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異世界幸福生活譚~幸せへの帰り道~  作者: 友利 円


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ひんやりとろり




 皆が食事を堪能し腹も膨れた所で、ウィリアムは空間収納から「ジャジャジャーン!」と効果音を言いながら化粧箱を取り出した。

 白地に赤い色で商品名の書かれた箱から、ぽってりとしたガラスの小瓶を三つ取り出す。大きさはジャムの小瓶程だ。


「はい、父さまに回してくださーい。逆さにしちゃダメだよー」

 箱からガラス瓶を取り出し、左右に手渡していく。全員の手に渡った所で、ウィリアムは自分のガラス瓶を少し前に出し、持ち上げた。


「この蓋は右に回して開けてください。かんたんに開くと思うよー」

 明るい銅色のツイストキャップを軽く回し開けて見せる。

「あら、本当に簡単に開いたわ」

「甘い香り?」

「はい、スプーンを持ってー」

 食事時に使用するスプーンより二回り程小さい甘味用のスプーンを皆が手にするのを待ち、ウィリアムは「いただきます!」と告げスプーンを差し入れた。

 パクリと一口食べる。

「んふふふふっ」

 お高めだったプリンは柔らかくとろけるタイプのプリンだった。

(美味しいー! 久しぶりのプリン! ひんやりふわとろプリン!)

「んーっ――プリンだぁ」

 レイチェルも久しぶりのプリンを一口食べ、笑みを浮かべた。

「ウィル、これもおかわりって…」

 いつの間にか完食していたミセリアーテが恥ずかし気に尋ねる。ウィリアムは笑顔で頷きおかわりを取り出した。


「こんなに美味しい甘味は中央でも食べられないよ」

「すごく美味しいわ」

「それにこのガラス――」

 バルナバートはガラス瓶を持ち上げ、しげしげ眺めた。ここまで質の良いガラスは滅多にお目に掛かれない。蓋の構造も見た事の無い形だ。

「このガラス容器だけでもとても高い価値よね」

 ふぅ――とサンテネージュは小さく溜息を溢した。


「なんか不思議な――消える」

「フォル兄さまはこっちの方が好きかな?」

 クラッカー缶と醤油せんべい缶を取り出し、空のピザ箱の上にザカザカ出した。

「こっちがクラッカーでこっちがせんべいだよ」

 フォルティスはクラッカーを一枚手に取り口に入れた。

「ん、んまいな」

「こっちのもうまいよ、センベイ」

「いつ食べたんだよ?」

「シローのとこに行った帰りに。おやつだってウィルが」

「なんだよ、ズルいな」

「今食べてんだから良いだろ」

 フォルティスは少しむくれつつ、せんべいを摘まみ上げ齧った。

「お」

「うまいだろ?」

「これ、いいな」

 ミセリアーテも気になったのか、せんべいを凝視している。

「おいしいよ」

「チェリーも好きなの?」

「うん。かたいからね、手でわってたべてもいいの。にぃに」

 レイチェルは手を差し出し、ウィリアムからまだ小袋に入ったままの醤油せんべいを一袋貰った。二枚入りで個包装されているせんべいを両手を使って袋の中で割る。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 小さくなったせんべいの欠片を指先で摘み、口に入れる。ザクザク小気味良い音を立てながら咀嚼するミセリアーテはレイチェルへにっこり笑って頷いた。

「美味しいわ、センベイ? お腹が空いた時に良さそうね」

 もう一つ欠片を摘まんで口に入れ、隣に座る母へ袋を差し出した。

「お母様もどうぞ。お父様も」

 二人も欠片を摘まんで口に入れる。

「美味しいわねぇ」

「ああ、香ばしくて美味しいな」


 ミセリアーテとヒランがプリンをおかわりし、皆が味見程度にクラッカーと醤油せんべいを食べてお別れ夕食会は終了となった。空間収納に作った【ゴミ箱】フォルダにゴミを片付け、プリンの空き瓶は全て洗ってこれもウィリアムの空間収納へ片付けた。


***


――翌朝

 ミセリアーテ、フォルティス、エヴィニスを見送る為、屋敷の前に全員が集まった。

「じゃあな、ウィル、チェリー。ムリすんなよ?」

「ケガにも病気にも気を付けるんだよ?」

 フォルティスとエヴィニスが交互にウィリアムとチェリーを抱き締める。ミセリアーテも二人を抱き締め、優しく頭を撫でた。

「二人が元気で楽しく過ごしてくれれば姉さまは幸せだからね?」

「ねぇねがつぎかえってくるときはもっとおいしいごはんつくってまってるね」

「ああ! 戻りたくない!」

 ミセリアーテは再度レイチェルを抱き締めた。


 両親や使用人達にも別れを告げ、三人が馬車に乗り込む。シファが馬のマンマに合図を送り、馬車が動き出した。足はそれほど速く無いが重量物を運ぶのに長けた種のマンマは、一頭でもしっかり馬車を牽く事が出来る。少しずつ遠ざかる馬車にウィリアムとレイチェルは大きく手を振った。

「ねぇねー! にぃにー! いってらっしゃーい!」

「次に帰って来たらいっぱい遊ぼうねー!」

 馬車が見えなくなるまで手を振り見送る。涙が込み上げるのをウィリアムはグッと堪えた。その横でレイチェルが堪え切れずにポロリと涙を溢した。

「チェリー、大丈夫だよ。またすぐ帰って来るから」

「うん…」

 バルナバートは腕の上にレイチェルを抱き上げ優しくあやした。


 サビール領から学院までの道のりは長い。乗り合い馬車が出ている領まで移動するのに馬車で一刻(四時間)、乗り合い馬車に乗って二層まで行くのに一宗(十日)、二層に入ったら馬車を乗り換え一刻、一層と二層の間を循環する魔導列車に乗って更に一刻でようやく学院へ到着する。魔導列車が無く、乗り合い馬車の経路が未発達だった時代は、三宗(一ヶ月)近く掛かったという。




――ウフール学院・ムフォルメ王国支部

 ウフール学院と名の付く学院は、各国に散らばって現在六つ存在する。エルフの賢人、ウフールが【権力に(おもね)る事無く、国に屈する事無く】を信念に掲げ開校したのが始まりである。

 学院は独立機関であり、その国に存在するだけで国には属さず、自治権を有す。無茶苦茶な主張なのに誘致する国は後を絶たない。

 他国に一目置かれたい国、エルフとの繋がりを求める国、学院の教育内容を欲する国、生み出される新しい魔導具や魔法理論をいち早く手に入れたい国――理由は様々だが、国の一部、少々の土地を明け渡しても充分過ぎる恩恵に与れるとあれば、欲しい国はあれど手放したい国など無い。

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