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異世界幸福生活譚~幸せへの帰り道~  作者: 宮城 円


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サンドウィッチをつくろう




 魔力の圧縮と凍結、属性魔法の隠蔽が出来た所でそろそろ良い時間となった。

 調理室に行き、パン生地の発酵具合を確認する。

「うん、ふくらんだね」

「こんなに膨らむんだねぇ。はじめて見るよ」

「にじはっこうはばいの大きさになってればせいこう」

「なるほどねぇー」

「ひょうめんにかるくじゅうじのきれめをいれて」

 料理指導の際に【十字】を何度も言っていたお陰で、ラーダに意味が伝わる。

「このきれめにすこしオリーブオイルをたらして…あとはやきます!」

「どれくらい焼くの?」

「えーっと…半折くらい!」

 ウィリアムはうんうん、と頷いた。


 ラーダが焼き窯に二枚天板を入れる。焼けるのを待つ間にサンドイッチの具の作成に取り掛かる。

「ラーダ、おゆをわかしてゆでたまごをつくって」

「ああ」

「にーに、たまご二パックほしい」

「はーい」

「ラーダ、おゆがわくまでてつだってほしいの」

「ああ、いいよ。どうするんだい?」

 レイチェルは踏み台に立つと、卵を割って卵黄と卵白に分けた。

「これをまぜて」

 卵黄だけのボウルをラーダに渡し、菜箸で混ぜて貰う。塩とワインビネガーを入れよく混ぜ、ラーダに混ぜ続ける様に言い少しずつオリーブオイルを垂らす。横で見守っていたウィリアムの目がキラキラ輝き、レイチェルの顔とボウルを交互に見遣った。


