新入り
二度目の出稼ぎから帰ったその日は両親とゆっくり夕食を摂り、早めに休んだ。翌朝、朝食を終えた後で使用人達と一緒に貨幣の塔を作り売り上げの確認をした。
「中銀貨十枚、銀貨三十二枚、銅貨四百三十枚、そして――金貨一枚」
ドランが金貨をチラリと見た。
「屋台で金貨、かぁ…」
「領主邸の事務官ねぇ…」
両親が目を見合わせ困った顔をする。
「ブーシ村に行くのはしばらく控えようかなぁって思ってる」
「その方が良いだろう」
「馬もククも増えたし、史郎の集落の方も気になるし」
「ルイににほんごおしえなきゃね」
「そうそう。それに僕たちの言葉も覚えて欲しいんだよねぇ」
「こどもならいける」
「ウィル、チェリー…二人が色々頑張ってくれてとても助かってるし、父さまも母さまも二人を誇りに思う。でも――そんなに頑張らなくて良いんだよ?」
「ええ。二人がやりたい事はやっていいの。父さまも母さまも応援するわ。でもね、二人はまだ子供なの。もっと遊んでもいいの。わがままを言っていいの」
ウィリアムとレイチェルは目を見合わせた。
「うん、わかった」
「わがままいう」
二人は大人しく頷いた。
使用人達に手当を支払い、レイチェルの部屋へと引き上げる。
ソファに腰を下ろし、二人は同時に息を吐いた。
「なんか心配させちゃったみたいだねぇ」
「ねぇー。こどもだけど…ねぇ?」
「そうなんだよなぁー。子供だけど子供じゃないからなぁ」
「でもやりたいことはやっていいって」
「やりたいことやってるんだけどね」
「ね?」
***
昼食後、シファがクク小屋に新入りたちを連れて行くと言うので一緒に付いて行った。
「ケンカするかな?」
「まだ雛だから大丈夫だとは思うんだけどな」
小屋に入るとベガが寄って来た。
シファの抱える木箱が気になるのか、ジッと見つめている。
「ベガ、怒らないでね?」
「イヤならこの子たちは違う小屋で飼うから」
シファがしゃがみ込み、そっと木箱の蓋を開けた。六羽の雛がピィピィ鳴いている。
ベガは動かず雛を凝視する。そんなベガを三人は静かに見守った。
ゆっくりと、ベガが顔を近づけ嘴で雛を咥えた。
「あっ――」
手を伸ばしたレイチェルをシファがそっと止める。
「大丈夫だから」
雛の首を咥え、箱から外へ出す。一匹ずつ咥えて外に出し、ベガは三人を見た。
――クェーッ!
任せろ、とでも言ってくれているのだろうか? 小屋の中をウロウロ歩き回る雛を後ろからちょこちょこ追いかける。
「大丈夫そうだね」
「ベルは平気かなぁ?」
寝床を見上げると、ベルが首を伸ばして様子を窺っていた。
「ベル? いやじゃない?」
――コケッ
短く鳴いた。
「そろそろベルの雛も生まれるからな。大丈夫だよ」
「楽しみだなぁ」
「うん」
暫くベガや雛たちと戯れ、三人は鳥小屋を出て厩舎へ向かった。
マンマの隣の馬房にニュウセは入れられていた。案外仲良くやっているのか、二頭とも扉から顔を出し
近付けている。
今日は新入りの魔馬、ニュウセに名前を付ける予定だ。レイチェルは「ニートでいいんじゃない?」とかなり冷たい態度だった。
「おい、ニートうま。ここではひとをのせないとかワガママいったらばさしにするからな」
「チェリー」
「ばさし?」
シファが首を傾げる。
「なんでもないよ」
シファが馬房の戸を開け黒馬を出した。
「ほら、お嬢怒らせんなよ?」
ブルッと鼻を鳴らし首を縦に振っている。
「で、名前どうする?」
「わたしはなんでもいいよ」
「うーん…クロ?」
「あんい――」
「やっぱり? シファはどんな名前が良い?」
「オレ? うーん…ムクフってどうだ? 気高いって意味」
「さんせい」
「うん、僕も賛成! 今日からおまえはムクフだよ!」
「ムクフ、人を乗せられるように頑張ろうな?」
気高き彼女は「グルルル」と低く鳴いた。
***
二度目の出稼ぎから帰宅し、二人がのんびり過ごしていたある日、ウアが部屋を訪ねて来た。
「どうしたの?」
「鳥小屋においで」
「もしかして!」
ウアはコクリと頷いた。
二人はウアを部屋に置き去りに鳥小屋へ走る。勢いそのまま小屋へ突入しそうになり、一旦気持ちを落ち着けた。
そっと扉を開け、中へと入る。
――クーケッ!
ベルが寝床から羽ばたき二人の足元に着地した。
「ベルの子はどこ?」
小屋を駆け回る雛の中には見当たらない。
「たなのうえ? おちない? だいじょうぶ?」
「上だと見えないなぁ」
遅れて鳥小屋へやって来たウアに抱き上げて貰い、二人はそっと覗き込んだ。
「ちーっちゃぁい…」
「かわいい…ふふっ。おたんじょうびおめでとう」
「暫くは寝床から出ないで過ごすんだよ」
「おやからごはんもらうんだね」
「そうだよ。だからもうしばらく寝藁はそのままにだ」
「うん」
「わかった」
ウアはそーっと二人を下ろした。雛が増えた為、足元に気を付けないと踏んでしまいそうになる。
バサバサと羽音がし、三人は顔を上げた。壁の上部、出入り用の小窓の枠にベガが止まっている。外に出掛けていたようで、もう一度羽ばたき寝床に着地した。
「餌をあげてるんだな」
「えさ? あるのに?」
「ミミズとか虫を雛にはあげるんだよ」
「え、じゃあ僕たちも掴まえて来た方がいい?」
「いや、これは親鳥の仕事だ」
今度はベルが小窓から飛び立って行く。
「ベルもいったのかな?」
「そうだよ。ああやって交代しながら餌をとって来るんだ」
「りっぱなふうふ」
「そうだな」
ベガは飛べるようになってから、屋敷の周りを中心に見回りをするようになった。
雛への餌を獲りながら、今日も上空から見回りをする。
見慣れぬ魔物を見つけ、スイーと近付き近くの木から観察する。
自分たちの世話をよくしてくれる男が黒い魔馬にブラシをかけていた。
なんだか気に食わない――
魔馬を睨みつけていると、あちらも気配に気付いたようだ。
ブルルと鼻を鳴らし、得意気な顔をして見せた。
――キョッケェェェェ!
怒りに任せ魔馬へ跳び蹴りを食らわせた。
「うわっ! ちょっ、ベガ! おいっ!」
男が止めるのも気にしない。
蹴り、突き、羽で叩く。
魔馬も負けじと前足を高く上げ応戦した。
――クァァァァッ!
――ヒィィィィィン!
数分後、一羽と一頭は互いに息を切らしていた。
オマエ、なかなかやるな。
おまえもな。
一羽と一頭の間に確かな友情と、固い絆が生まれた――。




