神の混合
それは神のほんの気まぐれであった。
たまたま覗いた下界、とある星のとある国が薄暗い靄に包まれていた。
〖おやおや、どうしたのかねぇ?〗
少し遡って見てみれば、飢饉で人が死に、病で人が死んでいた。
〖ほんとうに、なんとか弱き生き物よ〗
別の世界の小国で手に入れた、お気に入りの酒を呷りながら神はゆっくり下界を鑑賞する。
ふと、キラキラ輝く塵に目が留まった。よくよく観察すると、幼子二人の魂の欠片であった。
〖ほう、なんと清廉な魂だこと。余の眷属に迎え入れようか?〗
神は良いものを見つけたと、この星を任せている自分の息子を呼び出した。
〖お呼びですか父上〗
〖ああ、久しいなフォルトゥよ〗
〖ほんの数百年ぶりではないですか。それで? 呼び出した理由は?〗
〖可愛くないのぅ〗
神はわざとらしい溜息を吐き、顎をしゃくって示した。
〖あの魂を迎えに行ってくれ。余の眷属に迎える〗
〖まったく……仕方ないですね〗
息子フォルトゥは父の願いを叶えるべく、魂の欠片が上る場所へ転移した。
そしてすぐに戻って来た。
〖父上、やめましょう。可哀想です〗
〖むっ? 可哀想?〗
〖ええ。枯れ木の様に瘦せ細って、苦しいだろうに恨み言一つ言いません。あんなに健気な幼子二人を家族から引き離すのは可哀想です〗
〖でもなぁー。もうすぐ死ぬし?〗
〖父上であれば死人でもどうにか出来るでしょう?〗
神はむーんと唸り、目を閉じた。
〖肉体は弱り切っておるのぉ。それに、魂の力も随分弱々しい。これではあの身体に戻しても長くは持たんよ〗
〖そこをどうにかするのが大神でしょう。と言うかどうにでも出来るの知ってますよ?〗
〖眷属に迎え入れたかったのにぃー。ぴえん〗
お気に入りの世界で覚えた言葉を呟く父を息子は冷たい目で睨み付けた。
〖ほら、さっさと奇跡起こして下さいよ。あ、もう。死んじゃったじゃないですか〗
〖このまま眷属に——〗
一層鋭い目で睨み付けられ、神は言葉を飲み込んだ。
〖まったく。余は大神ぞ。そんなに怖い顔で睨まんでも良いのに。おー怖い、怖い〗
〖早くしないと魂が循環の輪に組み込まれますよ?〗
〖むぅ……仕方ない。どれどれ——〗
神は幾つかのお気に入りの世界に意識を巡らせた。その中のひとつ、地球という名の星の日本という小国で、時を同じくして姉弟が手を取り合い死んだ。
〖おぉ……これは、丁度良い。こっちの魂は実に強く逞しい。姉弟仲が良いのもピッタリじゃないか! むふふふ。これはアレか? ニホンで流行っていた【異世界転生モノ】というヤツ! チート! オレツエーとかの! ならばそれ相応の能力を——〗
〖父上? 余計なことをしようとしていませんか?〗
〖異世界転生にはチート必須だもん!〗
〖だもん、じゃありません! だもんじゃ! 可愛くも無い! あっ、コラ! 止めなさい! 余計な事はせずにサクッと混ぜ合わせて生き返らせるだけでいいんです!〗
〖えー。余それじゃツマンナーイ〗
〖つまんないじゃありません! 母上に言い付けますよ!〗
息子からの脅しに父神はビクッと肩を跳ねさせた。
〖わかったならほら。早く魂混ぜ合わせて奇跡起こす〗
妻とそっくりの顔をする息子フォルトゥに言われ、神は渋々姉弟達の魂を混ぜ合わせた。酢と油を混ぜ合わせてドレッシングを作るように、少しずつ少しずつ。分離しない様に。四つの魂をそれぞれ二つに。
神に掛かればあっという間だ。すぐに終わり、神は息子を見やった。
〖フォルトゥ、魂は混ぜ合わせてあの子らの肉体に戻したよ。お前が行って、あの子らに少しばかり加護を与えてやりなさい。魂が強くなっても肉体がアレではすぐに死んでしまう〗
〖やれば出来るではありませんか父上〗
〖大神じゃもん。しごできの〗
〖ちょっと何を言ってるか分かりませんが行って参ります〗
息子が転移で去ると、神はむふふと笑った。
〖フォルトゥがうるさいからあんまり能力授けられんかったけど……まぁ、ニホンの子らの能力元から高かったし、記憶もそのまま残したし! 楽しみが増えたねぇ。さて——フォルトゥが気付く前に逃げるとするか〗
言うが早いか神の姿は忽然と消えた。
——同時刻、日本の北海道は函館に美丈夫が現れる。