「これはなんになるんだい?」

「おいしいソースになるのよ」

「へぇ、ソース…」

 泡だて器が無いので全く混ざらない。こうなる事はなんとなく予想済みだった。

「ラーダ、おゆがわいてるわ。ゆでたまごをおねがい」

「ああ、分かったよ。全部茹でちまうのかい?」

 レイチェルが使った四つ以外の残りを指差す。

「ええ、おねがい」


 ラーダから菜箸を受け取り、代わって混ぜる。ラーダがコンロに立ってこちらに背を向けるのを待ってから、レイチェルは左手をボウルの上にかざした。

 静かに風が起こりボウルの中が攪拌される。菜箸では混ざらなかった卵と調味料が混ぜ合わさる。もったりと、ベージュがかったソースが出来上がった。


「にぃに、あきびんちょうだい?」

「はーい」

 出来上がったマヨネーズをプリンの空き瓶にスプーンでつめる。

「にぃにこれもってて」

「プリンと間違えないようにしないと」

「まちがえないでしょ」

 空間収納の性能は抜群なのでそこは信じたい。

 ボウルの中にはまだたっぷりマヨネーズが残っている。

「たまごサンドしかつくれないや」

「ベーコン買っておけば良かったよねぇー」

「ねー」

 無い物は無いので、レイチェルはサンドイッチ用にレタスを大きめに千切った。

「あれ、さっきのがこうなるのかい?」

 ゆで卵がひと段落ついたラーダが作業台を振り返る。

「そう、マヨネーズっていうソースなのよ。すこしなめてみて?」

 レイチェルからスプーンを受け取り、先にほんの少し掬って舐める。

「おぉ⁈ なんだいこのソースは! こってりしてるのに酸っぱい⁈」

「卵のコクと、ワインビネガーの酸っぱさかな?」

「おもしろいねぇー」


 茹で上がった卵を三人でせっせと剥いて粗目に潰す。マヨネーズ、塩とあらびき黒コショウ、肉屋のスパイスで味付けた。

 その間にパンも焼け、焼き窯から取り出された。

「おおー! カンパーニュだ!」

「うん! ラーダ、じょうできだわ!」

「あとは味かねぇ?」


 パンが冷めるのを待っている間にトマトを輪切りにし、洗ったレタスの水気を丁寧に拭き取る。道の駅で購入した野沢菜漬けをラーダに細かく刻んで貰い、マヨネーズと和えた。

「へぇー。野沢菜漬けとマヨネーズ? 美味しいの?」

「らっきょうでタルタルソースつくれるんだからきっとおいしい」

「確かに! さすがいっちゃん!」

「ふふっ」


 カンパーニュが良い具合に冷めた所で、厚さ一センチ程度に切り分けて貰う。

「どうかねぇ?」

 三人はみみの部分を味見で食べた。

「うん、ちゃんとカンパーニュだ」

「んーっ! 美味しい! 硬くない!」

 ラーダは無言で手にしていたみみを全て食べ、残り一つのみみも食べた。咀嚼を続けるラーダに二人の視線が集まる。

「どう?」

「硬い方が良い?」

「こんなウマい黒パン初めてだよ! あっはっはっは!」


 ラーダからもお墨付きが出たので、サンドイッチを作る。大きめのカンパーニュを焼いたが全員分のサンドイッチを作るには足りない。屋敷に残るメイド組は味見程度の量で我慢して貰う事にした。

 たまごフィリングを挟んだたまごサンドと、野沢菜漬けマヨネーズを塗ってレタスとトマトを挟んだ野菜サンドの二種類だ。弁当箱なんか無いので、木皿数枚に載せて空間収納に仕舞った。朝の残りの野菜スープには余っていた卵白を入れ、小鍋に移して貰いこれも空間収納へ仕舞う。目くらましに適当な布を被せ中を隠した背負い籠を背負えば準備完了だ。


「本当に二人で大丈夫かい?」

「うん! 僕は何回も行ってるから!」

「わたしもあるけるからだいじょうぶ」

 村までの近道になる通用口の扉の前で、ラーダは五回目の「大丈夫かい?」を発した。

「ワタシかヒランがついてっても――」

「ラーダもヒランもお仕事あるでしょ! 大丈夫! 村までまっすぐなんだから!」

「でもねぇ…」

「たいりょくついたのよ? ほんとうよ?」

 ウィリアムは一人で村まで行っているので、心配なのは自分であろう。レイチェルは真剣な顔で「だいじょうぶなの!」と宣言した。

「分かったよ。寄り道しちゃダメだよ? まっすぐ村に行くんだよ?」

 二人がはーいと揃って手を上げる。

「気を付けて行くんだよ?」

「はーい! 行ってきまーす!」

「いってきますラーダ!」

 二人が意気揚々と出発する。手を繋いだ幼子二人は、何度も振り返ってはラーダに向かって手を振った。その姿が見えなくなるまで通用口に立ち、見えなくなっても暫くそこから動けずにいた。


「のどかねぇ~」

 五歳の少女から飛び出す言葉とは思えない。レイチェルは小さな足をテクテク進めながら辺りを見回した。

「田舎だよねぇー。でも良くない? こーゆーの」

「うん。いいとおもう」

 葉の生い茂る木が、影を作る。その下を手を繋いで歩く二人はどちらからともなく歌い出した。歩くのが大好きな子供の歌だ。あやふやな歌詞の部分を二人でそうじゃない、いや合ってる、と言い合い笑う。

楽しくなって、思い浮かんだ童謡やアニメソングをいくつも歌った。

 熊に出会った少女の歌を歌っていたら、歩いていた反対側の林がガサガサ音を立て揺れた。


「わっ!」

「ひょっ!」

 二人がビクリと身を竦める。その場で固まって様子を見るが、何も起きない。

「な、なんだー。ビックリしたぁ」

「タイミング!」

「ねぇ?」

 笑い合って足を進めようとすると、またガサッと草が揺れる。ウィリアムはレイチェルを背に庇い、右手を前に出した。


――ピィ……ピィーッ

 草の陰からヨロヨロ現れたのは、ウィリアムの両手のひらに収まる位の小鳥だった。

「とり?」

「ケガしてる?」


――ピ、ッ

 一歩分跳び、その場に蹲る。二人は恐る恐る小鳥に近付いた。土や泥、血で汚れた羽はよく見れば水色をしている。

「あれ? クク?」

「クク?」

「食べられる卵を産む魔鳥だよ。なんでこんなトコに居るんだろ? 生息域じゃないんだけどな」


 レイチェルは蹲るククに両手で包み込む様に手を添え、治療魔法を使用した。

 ポウ――と光ってククの傷が癒えていく。


――ピッ?

