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異世界幸福生活譚~幸せへの帰り道~  作者: 友利 円


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麦の後は




(おおきくなあれ、おおきくなあれ)


 庭師小屋の近くに植えたアボ椿の芽に向かってレイチェルが促成魔法を掛ける。

 茶色い木の実はアボカドに似た味、種から椿油っぽい物が採れるので、アボ椿と勝手に命名した。木に棘が生えるから危険という事で、人のあまり立ち寄らない庭師小屋の近くになら良いと許可を得て、種を植えた。

 一日一回、一番弱い促進魔法を畑や木に掛けている。そのお陰で、ヤマモモの木は元気に根付いて成長し、アボ椿の種は数日で芽を出した。もっと魔力を込めれば実を採れる大きさまで育てられるが、やり過ぎは禁物である。現時点でも若干のやり過ぎ感は否めないが。


 仔ヌルエ三匹は雄をポパイ、雌をオリーブとオリーと名付けた。違いが分からなくなるので、シファが耳に識別用の耳飾りを付けた。ポパイは緑、オリーブは赤、オリーは黄色の色石だ。拾って来てから二宗(二十日)以上経ち、二回り程大きくなった。

 相変わらずクク達とは喚き合いの喧嘩をしている。一度対立して以来、ククを小屋から出す時は柵の上に屋根を設置し、直接的な接触は避けさせている。まだ柵の範囲が狭いから出来る措置だ。


***


 日課の鳥小屋掃除を終え、レイチェルは寄って来たベガを撫でていた。拾った時はベルより小さく、か弱かったベガだが、ひと月程経過し随分成長した。同じ様に成長しているベルと同じくらいの大きさになっている。

「あんなにちいさかったのにねぇ」

 指先で頭を掻き撫でられ、気持ち良さそうに半目になったベガが「ピィ―……」と鳴く。

「今じゃベルと変わんないもんね。やっぱ動物って成長早いよねぇ」

 ウィリアムが水魔法で霧状に出した水の中、羽をバッサバッサ広げるベルの体は大きなニワトリサイズだ。あと一回り大きくなれば立派な成鳥となる。


――ピィ、クェーッ


 成長途中の二羽は今、鳴き声も曖昧だ。ピィと鳴いてみたり、クェやら、コーッ、やら、色々な鳴き声を発している。

「それじゃ、またねベガ」

「今日は散歩なしねー」

 いつもなら裏庭を散歩させるのだが、今日はこの後予定があるのでなしだ。


――コー、ピッ

――ピァ!

 不満だが了承したとでも言いたそうな顔で、二羽は二人を見送った。

 今日は麦の収穫を終えた畑の様子を見る為、二人で村へ下りる予定だ。




 バルナバート、ドラン、シファの三人は税として国に納める分の麦を運ぶ為、早朝出発した。

 三層で徴税を請け負う貴族家まで荷馬車で五日程掛かる。二頭立てや魔馬なら二、三日で行けるが、マンマ一頭が頼みの綱であるサビール領では時間を掛けて行くしかない。


「しばらく留守にするよ。頼んだよネージュ」

「ええ、気を付けてバル」

 早朝、出発する三人を見送る為、屋敷の前に集まった。

「気を付けて父さま、ドラン、シファ」

「いいこでまってます」

 二人の頭を撫で、バルナバートはシファの隣に座った。馭者席にシファとバルナバート、荷馬車の空いた場所にドランが座る。

「お土産買って来るよ」

「はーい」

「たのしみ!」


 三人を見送り、ウィリアムとレイチェルはいつも通り午前中の日課をこなし、昼食を済ませた。畑とクク、ヌルエの世話も終え、村へと向かう。二人で村へ行くのにももう慣れたもので、当初よりは心配されなくなった。


