納税とお土産選び
バルナバート、ドラン、シファは野営を繰り返してようやく三層までやって来た。すぐに徴税を請け負う貴族家へ麦を納めて荷を軽くする。
「宿に向かって良いですか?」
「ああ、マンマを休ませてあげないとな」
常宿に向かい、マンマを厩舎へ入れてたっぷりの水と飼い葉を与え休ませた。
「明日は市場に出店しますか?」
「ああ、そうしようか」
「それでは私は商業ギルドに出店許可を得て来ます」
「疲れているのに悪いね」
「いえ、それでは行って参ります」
ドランは一休みする間も無く、商業ギルドへ向かった。
翌朝、商業ギルドから借りた荷車に荷を詰め込んだ三人は市場へと向かった。この市場は常設店以外に商業ギルドに申し込めば一時出店出来る仮設場所がある。賑わう中心部程値段が高く、端の方は安く借りられる。中心部を借りる余裕は無いので、端の一角を借りて出店する事にした。
「ここですね」
シファは牽く荷車をドランに示された区画の奥へ停めた。
地面に直に布を敷き、商品を並べる。商品はウィリアムの空間収納から取り出したかぼちゃが二十個、村の畑で採れたゴジョモが大袋一つだ。
「売れますかねぇ」
「売れると良いんだが…」
商品を並べて暫くすると、ポツポツ人が通り掛かる。
「これはなんだい?」
「マレンテの一種です。甘くて美味しいですよ!」
「ちょっと高くないかねぇ?」
「普通のマレンテより大きいですからね! どうですか? スープにしても美味しいし、マレンテだけで煮てもいけますよ!」
「おまけでゴジョモを一つお付けしますよ」
かぼちゃを勧めるシファにドランが追撃する。
「二つじゃダメかい?」
「奥様にそう言われると弱りますね。分かりました、二つお付けします」
「ありがとねぇ! 他の主婦仲間に宣伝してやるからねぇ!」
かぼちゃとゴジョモ二つを受け取り自前の籠に入れた女性が去って暫く、数人の女性が「聞いたんだけど」とやって来て購入して行った。
「本当に宣伝してくれた様だね」
二人の後ろに立つバルナバートがふっと笑う。
「お兄さん! どうですか! 良いマレンテありますよ! 普通のマレンテより甘くて美味しいですよ! お姉さんもどうですかー? 珍しいマレンテですよ!」
シファが道行く人に声を掛ける。
季節外れのマレンテが珍しいのか、足を止める人は多かった。一つ、また一つと売れて行く。残り五つとなった時、酒場を営む男がまとめて買ってくれた。おまけに残っていた全てのゴジョモも付け、シファが荷車で店まで届けると駄賃までくれた。
「また珍しい食いもんあったら持って来てくれや! オレはここの料理作ってるダンダードだ! 嫁が看板娘さぁ!」
もう娘って年でもねぇけどな! ガハハハッ! と、豪快に笑う男にシファも笑顔で頷いた。
商業ギルドに荷車を返し、市場を散策する。かぼちゃが売れた金で土産を買うと言っていたバルナバートとドランを探しつつ、シファも何か良い物は無いかと物色していた。
「菓子は――いらないよなぁ」
市場で売られる平民向けの菓子よりも、ウィリアムの出す菓子の方が数百倍は美味い。
「うーん…食材、って言っても持って帰るまでに腐るしなぁ」
どうしようかと悩んでいると、少し先にバルナバートとドランの姿を見付けた。
「戻りました!」
「ああ、返却ありがとうね」
「はい。なにを見ていたんですか?」
二人が見ていたのは髪飾りだった。
「チェリーにどうかと思うんだけどね」
シファは少々悩んで正直に言った。
「それよりガラス瓶買ってあげた方が喜ぶと思います」
「ガラス瓶? でも、ほら――あんなにあるだろう?」
バルナバートが言っているのはプリンの空き容器の事だ。
「でも大きいガラス瓶が欲しいって、ウィル坊に言ってるの聞いたことがありますよオレ」
