はじめての出稼ぎ②
「美味しい軽食はいかがですかー! 甘い軽食もありますよー!」
シファが声を張り上げ呼び込みをする。
少し早いが、昼時近い時間だ。小腹を空かした人も居るだろう。
レイチェルはガレット生地を一枚取り、レタスとたまごフィリングを中心に向かって逆三角形になるよう、上側四分の一に盛り付けた。下側の生地を一センチ程下にずらして具材側へ折り重ね、右側の余った生地を折り曲げそのままくるくる左へ転がし巻き上げる。朴葉で包めば完成だ。それを隣の女性店主に差し出した。
「これどうぞ!」
「あら、良いのかしら?」
女性店主、ミンツがチラリとシファに視線を向け窺う。シファは笑顔で頷いた。
「ちょうどお腹が空いて来たところだったの~。ありがとう、いただくわねぇ」
「たまごのクレープです」
「クレープ?」
「このたべもののなまえです。おねえちゃんがかんがえてくれました」
大嘘である。何か言われたら全て「おねえちゃんのせい」にする事に決めている。
ミンツは小さく一口齧った。
モグモグと咀嚼し、二口目は大きく齧った。無言で咀嚼が続く。三人はミンツの反応を静かに待った。
とうとう無言のままミンツが食べ終える。
「どうでしたか?」
「え、ええ。すごく美味しかったわ! あの、お金を払うからおかわりを貰っても良いかしら?」
「他の味もありますよ! そっちにします?」
シファが笑顔で尋ねると、ミンツはコクリと頷いた。
「あ、これに巻いてちょうだい」
朴葉を差し出してくれたので、ありがたく再利用させて貰う。
ウィリアムがレタスとトマト、サラダチキンを巻きペアサンのクレープを作った。
「いくらかしら?」
「銅貨五枚です」
ぴったり銅貨五枚をシファへ支払う。ミンツはペアサンのクレープを受け取ると、大きな口で一口齧った。二個目もペロリと平らげる。
「美味しかったわ~。ごちそう様!」
「またお腹空いたら甘いのもあるので是非どうぞ!」
「甘いの?」
「はい。アムの甘煮のクレープです」
シファの営業にミンツはそろりと視線を泳がせた。
「あの、あとで絶対食べたいからひとつ取っておいて貰える?」
「ミンツさんありがとう!」
「うれしい!」
ウィリアムとレイチェルの笑顔にもすっかり絆されてしまったミンツだった。
少しして左隣りの区画に老人男性がやって来た。老人男性は慣れた手付きで台の上に自前の棚やら木箱を置き、布を敷いて品物を並べて行く。売り物は金属の加工品だった。髪飾りやバングル等の装身具からフォークやナイフ等のカトラリー類と品揃えはざっくばらんだ。
ウィリアムはたまごクレープを作ると準備を終え丸椅子に腰かけた老人男性へ差し出した。
「こんにちは。今日はお隣よろしくお願いします。これは僕達が売っている食べ物です。よかったらどうぞ」
「ああ、こんにちは。なんだ? 良いのか?」
「はい。たまごと葉野菜を薄い生地で巻いた軽食です」
少々厳しめな顔つきの男性はウィリアムからクレープを受け取った。
大口を開け一口食べる。
「ウマい!」
その声量にウィリアムはビクッと肩を竦めた。
「ウマいな! おい坊主! これは幾らだ⁈」
「一つ五銅貨です…」
「持って帰れるか?」
「えーっと、持ち運び出来る入れ物がありません」
「それは自分で用意する! 持って帰れるか⁈ 孫に食わせたい!」
「おじいさん、おうちまでどれくらいかかる?」
レイチェルがヒョイと横から覗き込み尋ねる。
「おう! 可愛い嬢ちゃんだな! 孫の嫁に来るか⁈」
「いかないわ。おうちまでどれくらい?」
「一の半折くらいだ!」
(一時間半なら…だいじょうぶね)
「それならもってかえれるよ」
「そうか! じゃあ五つ取っておいてくれるか? 金は先に払う!」
「後で良いですよ!」
「む、そうか?」
「おじいさん、アムを甘煮にしたのもあるけどどうする?」
トマトの入ったペアサンのクレープは水分が多いので持ち帰りには向かないだろうと除外する。
