつ硬くなって、粒になった。

 皆が幸せそうに食べている。

 ルイもお腹いっぱい食べられるようになって幸せだった。食べた事の無い、変わったスープや味付けの料理だったが、美味しかった。


 ある日、自分と同じか少し下の男の子と、もっと下の女の子がやって来た。二人共綺麗な顔で、いとこたちを思い出した。

 久しぶりに子供を見て、少し嬉しかった。


 その二人が、同じ言葉を話せると知った時は嬉しくて、安心して、泣いた。ずっと誰とも話せなくて心細かった。

 みんな優しくしてくれるけど、言葉が伝わらないもどかしさを何度も味わった。

 いつかもしかしたら、家族に会えるかもしれない――ルイの心に希望の火が宿った。


 史郎や八重子たちの話す言葉を、ウィリアムとレイチェルが少しずつ教えてくれる。

 ちょっとだけ、みんなが何を言っているのか分かるようになって来た。みんなもルイに気を遣い、ゆっくり話してくれる事が増えた。

 ウィリアムとレイチェルが居なくても、誰かが言葉を教えてくれる。ニホンゴを、教えてくれる。


 ルイの食材を見付けられる力は、使っても良いけど話してはいけないと言われた。

 いつか話せる日が来るから、それまではウィリアムとレイチェルとだけしか話してはいけないと言われた。また攫われるかもしれない――そう言われてルイは怖かった。

 もうあんな思いはしたくない。

 ここで生活して、ウィリアムとレイチェルが話す言葉も覚えて、いつか――いつの日か。あの港町に帰るんだ。

 

 ルイはすこしでもウィリアムとレイチェルの力になって、二人に色々教わりたいと思っている。

 家族に会う為、家に帰る為には、頭が悪くちゃいけない。

 勉強して、賢くならないときっと帰れない。

 二人も、時々やって来る男の人たちも優しい。優しいから、悪い言い方をするなら【利用させて貰う】

 

 利用して、賢くなって、家に帰る力を付けて。

 そして恩返しするんだ。ウィリアムとレイチェルの二人に、シファとウアの二人に、助けてくれた領主さまに。

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