「そうなのか…じゃあ、今回はそうしようかな」
バルナバートは髪飾りを名残惜しそうに眺めながら、ガラス製品を取り扱う店へ足を向けた。幾つか候補を絞り、木の平蓋が付いた大き目のガラス瓶を購入した。レイチェルが両腕で抱きかかえないと持ち上げられない大きさだ。
「ウィルにはどうしようか」
「どうですか? なにか聞いていませんか?」
ドランに聞かれ、シファがうーんと唸る。
「カバン作りたい、みたいなことを言ってた様な?」
「カバン?」
「作りたい?」
欲しい、では無く作りたい、なのか――とバルナバートとドランが首を傾げる。実際ウィリアムが作りたいのはカバンと言うより、空間収納能力を付与したマジックアイテムだ。
「きっと既製品より作った方が安いと考えたんだろうね…」
バルナバートが悲し気に眉根を寄せる。
「カバン、見に行ってみましょう!」
布製品を取り扱っている店に行ったが、革で出来た丈夫なカバンは値が張り手が出なかった。更に落ち込んだバルナバートを励まし、中古を取り扱う店も見て回った。
「これどうですか? 手入れが行き届いててキレイですよ!」
シファが手にしていたのは明るい茶色の革で出来た、斜めがけカバンだった。中古ではあるが確かに手入れが行き届いていて綺麗だ。使い込まれた柔らかさも良い。
「ウィルには少し大きくないかな?」
「ここの穴で肩紐の長さは調整出来ますし、成長しますから! 少しくらい大きい方が使い勝手良いですよ!」
シファの勧めで、バルナバートはそのカバンを購入した。
「シファのお陰で良いお土産が買えたよ。ありがとう」
「お役に立てて何よりです!」
荷が軽くなったマンマの足取りは軽く、帰路は日程を一日短縮する事が出来た。
***
レイチェルの部屋で日課の魔法訓練をしていたウィリアムは指先に火を灯し、水球を出し、そよ風を吹かせた。まだ試していないが土魔法も使えるだろうと踏んでいる。
「全属性ってどれぐらい珍しいのかなー」
サワードウの瓶に浄化、促成魔法を掛けていたレイチェルは顔を上げた。
「バレていいことではなさそうだよね」
「やっぱり?」
「わたしはみずとかぜしかだめっぽいんだよねぇ」
「でも聖属性ってゆーウルトラチートあんじゃん?」
「まあ、たしかに?」
「それって物に付与してお守りとかに出来ないのかな?」
「あー、それいいねぇ。アミュレットだっけ?」
「そうそう。異世界っぽいでしょ?」
「ぽい、ぽい」
「僕は魔道具作ってみたりしたいんだよねぇ」
「ちょうりきぐつくってよ」
「ミキサーとブレンダーだっけ?」
「うん。あとハンドミキサーもあるとべんりよね」
「カセットコンロも欲しいなー。ここの冬は寒いからさぁー、鍋したい。あ、土鍋も欲しい」
「こたつ」
「こたつ! いいねぇー、夢が広がるねぇ!」
「ホットプレートもほしいなぁ」
「たこ焼きパーティーしたいね。パンケーキと餃子パーティーもいいなぁ」
「おこのみやきも、クレープも」
「朝ごはん食べたばっかなのにお腹空いて来るなぁ」
「ふふっ。そろそろそといこうか?」
「そうだね」
裏庭に出て畑の世話をする。二人は最近、魔法訓練が終わったらすぐに畑と生き物たちの世話をしている。
レイチェルは人目を忍んでヤマモモとアボ椿に促成魔法を掛け、ウィリアムは水魔法を使ってジョウロを満たして水を撒いている。本当なら水魔法でチャチャッと水を撒きたい所だ。
「トマトもあと少しで収穫出来そうだなぁ」
中の種から育てたトマトはすくすく成長し、実を付けている。支柱を立て、花が咲き始めたら脇芽を摘み、土に近い葉を取り枝を整えた。一畝分植えたトマトは、豊作を見せている。
「あおいまんまでもいいんだっけ?」