「じゃあそれとさっき食ったの三つずつだ!」
一つ増えたが良いだろう。
「持って帰れるならわたしも追加して良いかしら?」
「ミンツさんも?」
「ええ、家族に」
「はい、どうぞ。材料は取っておきますね」
ウィリアムが頷くと、二人は大変満足そうに笑顔で礼を述べた。
イラスト入りのメニューが珍しいのか、行き交う人の目が止まる。しかし遠目に見るだけで購入には至らない。見た事の無い食べ物に対し警戒心もあるのだろう。
シファは笑顔で呼び込みを続ける。
「ここいらに食いモンが出んのは珍しいな」
「そうなの?」
「ああ。野菜やスパイスなんかは出るけどな。食いモンはもっと前の方か逆に後ろが多いな」
「僕達は火を使わないからかな? 材料も家で作って持って来てるから」
「かもしんねぇなぁ。坊主たちはどっから来たんだ?」
ウィリアムはシファを振り返った。
「サビール領です」
特筆すべき事が無いのか老人男性、デーンは「そうか」と言うだけだった。
「デーンさんはどこから来たの?」
「おれはモズレンだよ」
「モズレン?」
「三層の端っこにある領地だよ」
「ふ~ん」
丁度デーンの店に客がやって来たので話を切り上げた。
「この絵は誰が描いたんだ?」
「おねえちゃんです」
「上手いねぇ…肖像画は描かないのか?」
レイチェルは小首を傾げ「わかんない」と答えた。
「お兄さん、一つどうです? うまいですよ?」
シファが笑顔で尋ねると、中年男性は眉間に皺を寄せた。
「一つ五銅貨だろ? そんなら肉串食いてぇなぁ」
「ペアサン入りはどうですか? 初めて出すんですよ店」
「おじさん」
レイチェルは中年男性を見上げ、ジッと見つめた。
「んぅ――わかった! このカワイイ嬢ちゃんに免じて一つ買ってやる!」
「毎度あり~。ペアサン入りで?」
「ああ」
金のやり取りをしている間にレイチェルがペアサンのクレープを作り、葉で包んだ。
「おじさんどうぞ!」
「おお、ありがとよ」
暫し眉間に皺を寄せクレープを眺め、意を決したように一口齧った。
「おう! ウマいじゃねぇか!」
「だろー?」
「もう一個くれ!」
「違う味もありますよ?」
「じゃあその卵んヤツだ!」
「毎度ー」
一つ食べ終えた男性がシファに金を払う。
次のたまごクレープはウィリアムが作った。
「ウマい! この味はなんだ⁈」
まるでサクラである。
「えへへ、内緒だよ~」
中年男性はまた出店するなら買うと告げ去って行った。
ポツポツと注文が入りはじめた。
「ペアサン一つですねー」
レイチェルが作る。
「お次はたまごとペアサン一つずつ。銀貨一枚です」
「ペアサンはわたしが」
「僕たまごね」
二人で一つずつ仕上げ、母と息子の親子連れへ手渡した。
丁度昼時となり、人通りは更に増える。
そこかしこから呼び込みの声が飛び交い、これぞ市場と言った賑わいだ。
「美味しい食べ物はいかがですかー! 皮はモチモチ! 味は一級! アムの甘味もありますよー!」
ウィリアムも負けじと声を張り上げる。
「パパ、アムの実だって」
「食べたいのか?」
「うん」
綺麗な身なりの父と娘が店先へやって来た。
(よし、掛かった)
「クレープ? 初めて見るなぁ」
「初出店なんですよ。どれにしますか?」
娘はレイチェルより一、二歳年上と言った所だろうか。
「アムの実と、たまごを貰おうかな」
「銀貨一枚です」
ウィリアムがアムの甘煮クレープを作って女の子へ差し出した。
「はい、アムの甘煮クレープです!」
女の子は頬を赤らめ、モジモジしつつクレープを受け取った。
(にぃに、こんな小さい子を)
横目に見ながらたまごクレープを仕上げ、レイチェルが父親へ手渡す。
「ありがとう。お手伝い出来て偉いねぇ」
親子が去ると、シファがポソリと「護衛付きだったな」と呟いた。二人は気付かなかったが、親子の後ろに二人付いていたらしい。
「貴族?」
「いや、多分大店の商人とかかな」
「ふーん」