 突然消えた痛みに蹲っていた小鳥が立ち上がり小首を傾げた。

「ふふっ、カワイイ」


――ピィ、ピィッ!

 レイチェルのワンピースの裾を嘴で啄み引っ張る。

「なんだ? どうした?」

 ウィリアムがしゃがんで捕まえようとすると、跳び退けてまたレイチェルの服を啄む。

「来いって言ってるの? わかった、行くから。チェリーはここで待ってて」

「え、だいじょうぶ?」

「大丈夫、大丈夫! 草が深いから待ってて!」


 ウィリアムが付いて来るのを察したククがタタタタッと前を走る。立ち止まって振り返ってはまた走る。道からウィリアムの足で二十歩程離れた所にもう一匹の小鳥が傷付き倒れ込んでいた。

「ああ、可哀そうに。このこを助けて欲しかったんだな?」


――ピィ! ピィ!

 両手で小鳥を掬い上げ、そっと腕にのせる。

「おまえもおいで」

 ウィリアムが手の平を差し出すと、その上に乗りピョンと肩へ跳び上がった。首裏を器用に回り込んで反対側の肩に移動し、心配そうに仲間の小鳥を見下ろしている。

「大丈夫だよ、チェリーが助けてくれるから」


 二羽が傷付かないようゆっくりと、草を掻き分け慎重に道へと戻る。

「ふぅー、ただいま」

「おかえりにぃに。もう一匹?」

「うん。多分仲間なんじゃないかな? この子もケガしてるから助けてくれる?」

「うん!」

 レイチェルが治療魔法施すと、ゆっくり目を覚ました。


――ピィ

 か細い声で鳴く。ウィリアムは人差し指の先にビー玉サイズの水球を作った。

「飲める? あ、飲んだ」

 肩から下りて来たククも一緒に水を飲んでいる。


「よっぽどのどがかわいてたんだね」

「何かに襲われて逃げてたのかもねぇ。どうする? 僕の家に来る? 庭もあるし鳥小屋もあるよ?」

「どうかなぁ? うちのこになる?」

 首を傾げたレイチェルに二羽も同じ様に首を傾げた。

「ふふっ、カワイイ」

「ちょっと待ってねぇ」

 空間収納に手を突っ込み、手探りでレタスの葉っぱを一枚千切って取り出す。

「はい、どうぞ」

 目の前に出された瑞々しい葉野菜に二羽の目の色が変わった。


――ピィッ! ピーピッ!

――ピピピッ!

 ガツガツ葉っぱを啄む小鳥に、自分の指まで突かれそうで少し怯えるウィリアムだった。


 食事を終えても嫌そうな素振りを見せないので、結局このまま連れて帰る事にした。でも今向かうのは村である。

 ウィリアムの頭の上に最初に助けたククが、レイチェルのエプロンの胸ポケットに後から助けたククが納まっている。


「にぃに、このこちいさいねぇ」

「確かに。コイツより一回りは小さいかな?」

「あとでおふろいれてあげなきゃねぇ」

「ククは水浴び大好きだよ」

「そうなんだ? じゃあこわがらないかな。あれ?」

「どうしたの?」

「このこククじゃないかも」

「え、なんで?」

「しろいよ、ほら、はね」

 レイチェルのポケットを覗き込むと、頭の上のククが落ちかけた。


――ピィッ!

 抗議の声が上がる。

「ごめん、ごめん」

 そっと手を添え落ちない様に押さえポケットを覗き込むと、表は色が分からないくらい汚れているが羽の内側は確かに白いのが分かった。

「へぇー。白いのもいるんだね。ニワトリみたい」

「たしかにそっか。にわとりもいろんないろいたもんね」

「名前どうしよっかなぁー」

「ピーちゃんとか?」

「ありきたり!」


 あははは! と笑っていると村の入り口が見えて来た。

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