「うん。摘んだ後で追熟もするけど、流石にここまで青いのはね」
「いっぱいとれるね」
「史郎達と村に分けようね」
「えだまめも?」
こっそりレイチェルの促成魔法を掛けた大豆も、枝豆がそろそろ収穫出来そうだ。トマトの畝から一番離れた所に二畝分植えている。
「そうだねぇ、一畝は大豆にしようかなぁ?」
「ほうさくだしね」
裏庭の畑には屋敷に近い手前からトマト、かぼちゃ、ティカロ、大豆と植えてある。畑は二面、左右に並ぶ形だ。片方はまだ耕したばかりで、お浸し草が左隅に植えられているだけだ。そろそろゴジョモを植えようかとウアと話している。
「かぼちゃもちょっとおおきくなってる」
種の発芽から苗になるまではレイチェルが魔法を使って育てた。
黄色い花が咲き、ぷくりと丸い子房のある雌花が小さな実を付けた。ままごとの玩具の様に小さなかぼちゃの実は、それでもしっかりかぼちゃの見た目をしている。
「かわいい」
指先でチョン、とかぼちゃの実を突く。レイチェルはふふっ、と笑ってこっそり促成魔法を掛けた。
畑の世話を終え、ククとヌルエの世話を終えると昼食時になる。
ラーダはカンパーニュの焼き方を完璧に覚えた。大きな丸いカンパーニュを焼く事もあれば、黒パンサイズの黒プチパンをまとめて焼く事もある。今日はプチパンの日だった。
ミネストローネスープと黒プチパンの昼食を食堂室で摂っていると、ミセリアーテが顔を出した。
「お母さま」
「私もご一緒して良いかしら?」
「モチロン!」
サリーがサンテネージュの分を用意する。
「すっかりチェリーのパンに慣れてしまったわね」
パンを一口サイズに千切って食べたサンテネージュが微笑む。
「父さまたちはそろそろ帰って来ますか?」
「そうねぇ、明日か明後日には帰って来るんじゃないかしら?」
「おいしいごはんをよういしておかなきゃ」
「そうねぇ。野営では黒パンとスープくらいしか食べていないでしょうから、きっと喜ぶわ」
「じゃあ今日は料理する?」
「うん! そうしよー」
昼食を終えた二人は調理室へ向かった。
「あら? ラーダがいないわ」
「あれー? ホントだぁ」
「すぐもどってくるかな?」
「多分ねぇー。何作るの?」
「どうしよう…にぃにしょくざいってまだつかったことないのあったっけ?」
「えーっとー…」
ウィリアムは空間収納の食材リストを思い浮かべた。
「飲み物系は全然かな。ワインは赤白両方、スパークリングもあるし、日本酒もあるよ。それとりんごジュースにぶどうジュース」
「お父さまがかえってきたらおさけかいきんしちゃう?」
「そうだね、そろそろ良いかな? そしたら僕らもジュース解禁しよ!」
「たのしみ。ほかには?」
「んーと、生蕎麦、わさび、そば粉もまだかな」
「わさびなんてかってたの?」
「うん。安かったんだもん」
「いつかそばたべよう」
「ね!」
「ガレットはベーコンかおにくがほしいし…」
「そろそろ肉とか魚とか食べたい!」
「ねー? よし、おからナゲットつくろう。ゴジョモでポテトフライも」
「おっ! 良いねぇー。ケチャップも作れない?」
「ちょっとものたりないかもしれないけどつくれるよ」
「じゃあピザも出そう!」
「あー、たんさんほしい…コーラのみたい」
「りんごシードルならあるんだけどねぇ」
「おさけじゃん。のめないじゃん。いつかたんさんすいみつけるんだから! にぃに、なべにおゆわかして」
「はーい。何用?」
「トマトのゆむきと、だいずゆでる」
手を洗い、アリゼが縫ってくれたウィリアムとレイチェル用の調理エプロンを身に付ける。
ウィリアムは中サイズ程の鍋を棚から取り出し、水魔法で水を注ぎ火にかけた。