材料を補充しながらウィリアムは親子の去った方に何気なく視線を遣った。
それから忙しなく注文が入り、注文を聞き会計するシファもクレープを仕上げる二人もてんてこ舞いだった。
「おう、ウマいって聞いたぞ! このたまごんヤツくれや」
「銅貨五枚です!」
「アムの二つくださーい」
「銀貨一枚でーす」
「注文と会計は左でお願いしまーす!」
せっせと注文を捌く。
「にぃにたまごほじゅう!」
「ハイ!」
漸く落ち着いたのは、根の刻二の半(午後一時)を過ぎた頃だった。
「つ、つかれた…」
「ほら、こっち座って休憩してな」
シファが丸椅子にレイチェルを座らせる。木箱を二つ詰みテーブルを作り、ウィリアムが木彫りのカップへ冷ました緑茶を注ぐ。
「お腹空いた? ごはんは?」
「クレープはイヤ…」
見過ぎ、作り過ぎでクレープは食べたく無かった。
「焼きおにぎり食べる?」
「うん。ひとつでいい」
「わかった」
ウィリアムは木箱の前にしゃがみ込み、空間収納から焼きおにぎりを一つ取り出した。小さな木皿も出してレイチェルへ渡す。
「ゆっくり食べてね」
「ありがとう」
醤油だれを混ぜて握り、フライパンで焼きながらたれを重ね塗りした焼きおにぎりはほのかに温かい。香ばしい醤油の匂いにレイチェルのお腹がクーッと小さく鳴いた。
小さな口でモグモグ焼きおにぎりを食べるレイチェルは横目で他の屋台を見渡した。
(りったいてきにちんれつするのはアリね。つぎのさんこうにしよう)
焼きおにぎりを食べ終えると、桶の水で手を洗いウィリアムと交代した。
「アムの実の二つくださーい」
昼時を過ぎたからか、甘いアムのクレープの注文が増えた。
りんごのコンポートを五切れ巻いただけのクレープだ。生クリームもカスタードクリームも入っていないクレープを、他の二つと同じ金額で売って良いのか悩んだウィリアムとレイチェルに「もっと高くてもいいくらいだ」と大人達は豪語した。試食で作ったコンポートよりも砂糖の量を減らし、同じ金額で売る事にした。
立て続けにアムの甘煮クレープの注文が入る。減って来たコンポートをウィリアムが補充し、シファと休憩を交代した。
「にぃに材料ってあとどれくらい?」
「んー、まだ出してない分はー、たまごがそのお皿二杯分くらい。レタスとトマトはあと二十食も無いね。コンポートは小鍋にいっぱいあるよ。サラダチキンはもっと」
台の上の食材は一つに纏めた。
「もう少ししたら片付けような」
シファが焼きおにぎりで頬を膨らませながら言う。
「もう? 早くない?」
「帰り道暗くなるだろ」
「ああ、そっか。うーん、売り切れなかったか」
ガレット生地は三百枚程用意した。空間収納に入れておけばいつでも使えるから多いに越した事は無い。流石に他の食材はそこまで多く用意しなかったが、各五十食は下らない量は準備してある。
「あの!」
声を張り上げたのは父親と来ていた身なりの綺麗な女の子だった。
「あ、いらっしゃい! さっきも来てくれたよね? 美味しかった?」
ウィリアムが訊ねると、女の子は顔を赤くしてコクコク頷いた。
「すごく、おいしかった…パパのも、すこしもらったの」
「そう! もしかして美味しかったって伝えに来てくれた?」
「うん、えと――」
女の子が言い淀んでいると、後ろから女性が声を掛けて来た。
「持ち帰りをお願いしたいのですが出来ますか?」
四角い手提げのバスケットを持った、お仕着せのワンピースに身を包んだ女性だ。商家に勤める従業員かメイドだろう。
「あまり長い時間だと皮に水分が沁み込んじゃいますけど」
「時間はそんなに」
「そうですか。なにをご用意しましょうか?」
女性は女の子に視線を遣った。
「えっと、アムのを五つ。それとパパのは――」
「たまごかな?」
「はいっ、そ、それも五つ」
「ペアサンのも五つ貰いましょう」
「全て五つずつでよろしいですか?」
横で注文を聞いていたレイチェルはもうクレープを巻きはじめている。
