選択できません
……なんだか、頭がぼーっとする。
ええと…ここは、どこだったかな?
なんで、俺はこんな所にいるんだろう?
……なにも、思い出せない。
寒くもなく、暑くもない…、地面はあるが、イスはなくて…なぜか立ち尽くしている。
全体的に薄暗くて、自分の今いる環境が…自分を取り巻く状況が…確認できない。
あたりをきょろきょろと見回すと…、少し離れた場所で、ほのかに光のようなものが漏れているのを発見した。
……あれは、救いの光なのか、それとも。
~選択してください~
光のところまで歩く →→→ 【2】響く足音
その場で様子を見る →→→ 【3】待てば海路の日和あり
貴方が選んだのはこちらです。
光のところまで歩く →→→ 【2】響く足音
薄暗い中、一歩づつ…慎重に、前に進む。
自分がどんな靴をはいているのかはわからないが、ぼんやりとつま先っぽいものを確認することはできる。パタ、パタと…小さな足音がするから、おそらく、建物の中と思われる。
もしや、俺は…知らぬ間に、どこぞの組織に捕まってしまったのだろうか?
一体いつ、どんな理由で、なぜ…俺が。
ぼんやりした頭の回転速度をあげつつ前に進むと、だんだん明るさが増してきた。
突き当りが壁になっていて、ギリギリ手の届くくらいの高さでろうそくの火が揺れている。
……左右に、通路が続いているようだ。
右方向は、ろうそくの薄明かりが続いた先に…人影?のようなものが見える。
左方向には、ろうそくの明かりだけが続いている。
~選択してください~
声をかけるために右に曲がる →→→ 【5】コンタクト
逃げるために左に曲がる →→→ 【4】君子危うきに近寄らず
貴方が選んだのはこちらです。
声をかけるために右に曲がる →→→ 【5】コンタクト
通路の壁に影が伸びているから…あれはおそらく、オバケなどではない。
ろうそくの火を見つめて首をかしげているし…、もしかしたら俺と同じように迷い込んだ人なのかもしれない。
上方はやや明るいものの、下方はろうそくの明かりが十分に届いていないこともあり、落とし穴などがあったら見つける事は難しい。
人がいるという事は、少なくともあの場所までは地面が続いているはずだ…。
やや足音を意識して鳴らしながら前に進むと、人影がこちらに気付いて…、手をあげた。
~選択してください~
自分も手をあげ、小走りで近付く →→→ 【14】質問
慎重に近づく →→→ 【7】疑心暗鬼
貴方が選んだのはこちらです。
自分も手をあげ、小走りで近付く →→→ 【14】質問
「…やあ、こんにちは」
薄暗い廊下で、ろうそくの明かりを受けつつ、俺を見る…男性。
穏やかではあるが、にっこり笑っているという感じではない。
…そうだな、初めて会う人だし、警戒も…するか。しかも、こんな場所だしな。
穏やかに声をかけてくれたということはおそらく、こちらの動向を一切気にせずいきなり攻撃を仕掛けてくるようなタイプではないはず…。
「こ、こんにちは…」
悪い人でないことを祈りつつ、極力不信感を抱かせないよう、朗らかに挨拶を返す。
不信感をもって接すれば、相手もまた不信感をもって接してくるものだ。フレンドリーに接したら、きっとフレンドリーに接してくれるに違いない……。
「あの、ええと…ここって、どこなんだか、わかります?僕、気がついたらここにいたんですよね」
緊張感でややひきつった笑顔を向けると、男性はにっこりと笑った。
ちょっとだけ、総務課のシゲちゃんに似た、柔和な雰囲気に…安堵感を感じる。印象は…悪くない。
「うーん、そうだね…教えてあげてもいいけど、信じられないかも?」
ほんの少しだけ、優しさのある表情に見えたのは…気のせいか?