レイチェルは専用の踏み台に乗り調理台に向かう。果物ナイフでトマト四つのヘタをくり抜き尻に十字の切り込みを入れた。
食糧庫からゴジョモを五つとにんにくの実を二つ持って来てゴジョモをよく洗い、芽をくり抜き、くし形に切る。まだラーダが帰って来ない事を確かめながらボウルに水魔法で水を出し、切ったゴジョモを晒しておく。
「僕何する?」
「にんにくのみとセロリをペーストにしてほしいかな」
「分かった!」
ウィリアムはセロリをざく切りにしてボウルへ入れ、にんにくの実を包丁の腹で潰してそれもボウルに放り込んだ。
「ペースト、ペースト…」
ボウルに両手を翳し、風魔法で粉砕、細粒、液状化していく。
「どうだっ! お、成功」
「トマトのかわもむけたらおねがい」
「はーい」
レイチェルは食糧庫へティカロを取りに行き、皮を剥いて薄切りにした後で千切りにした。大根も半分千切りにし、セロリを薄切りにする。全てをボウルに入れ、塩揉みして暫く置いておく。水分を絞って塩、黒こしょう、砂糖、ワインビネガー、オリーブオイルで和えたらマリネの完成だ。
「トマトの皮剥けたから大豆茹でておくねー」
「はーい」
ウィリアムはアチアチ言いながらトマトの皮を剥き、セロリとにんにくの実のボウルへ入れた。風魔法でざく切りにし、ボウルに両手を翳す。
「ペーストになれー」
風魔法を先程よりも長く施す。上下も混ぜ返すように右手と左手で別々の魔法を使うと、良い具合になった。
レイチェルが魔法を使って鍋を持ち上げ、大豆をザルに上げる。魔法で風を送って冷まし、ボウルへ移し替える。
「にぃに、そのなべつかっていいよ」
「ほーい」
空いた鍋へペーストにした材料を入れ火にかけ、ウィリアムは踏み台に乗り、木べらで混ぜつつ煮込んだ。
「味付けはー?」
「ちょっと待ってー」
レイチェルはウィリアムの横に立って塩、砂糖、ワインビネガー、某アウトドアスパイスを鍋へ入れる。
「あとはまぜながらにこんで」
「はいはーい」
大豆を潰し、おからと混ぜて塩、黒こしょう、某肉屋のスパイスで味付ける。手で捏ね、一口サイズに成形し、バットに並べる。
「あれ! 二人で料理かい?」
「おかえり」
「おかえりラーダ。どこにいってたの?」
「畑にお浸し草取りに行ってたんだよ」
ラーダの持つ浅籠にはお浸し草の葉がこんもり入っている。
「二人が育ててる野菜もすっかり大きくなっただろう? 見てるのが楽しくてねぇ」
「あと少しで収穫出来るよ! ラーダも一緒に収穫しようね」
「ああ、ぜひ手伝わせておくれよ」
手とお浸し草を洗い、鍋を覗き込む。
「これはトマトだね? スープでも作るのかい?」
「ううん、ソース作ってるんだよ。ケチャップっていうソース」
「チェリーお嬢さまのはナゲットだったかい?」
「そうよ」
「この野菜は?」
「マリネっていうの」
「今日の夕飯かい?」
「ううん。お父さまたちがかえってきたときのごはんよ。おいしいものたべてほしいから」
「僕が預かっておけばいつでも出来立てで食べられるからね」
「どれどれ、ワタシも手伝うよ」
ラーダがレイチェルの横に立ち、ナゲットのタネを成形していく。あっと言う間に成形が終わった。
「ラーダ、あぶらをね、ふかいなべにたっぷりいれてほしいの」
「ああ。これでいいかい?」
ラーダが取り出したのは深めのフライパンだった。
「もっとふかいの」
「もっとかい? じゃあ――――これで良いかねぇ?」
上棚を漁り、底の丸い中華鍋に似た鍋を取り出す。
「ちゅうかなべ?」
「うん? これは大人数用の炒め物をする時に使ってたもんだよ」
「それにたっぷりあぶらをいれて」
オリーブオイルを鍋に入れると、壺は空になった。
「ナゲットから揚げれば良いのかい?」
「うん。ナゲットがおわったらこれをあげてほしいの」
