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お腹いっぱい計画始動③

区切りの関係で短めです。





 卵を溶きほぐし、四つ切にしたミニトマトを混ぜる。調理場にあった塩と、道の駅で買った醤油を少しだけ入れ、味を調える。卵液をフォークで掬って手に落とし、少しだけ舐めてみた。

「ん、大丈夫かな?」

「ちょっとウィル坊! 生の卵口に入れたかい⁈」

「大丈夫、大丈夫。あっちの世界の僕らが住んでた国では生でも食べられるくらい安全だから」

「生⁈ 卵をかい⁈」

 本日何度目か分からない、ラーダの驚きの声が上がる。

「そう。美味しいんだよー。半熟たまごも美味しいよー」

「へ、へぇ…」

 うっとり語るウィリアムに、ラーダの口角が引き攣る。

「あ、じゃが――ゴジョモ切れたね。そしたらそれも茹でたいから鍋にお湯沸かして欲しいな」

「ああ、分かったよ」


(レシピ知っててもアレが無い、コレが無いってなるなぁ。道の駅でもっと色々買い込んでおけば良かったー。みんなは黒パンで良いとしても僕とチェリーはまだ消化に悪そうだなぁ。んー…お粥ならカンタン? 一合とかでお水倍とかにしたらいい?)

 よし、お粥を作ろうと決めたウィリアムはまた動きを止めた。

「一合計れるカップ無いじゃ~ん」

 おおう、と項垂れすぐに立ち直る。

「ラーダ、小さいカップ? お皿? なんか無いかな」

「ちょっと待ってな」

 食器棚へ行き、数個を手に戻る。紅茶用のティーカップ、小さいスープボウル、使用人用の木彫りのカップ。

「おお! その木彫りのが良い!」

「これで良いのかい?」

 木彫りのカップをウィリアムへ渡し、残りを食器棚へ戻す。使用人用の木彫りのカップなら、頼めばウアがこさえてくれる。なんとも有能な庭師の夫である。

 ウィリアムは木彫りのマグカップ一杯分の米を小さいボウルに入れ、手早く研ぎつつ、ムフフと笑みを溢した。ウアに作って欲しい物がアレコレ浮かぶ。

(味噌汁のお椀でしょー、このマグカップの一回り小さいのも欲しいなぁー。あ、しゃもじも作って貰おうかなぁ)


 お粥の鍋も火にかけ、茹で上がったゴジョモをざっくり半分ずつ卵液へ入れて貰う。後はフライパンでじっくり両面を焼くだけだ。

「夕食までまだ時間ある?」

「そうだねぇ、一の半折(はんおり)はまだあるねぇ」

(あー、この世界の時間の表し方めちゃくちゃ難しいんだよなぁ。ウィルがまだ覚えらないのよく分かるわぁ)


 この世界と言うか、この国なのか。時間の表し方が独特だ。

 三刻(さんこく)と呼ばれる日の刻(ひ こく)空の刻(そら こく)根の刻(ね こく)があり、日の刻は四時~七時、空の刻は八時~十一時、根の刻が十二時~三時の三つ区切りとなっている。この三刻が二周して一日となり、午前を表すのは一、午後を表すのは二。更にそこへ半と折(はん おり)と言う言葉が出て来る。半は一時間、折は二時間、文頭によっては三十分を指す。この時点で意味が分からない。こんな複雑な時間表記誰が考えたのか! ウィリアムの中の実里がウガーッ! と吠えたくなる。「午前九時」を表すなら【空の刻、一の折】となり、「午前九時半」を表すなら【空の刻、一の半折】となるのだ。なんとも不親切極まりない表記方法だ。三刻を頭に置かない場合は一の半が一時間、半折が三十分を示す。つまりラーダが言った言葉は「あと一時間半はあります」だ。


 十二進法に慣れ親しんだ実里と、この世界の時間表記に苦手意識のあるウィリアムの融合により、一層受け入れられなくなったのは言うまでも無い。

「オムレツ焼くにはまだ早いなぁ」

「じゃあウィル坊は部屋に戻りな。火はワタシが見てるよ」

「そう? じゃあお願いするね。夕食の半折前には戻って来るね」

「今日は食堂室で食べるんだろう? 着替えた方が良いんじゃないかい?」

「あ…」

 ウィリアムは自分が寝衣姿のままだったのを忘れていた。なんせこちらの世界で目を覚ましてから、着替えてもずっと同じ様な服だったのだ。膝半ば頃の丈の、長袖シャツはワンピース風の寝衣だ。

「チェリーお嬢様もお着換えなさるんじゃないかい? 今頃ならヒランが庭で洗濯物を取り込んでいるんじゃないかねぇ」

「ヒランに言って来る! じゃあラーダまた後でね!」

「ああ、気を付けて! 走って転ぶんじゃないよ!」

「はーい!」

 良い返事とは裏腹に、小さな背中はバタバタと調理場を去って行く。

「全く…もうねぇ」

 ラーダの目にジワリと膜が張る。堪え切れない涙がホロホロ零れた。





 



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― 新着の感想 ―
面白いです!こんなお話を待ってました!連載、頑張ってください!
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