もしかしたら、俺は今、聞いてはいけないことを聞き出そうとしているのかもしれない。
「…教えてください。どうせ…今のままの状態でい続けることは難しそうだし。もしかして突拍子もない事だったりします?はは、やばいなあ、心の準備…、しておかないと」
少しおどけて、不安な気持ちをごまかしてみる。
地獄か天国か、はたまた異次元か…おそらく俺はおかしな場所に迷い込んでしまったに違いない。
思わず、ふうとため息をつくと、男性が何やら口元を抑えながら、もぐもぐと始めた。
何か……食べている?
いや、なにかを取り出すような仕草は見ていない。
これはいったい…。
「…モグ…もぐ、失礼。すみませんね、気になりましたよね。そうだな…そうですね、何から話そうか。あのね、ここはあの世に近い場所なんですよ。私は…そうですね、管理人とか天使とか悪魔とか神とかそういう系統のものでしてね。今食べていたのは、あなたの感情なんです、溢れてきたので、ついいただいてしまって。こんな所にひょっこりやってくるわりには爽やかだったので、ついねえ。今のところ、感情を恵んでくれるあなたを食べたりはしないので、安心してください」
何となく予想はしていたこともあって、不思議とパニックになるようなことはなかった。
もしかしたら目の前の人が食べてくれているから落ち着けているのかもしれない。若干不穏な言葉が混じっているような気がしないでもないが、とりあえず落ち着いて話を聞くことはできそうだ…。
「ここから出る?抜け出す?にはどうしたらいいんですかね?」
「元の世界に戻りたいってことですか?…う~ん、戻りたいような要素、あります?戻せるけど、私はこのまま戻るのはあんまりおススメしないかも…」
…もしかして、今まさに俺の命が尽きようとかしているパターンだったりするんだろうか。
そうだな、ココから脱出したはいいけど、即ダンプでぐしゃっと行くのは勘弁してもらいたい。
「何とか…この場所から脱出して、平穏無事な生活に戻る事ってできないですかね?」
「…平穏無事?うーん、そうか、そうだね…、うん、じゃあ、ちょっと待ってよ…、ええと、少し質問させてもらってもいいかな?」
なにやらメモのようなものを胸ポケットから出して…見ている。
もしかして閻魔帳みたいなものだったりするのか??
ヤバイ、学生時代に借りパクしたファミコンカセットの事とか、賽銭箱にワッシャーごと小銭入れの中身をぶちまけた事とか、ジムのトレーニング用品の汗を適当に拭いて帰りがちだって事とか書かれているかも……。
「質問?答えられることなら、何でも…答えますけど」
まあ、どうせこのパターンは一切の隠し事ができないやつに違いない。今さらじたばたしたところでやらかした過去は消せないし、誤魔化す事も出来まい。
下手な事を言って即地獄行きになっても困る。気を引き締めて、おかしな回答をしてしまわないよう身構えつつ、質問を…待つ。
「もし…生まれ変わるとしたら、魔法のある世界、チート能力がもらえる世界、どっちがいいです?」
やけに今ふうの質問が来て、若干引いている自分がいる。
そんなこと急に言われても……。
「魔法のある世界へは、異世界転生します。赤ん坊からやり直しで、努力したらそれなりに魔法が使えます。ここから出向することになるので、記憶が継承されてしまうため、若干変わり者として生きて行くことになりますね。チート能力がもらえる世界へは異世界転移になります。おっさんのまま移動して、能力で若返ったりできます。今のその体を使いまわすことになるので、かなり原住民に後ろ指をさされることになりますね。ああ…、あと、今の人生を最後までキッチリ生きるという選択もできそうですかね、現在のあなたが本来いるべき場所に戻れば、今まで通りの気ままな生活はできなくなりますけど…」
~選択してください~
魔法の世界がいいな →→→ 【15】魔法入門試験
チートがあればなんとかなるだろ →→→ 【16】特殊能力を受け取る覚悟
どっちも遠慮する →→→ 【12】プレゼント