レイチェルは水に晒したゴジョモを指差す。
「ゴジョモを揚げるのかい?」
「うん。おいしいのよ」
「このソースをつけて食べるともっと美味しいんだよ!」
「へぇ、楽しみだねぇ」
ラーダがおからナゲットを揚げている間に、レイチェルはウィリアムからオリーブオイルを受け取っては壺へ移し替えた。頃合いを見てゴジョモを水から上げ、水気をしっかり拭き取る。
「さ、揚がったよ」
「冷める前に僕が預かるねー」
おからナゲットのバットを受け取り、空間収納へ仕舞う。ケチャップも水分が飛び、とろりとして来た。
「チェリー、ケチャップも良さそうだよ」
「なべこっちに」
「ああ、ワタシが運ぼうかねぇ」
藁編みの鍋敷きの上へケチャップの鍋を移す。ラーダが興味深げにクンクン匂いを嗅いでいる。
「冷めたら少し舐めてみてよ」
「いろいろつかいみちがあるのよ」
「オムライス食べたーい」
「オムライス…こんどつくろう」
「で、これはどう揚げるんだい?」
「このまますあげ」
「すあげ――」
「みずはふきとったけど、あぶらがはねるからきをつけてね」
「ああ、二人は離れてるんだよ?」
ラーダがゴジョモを一掴み油へ入れると、ジュワァァァァ、バチバチバチッ――と激しい音を立てた。
「おぉっ! あちっ!」
「だいじょうぶ?」
「ああ、平気さぁ。ちょっとはねたよ」
ウィリアムとレイチェルはラーダの揚げ物を見守りながら、空になった壺にせっせとオリーブオイルを移し替えた。
「どうかねぇ? こんなもんかねぇ?」
ラーダが菜箸で一つ取り出し、レイチェルに見せる。
「あわはちいさい?」
「ああ」
「うん、おともそのおとならだいじょうぶ」
油から一つずつ菜箸で引き上げ、網を敷いたバットに載せる。ラーダはまた一掴みゴジョモを油の中へ入れた。くし切りにしているとは言え一つずつを菜箸で引き上げていくのは大変だ。掬い油切りが欲しい――と切実に思うレイチェルだった。
油の切れたゴジョモがまだ熱い内に塩をまぶす。レイチェルとウィリアムは一つ手に取った。
「ラーダもどうぞ」
まだ少し熱い揚げゴジョモをフーフーし、パクリと食べる。
「んっ!」
「んー…ポテトだぁ」
「おお! ウマいねぇ! こりゃ良い!」
もう一つ食べたい所を耐え、木皿に移して空間収納へ仕舞う。二度目に揚がったゴジョモにも塩をまぶし、先ほどと同じ木皿へ移す。あと二回分揚がったゴジョモには某アウトドアスパイスの辛口をまぶした。こちらもやみつきになる美味しさだった。
冷めたケチャップはプリンの空き瓶二つ分になった。味見したラーダが自分でも作ってみたいと言ったので、裏庭のトマトが採れたら作る約束をした。にんにくの実を採りに山へ行かないと足りなくなりそうだ。今度山へ行ったらにんにくの実の枝も採って来て挿し木しようと三人は手を取り固く誓った。
「あら? どうしました三人で手を握り合って」
「サリー、どうしたの?」
調理室にやって来たサリーが手を取り合う三人に首を傾げる。
「バルナバート様がお帰りになりましたよ」
「えっ⁈ 明日か明後日って母さま言ってたのに!」
「いまおへや?」
今にも調理室を飛び出しそうな二人をサリーが手で制す。
「旅の埃を落とす為、先に入浴を済ませるそうです」
「ああ――」
「そう…」
「入浴が終わりましたらお二人にお声掛け致します」
「うん! あ、今日はみんなでごはん食べよう! お帰りなさいパーティーだよ!」
「ええ、皆に伝えますね」
「新作もあるから楽しみにしてて!」
「はい、それではラーダ、お願いしますね」
サリーが調理室を去る。ウィリアムは空間収納からレタスを二つ取り出した。
「にぃに、ミニトマトも二パックちょうだい」
「はーい」