***


「おや、いらっしゃいウィル様、チェリー様」

 収穫後に残った麦の茎葉を掘り出し、細かく砕いて土に漉き込む作業をしていた村人に声を掛けられた。

「こんにちは!」

「ごくろうさまです」

「今日はどうしたんですか?」

「視察です!」

「そうですかい。お偉いですねぇ」

 村人達は皆微笑み、二人を温かい目で見守る。


「ここには次は何を植えるの?」

「ここかい? ゴジョモを植えるよ」

「ぜんぶ?」

「全部は種の実が足りなくてムリだねぇ」

 種の実とは、種芋の事だ。

「じゃあ、これ植えてみて欲しいんだ!」

 ウィリアムは生大豆の入った袋を取り出し、村人の一人へ手渡した。

「なんだい?」

「どれどれ」

 袋を受け取った村人の周りに皆が集まる。

「豆ですかい?」

「はじめて見る豆だねぇ」

「うん、豆! 麦の後には豆を植えると良いって、兄さまが教えてくれたの! その豆も兄さまが学院から送ってくれたんだ!」

 ウィリアムは堂々と大嘘を吐いた。

「ああ、領主様のご一家にはもう、本当に助けていただいてばっかりだぁ」

「こんな良い領主様なかなかいないよ」

 村人達が口々に感謝を述べる。ウィリアムとレイチェルは「それじゃあよろしく!」とその場を去った。その後も他の畑で作業する村人に声を掛け、大豆を手渡した。


 一番端の畑までやって来て大豆を手渡し終えた二人は、そのまま辺りを散策した。

「人手があればもう少し農地広げられるんだけどなぁ」

「あそんでるとちがもったいない?」

「うん。でも、まぁー。とりあえずあの大豆が育てば冬の食料確保には大きいから」

「かんそうさせておけるもんね」

「そうそう! あ、家でもやし育ててみようか? 暗い場所で育てるんだっけな」

「あっちにもだいずわたしたの?」

「うん! シファに渡すようお願いしたから史郎たちも植えてると思う。もう蕎麦が収穫出来てるはずだから」


 少し傾斜した丘を上がると、草原が広がっていた。

「おおー」

「うわぁー」

 村の子供達がキャッキャッと走り回っている。

「めっちゃハイジ…」

「ブランコほしいね。つくったらみんなよろこびそう」

「あーっ! ウィル様とチェリー様だぁー!」

 走り回っていた子供の一人が二人に気付いた。

 手伝いの出来ない小さな子供と、その面倒を見るウィリアム位の年齢の子供。子供に子供の面倒を見せて大丈夫かと二人は不安になるが、この世界では普通の事だ。

「どうしたのー? 一緒に遊ぶー?」

 子供達が駆け寄って来る。

「一緒にまもののしっぽする?」

「魔物の尻尾?」

「わかんないのー?」

「やったことないのー?」

 ルールを聞けば、鬼ごっこと同じだった。

「よし! やろう!」

「やったぁー!」

「じゃあウィル様まものねー!」

「よーし! 行くぞー!」

 子供達がキャーと逃げて行く。

「チェリーは?」

「わたしはやめとく。はしりまわったらかえれるきがしない」

「オッケ―!」

 ウィリアムはレイチェルを残して走り出した。レイチェルは少し見回し、座り込んでいる数人を見つけた。

「こんにちは、わたしもまぜてちょうだいね」

「チェリーさま!」

「たま!」

 レイチェルと同い年位の女の子が二人と、二~三歳くらいの男の子と女の子が一人ずつ。


「なにをしていたの?」

「んー? はっぱとってた?」

「うん」

 何をするでもなく、葉をむしったりお喋りをしていたようだ。

(シロツメクサでもはえてたらかんむりとかつくってあそべるんだけどな)

 きっと物凄くつまらないのだろう。葉をむしっては、細く割いてみたり、根を千切っている。

「それじゃあ、わたしがおはなしをしてもいい?」

「おはなし?」

「どんなおはなし?」

「どんなおはなしがいいかしら? おひめさまのおはなし? それともゆうしゃのおはなしにする?」

「おひめさま!」

「うん! おひめさまがいい!」

「ええ、それじゃあおひめさまのおはなしね」

 レイチェルは少々アレンジをしつつ、白雪姫の物語を語り聞かせた。


「――おうじさまとしらゆきひめはしあわせになりましたとさ。おしまい」

 キャーッ! と子供達から悲鳴と拍手が上がる。

「たのしー! チェリーさますごーい!」

「もっと! もっと聞きたい!」

「もと!」

「じゃあつぎはゆうしゃさまのおはなしにしようかしら?」


 盛り上がりが気になったのか、魔物の尻尾(鬼ごっこ)をして遊んでいた子供達もなんだなんだと駆け寄って来る。

「みんなもおはなしききたい?」

「おはなし?」

「チェリー、どんなお話してたの?」

「しらゆきひめよ」

「ああ。楽しかった?」

 ウィリアムは座っていた女の子に声を掛けた。

「すっごくたのしかった!」

「チェリーさますご!」

「ふふっ、そっか。じゃあ、折角だからみんなでお話聞こうか。さぁ、座って」

 レイチェルを取り囲む様に半円で子供達が腰を下ろす。面倒を見ていたウィリアムと同い年位の二人の男の子が目を丸くした。

「え、こいつらがこんな大人しく座るなんて…」

「いつもこうだったらラクなのに…」

「二人も座って、一緒に聞こう」

 ウィリアムの勧めで、二人は一番後ろに胡坐をかいて座った。

「それじゃあ、つぎはゆうしゃさまのおはなしよ。むかーし、むかし――――」


 桃太郎をアレンジした物語は大盛況となった。アンコールも掛かり、二度目を語り聞かせた後で白雪姫をもう一度語らせられた。

「もう一回!」

「チェリー様もう一回聞きたい!」

 四度の語り聞かせでレイチェルはヘトヘトである。

「ごめんね、僕達そろそろ帰らないといけないんだ」

 えぇーっ! とブーイングが上がった。

「こら! ワガママ言うな!」

「そうだぞ! ありがとうございますだろ!」

 面倒を見ている年長二人が叱り付ける。

 子供達が口々に「ありがとう」と礼を言う。

「またくるわ」

「うん、また今度ね」

「またお話きかせてね!」

「またおひめさまのおはなしききたいです!」

 子供達に別れを告げ、手を振って二人は帰路へ着いた。


 テクテク歩いていると、後ろから声を掛けられる。

「ウア!」

 荷車を牽いたウアが、二人に手を振る。

「随分遅くまで村に居たんだな」

「子供達と遊んでたらこんな時間になっちゃった!」

 まだ日は高いが、あと数十分もすれば夕日に変わる。夕日に変わればあっと言う間に暗くなってしまう。

「暗くなる前には帰らないとダメだよ」

「うん」

「疲れただろう。おいで」

 荷車を停めると、ウアは二人を載せた。

「しっかり掴まっているんだよ」

 農機具や背負い籠、ゴジョモの入った袋を背に二人は足をぶらつかせる。

 晴れた昼下がりに売られていく子牛の歌を歌い、おうちに帰ってでんぐり返しする歌などを歌った。

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