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チートがあればなんとかなるだろ →→→ 【16】特殊能力を受け取る覚悟
「まず確認したいんだけど、君はチートというものについてちゃんと考えているのかい。とてつもない能力というのはそれだけ使い方も豊富にあるということで、使いこなすことができなければただの使わない能力でしかなくなってしまうって事なんだけど」
使いこなすも何も…、やってみなけりゃわからないじゃないか。
俺はわりとこういう時、悪運ってやつが発動して…なんとかなるんだ。起きてないことを心配してどうのこうの言うなんて、まさに捕らぬ狸の皮算用だろう。あれこれ心配し過ぎて、結局何もしないままできないまま終わって、後悔するなんて馬鹿げている。いらぬ心配をしても仕方がないっての。
まあ…、気難しく考えなくても大丈夫だろ。
「はは、大丈夫ですよ。受け取ったからにはできることをやらせてもらいますから!」
笑顔を向けるも…、男性はやけに渋い表情をしているな。
「能力というのは、そうだな・・・君たちのいうところの神的な存在が、この人ならすべて使ってくれると信じて託すものなんだ。渡したものを使わないで過ごすということは、とても…そうだな、失礼なことに当たる。それを踏まえたうえで受け取ってもらわない事には…」
なんだ…、やけに忖度ありきの…いろいろしちめんどくさいことを言っていて、気が滅入ってくるな。
ていうか、心配し過ぎじゃないの?
そんなにぎゃあぎゃあ言わなくても、ちゃんと使うっての…。それこそ神が想定した使い方を上回っちまう可能性だってあるわけでさ!大丈夫だって!
「はは、大丈夫で…
「いいかい、君は…おろかだ。そのことを肝に命じておくこと。こんな所に迷い込むなんて、ごく普通の人というくくりを設けるのだったら…普通はない事なんだよ。ここに来てしまったくらい、君は道理というものを外れていることに気が付かないと。それほどまでに外れてしまっているのに、ごく普通の道理という観念が手離せていないのもどうかと思う。チートがあれば贅沢で気ままでやりたい放題の生活ができる、そんな都合のいい展開はないということを自覚できるのかい?」」
いい加減、大人しく聞いているのがめんどくさくなってきたぞ…。
人の言葉を遮ってまで言う事なのか……?
「伝説の化け物みたいになりかねないと言っているんだよ。驕っていれば必ず潰しにかかるものがいる。明らかに異質なものというのは、平凡に混じることは難しいんだ。そもそも転生や転移というのは、魂に刻まれた記憶に引っ張られて間違った判断をしやすい。おかしな思い込み、おかしな予想、おかしな決断が、延々と続く地獄に繋がってしまう事も珍しくはない。君だって、意味もなく雑草を食み続けるような存在にはなりたくないだろう?だいたいね、君はちょっと…」
どうしたらこのうっとおしい難癖付けを止められるんだ。
俺は延々草を噛み続ける牛なんかになるつもりは一ミリもないってのにさあ…。
「そうですねぇ、うーん……」
腕を組み組み模索してみる体で、わざとらしく唸ったら…、説教の猛襲がやんだ。
…そろそろ解放してくれるのかな?
「……君はいきなり知らない人に自分のうんこをプレゼントすることはないだろう?誰かにとってお宝である物質を君が生成できるとして…、その宝をすべての人がありがたいものであると認識して受け取ることを期待してはだめなんだよ」
「そんな、いきなり知らない人の目の前でうんこするわけないでしょ?!大丈夫ですってば!!」
思いがけずおかしなことを言い出したので、つい反射的にツッコんでしまった。
なんで俺は…こんな場所で脱糞の事を論じなければならないんだ?!
「でも…」
ああもう!!
黙って聞いていれば…なんだこいつ?!
グダグダと説教かましやがって…めんどくさいな!!
「大丈夫だって言ってるでしょ?!あの、ホントにチートを渡す気あるんですか?もしかして実はないから焦らしてるとか?!ちゃんと誠心誠意いただいた力はフルに活用して素晴らしい世界を創り上げてみせますってば!!」
思わず会話を遮って力説してしまった。
ヤバイ、もしかして怒らせたか…?