「はい。こちらに入れて貰えますか?」
シファが女性からバスケットを受け取る。
「全部で中銀貨一枚、銀貨二枚、銅貨五枚です」
「こちらでお願いします」
女性が出したのは大銀貨一枚だった。本日一番大きな貨幣だ。
「銀貨二枚と、銅貨五枚のお返しです」
手の平に並べ、しっかり見せてから釣りを渡す。
「計算が早いのですね。こちらはあなたとそちらのお嬢さんに」
ウィリアムの手に銅貨二枚が戻される。チップの様なものだろう。ウィリアムは笑顔で受け取った。
「にぃに手伝ってー」
銅貨を胸ポケットに仕舞い、手を洗ってたまごクレープを作りはじめる。ウィリアムの前に女の子が立ち手元と顔をチラチラ見ていた。
「じょうず、です」
「ありがとう」
巻き上げたクレープを朴葉で包み、シファが持ち構えるバスケットへ入れていく。レイチェルがペアサンのクレープを作り終え、ウィリアムも最後の一つを仕上げた。
「はい、出来ました。少し重いのでお気を付けて」
シファが女性へバスケットを手渡す。
「ありがとうございました!」
「またきてくださいね!」
女性と手を繋ぎ、女の子が帰って行く。チラチラ振り返る女の子にウィリアムとレイチェルは手を振った。女の子も恥ずかしそうにしながら小さく手を振る。
「かわいい~」
「かわいいなぁ」
二人の声が被った。
「はつこいかしら?」
「やだー、僕あんなかわいい子の初恋奪っちゃった?」
「ふふふっ、かもねぇ」
「丁度良いし店じまいするかぁ」
「そうだね」
「ミンツさん、そろそろ店じまいします。持ち帰りはどうしますか?」
シファが訊ねると、右隣の女性店主、ミンツは悩んだ。
「うーん…ペアサンのも持ち帰り出来るかしら?」
「だいじょうぶですよ」
レイチェルが笑顔で頷く。ウィリアムは小声でレイチェルに訊ねた。
「チェリー?」
「だいじょうぶ。じょうたいこていする」
ウィリアムが目を丸くする。
「そんなのいつからできるの?」
「ちょっとまえから。でもまりょくつかうからにぃにのほうがべんり」
レイチェルの状態固定魔法は継続させる時間によって使用魔力が増える。掛ける際に持続時間を指定する方法でレイチェルは使っている。
「おみせはいつまで? なんじかんごに食べますか?」
「そうねぇ~…日の刻二の折(午後六時)頃かしら?」
レイチェルがムムッと眉根を寄せる。
「チェリー、四時間後くらいだよ」
「わかった」
「それじゃあアムを二つ、ペアサンとたまごをひとつずつお願い出来る?」
ミンツは銀貨二枚をシファへ手渡した。
「入れ物はありますか?」
「布でも良いかしら?」
「汚れても問題無いのなら」
「ええ、大丈夫よ。これに包んで貰える?」
生成り色の少しごわつく布を差し出した。
「ご用意しますね」
木箱の上に布を広げ、二人が作ったクレープを置いて持ち手が出来るように袋状に結ぶ。レイチェルは両手に持ち、こっそり四時間の状態固定をかけてミンツへ差し出した。
「どうぞ。 やさいのおみずでべちゃべちゃにならないうちに食べてください」
「ええ、ありがとう」
「おれのは木箱に入れてくれるか?」
デーンは小さめの木箱を差し出した。
「アムを三つ、たまごを三つで頼む」
「デーンさんはいつ頃食べる? それによって包み方変えたりするんだ」
「そうなのか?」
「うん。水分が皮に染みないようにね」
「おれは日の刻二の半折(午後五時半)くらいだ」
「わかった!」
クレープ六つを作り、レイチェルに「三時間半だって」とこっそり囁く。箱の中を整えるフリをして、三時間の状態固定を掛けた。
「はい、どうぞ。お孫さん喜んでくれると良いね!」
「ありがとなぁ。あの柔らかい生地なら喜んで食ってくれるさ」
「あー…パン硬いもんねぇ」
孫がどれくらいの年齢か分からないが、黒パンの硬さはよく理解出来る。