ウィリアムがレタスを千切ってサラダの用意をする。レイチェルもミニトマトを洗ってヘタを取り、半分に切ってサラダの用意だ。
ラーダはお浸し草をざく切りにし、潰して刻んだにんにくの実としめじ、エリンギと一緒にオリーブオイルで炒めた。塩、黒こしょうで味付けする。
「ウィル坊、これも預かってくれるかい?」
「いいよー」
「スープはどうするかねぇ。朝と昼はミネストローネだったからねぇ」
「野菜スープにしよう。白菜とティカロで」
「ああ、じゃあそうしようかねぇ」
ラーダが野菜を切りスープの準備をはじめる。
「オムレツ食べたい! ケチャップも出来たことだし!」
ウィリアムは卵を取り出し、レイチェルをキラキラした目で見つめた。
「わかった」
卵十個をボウルに割り、塩、黒こしょう、砂糖、マヨネーズを加える。小さいフライパンを火に掛け、オリーブオイルをたっぷり入れた。
「チェリーお嬢さま自分でやんのかい?」
「うん、やってみる」
「気を付けるんだよ」
「はーい」
踏み台に乗り、フライパンに卵液を注ぐ。四分の一程注いで菜箸で全体を掻き混ぜ、周りが固まりはじめたらフライパンを火から下ろし、上下を内側へ折り畳む。フライパンの奥に寄せ、レイチェルは片手に皿を持つと「よっと」と声を出してフライパンをひっくり返した。レイチェルの体ではじめて作ったオムレツにしては中々の出来だ。
「うん、いいかな?」
「あらぁー、上手だねぇ。キレイな形だよ」
「さっすがいっちゃん!」
「はんじゅくよ。ラーダはどうする? はんじゅくか、しっかりひをとおすか」
「半熟、ってのを食べてみようかねぇ」
「じゃあラーダのぶんもはんじゅくにするわね」
続けて二枚目、三枚目、と半熟オムレツを焼く。一枚焼く毎に腕を上げるレイチェルだ。次の一枚はしっかり火を通し、卵液が尽きた。卵を追加で割り、卵液を作る。ひたすらオムレツを焼き、卵液をまた追加で作って合計十一枚のオムレツを焼き上げた。
「つかれた――」
「お疲れ様チェリーお嬢さま。今度教えてくれるかい?」
「ええ、いいわよ」
「ふぅ…わたしへやにもどるわ」
「ああ、そうだねぇ。ウィル坊も部屋に戻って夕食の前にさっぱりしといで」
「うん、そうするね。あっ、ピザだけ置いてくから後で焼いて切っておいて」
ウィリアムは空間収納からマルゲリータとクアトロフォルマッジを三枚ずつ取り出し調理台の上に置いた。
「あ、今日はグラス多目に用意してって伝えておいて欲しいな」
「グラス?」
「うん! 特別な飲み物があるんだ!」
「ああ、わかったよ。伝えておくね」
ウィリアムとレイチェルは部屋に戻った。
「チェリー、いい?」
「うん」
二人でレイチェルの部屋に入る。レイチェルは浄化魔法を自分とウィリアムに掛けた。ついでに自分には回復魔も掛けておいた。
サビール家には浴場が六つある。
一つは使用人用で一階の使用人部屋の近くに。二階に三つ、三階に二つ。
風呂は、壁の内側にある小型昇降機をロープで上下させ、沸かした湯を桶で何度も浴槽に運んで用意される。使用人の限られているサビール家では用意するのも大変な為、よっぽど汚れていない限り風呂は三日に一度だ。それ以外は桶に用意された湯と布で体を清める。
「おふろ、まいにちはいりたい…」
「わかる。シャワーだけでもいいから毎日入りたいよね」
「じょうかできるけどぉ」
「そーゆー問題じゃないよねぇ」
二人は見つめ合い、溜息を吐いた。
「魔法、使えるから。お湯カンタンに準備出来ると思うんだよなぁ」
「まほうつかえるって、いつまでかくす?」
「あー、ねぇ? どうする?」
「おふろぉー」
「だよねぇ? ぼちぼち話してみるかぁ」
ウィリアムは着替える為に自分の部屋へ戻った。