シファがテキパキ台の上を片付けている間、二人は区画の間から表へ出てミンツの店を物色した。レイチェルの目が軒先からぶら下がっている半円のポシェットに留まる。子供用のポシェットで、赤味の強い橙色の布地は厚めの生地だ。肩蓋と紐に白い糸で小さな鳥の刺繍が入っている。
「ミンツさん、それみせて」
レイチェルはポシェットを指差した。ミンツがポシェットを取り、肩紐を結んでレイチェルへ渡した。
「紐が地面につかないように気を付けてね」
「はい」
木の実を加工して作られた丸いボタンを外すと、内側に小さなポケットが一つ付いていた。
「これ欲しいの?」
「うん」
「ミンツさんこれはいくらですか?」
「中銀貨一枚と銀貨二枚だよ」
「じゃあこのカバンと、この巾着二つください。チェリー、どの色にする?」
ズラッと平置きに並べられた小さな巾着袋をウィリアムは指差した。
「わたしこれだけでいいよ」
「お財布がわりだよ? いいから選んで」
ウィリアムはレイチェルのポシェットと同じ布で作られた巾着を選んだ。
「これにする」
灰色っぽい白の巾着を指差す。ミンツはポシェットと巾着二枚をまとめて持った。
「一番小さい巾着は銀貨一枚だよ。合わせて中銀貨一枚と銀貨四枚。だけど、巾着の分はまけてあげる」
「いいの⁈」
「お手伝い頑張ってたからね~。中銀貨一枚と銀貨二枚よ」
「シファー」
「はいはい。まけてくれてどうもありがとうござます」
シファが売り上げから金を払うと、ミンツはレイチェルへポシェットと巾着を差し出した。
「ありがとうございます」
両手を伸ばして受け取りレイチェルがポシェットを肩から掛けると、ウィリアムが紐の長さを調整した。
「にぃにありがと」
「これはさっき貰ったチップだよ」
女の子に付き添っていた女性から貰った銅貨を一枚レイチェルの巾着へ入れ、ポシェットに仕舞う。自分用の巾着にも銅貨を入れて胸ポケットに突っ込んだ。
「じゃ、そろそろ行くか」
「はーい」
区画の間から店側へ戻る。ミンツとデーンに別れを告げ、商業者ギルドへ戻るべく三人は区画を後にした。
人通りの少し落ち着いた市場を眺めながらゆっくり歩く。ウィリアムはレイチェルと手を繋いで歩いた。
「もっとゆっくり買い物したーい」
「今日はその時間ないなぁ」
「ざんねん…」
「次な?」
「うん」
「そろそろまた人増えるから後ろ乗りな」
二人は荷車の荷台へ乗り込んだ。
商業者ギルドに到着し、まずは荷馬車の預かり場所へ行く。荷馬車を出して貰ったら荷物を積み替え、荷車を返却する。荷物を積み替えた荷馬車は職員が一時預かり所に移動してくれるので、その間に一階の窓口へ向かう。朝と違ってギルド内は人もまばらでのんびりとした雰囲気だった。
「あ、あのお姉さん居たよ」
受付をしてくれた女性職員を見付け、窓口へ向かった。
「お姉さん」
「あら、坊や」
「良い区画でした。どうもありがとうございます」
シファが木版を返却する。
「荷車も無事返していただいたので銀貨三枚返却します」
「どうも」
「お姉さん、これ僕達が作った食べ物。良かったらどうぞ」
ガレット生地の中央にりんごのコンポートを二つ並べ、上下左右の生地を折り畳んだだけの菓子をいくつか作った。それを朴葉に包んで藁で結んである。
「アムのあまいおかし。おいしいよ?」
「わたしにくれるの?」
「うん! 親切にしてくれたから」
「ありがとう。あとで食べるね」
二人は女性職員に手を振り商業者ギルドの建物を後にした。一時預かり所に向かうと荷馬車の横に職員に連れられたマンマが居た。
「マンマ!」
二人が駆け寄ると、マンマが首を下げ鼻先で二人の頭を突いた。
「ふふっ、くすぐったい」
「マンマただいま」
シファが職員へ番号の書かれた木札を渡すと、マンマの頭絡にぶら下がる木札の番号と照らし合わせマンマの木札が外された。シファに手綱が渡される。
「どうも」
「ありがとうございました」
「お世話になりました!」
マンマを荷馬車に繋いで出発する。
すぐに二人の頭が船を漕ぎはじめ、市壁から出る頃にはぐっすり眠りに落ちていた。