男の表情は、少し悔やんでいるような、いないような…。
「……まあ、まだ起きていないことを今この場所でくどくど言っても仕方がない…確かにそうだ。悪いね、心配性の私の癖がついつい顔を出してしまったみたいだ。危うく2000字越えの説教をしてしまうところだったよ。君にとっては耳障りの悪いものだっただろう、すまなかったね」
申し訳なさそうに頭を下げた男…、反省するくらいなら口に出さなきゃいいのに。
こっちはしっかりアンタの言ってることが聞こえてるんだからさ、ちょっとは忖度ってもんをしたらどうなんだよ…。そんなことを言われたら俺が不快に思うとか考えられないのかね。
人には先の事を心配しろだのなんだの言うくせに…まあいいや。
ここで許さない選択をしても意味がないし。とっとと先行こ、先。
「いえ…大丈夫です。それで、結局僕はチートをもらえるんですか?」
「ああ、もちろん差し上げよう。…そうだ、お詫びに…、君にプレゼントをあげよう」
男が空中?をスッと握る?と…、薄汚れたスーツケースを一回り大きくしたような木箱が現れた。
プレゼントというくらいだからラッピングされた何かを期待したのに…とんだ肩透かしだ……。
こんな汚いものが、俺に必要なもの・・・?
「これを見て何を思うか…それは君次第だ。たぶん君には荷が重過ぎるものだが、足りていないものを補填するためには必要なものだよ。けど、今の君にとっては…受け入れがたいものでもある。もしかしたら、ショックを受けることになるかもしれない。不審に思うなら、開けなくてもいい。君にはこの箱の中身を受け取るだけの度量がなかったということだからね。これがなくても、君は異世界に行くことは…できる」
なんか歯にモノが挟まったような言い方だな。
「これを持っていくのと持って行かないのとでは、明らかに異世界での生き方に違いが出る。今のままの君にはチートは重過ぎる。たぶん、すぐに死ぬだろうね。でも、チートのせいで死ねない。何度も何度も死ぬだろう。ちょっとした手違い、些細な勘違い…、身に染み付いた日本での常識は、君の命をあっという間に掻っ攫う。チートがあるから、命はすぐに戻ってくる。だがそれは…ああ、すまない、また長くなりかけてしまったようだ。…で、どうする?」
怒りがふつふつとわいてくる。
俺は今…、こうして、ここで生きている。
なのに死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ…、死ぬことばかりいいやがってさ。
チートがあればそんなに簡単に死ぬわけねえだろ。
もしかして、俺のことをラノベのパッパラパー主人公どもよりも頭が悪いおっさんだとバカにしているのか……?
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一応もらっといてやるか →→→【12】プレゼント
こんなもんいらね →→→【17】チート
貴方が選んだのはこちらです。
こんなもんいらね →→→【17】チート
俺は無事異世界に転移した。
チートは、『魂の宿っている肉体に刻み込まれている時間を操作できる』というものだった。
生きとし生けるものすべてに課せられた『肉体は時間の経過とともにある』という枷を外すことができる、俺の能力。
じいさんから時間を引っぺがせば、赤ん坊にすることが可能だ。
赤ん坊から時間を引っぺがして伸ばして貼りつければ、大人にすることもできる。
俺はまず、味方をどんどん増やしていこうと思った。
物騒な大人を子供にして従えて、今にも死にそうな博識の爺さんを若返らせて恩に着せて手下にすることを決めた。
人のいない森で獣を使って練習をしつつ綿密に計画を練り、万全の準備を整えて町に向かった。
しかし、俺の予想とは全く違う展開が待っていた。
まず第一に、俺はこの世界では明らかに異質な存在だった。
薄暗い森の中、なぜか明るい洞窟の中で一人で籠っていたので気が付かなかったが、俺は…肉体を持っていなかったのだ。
俺は、この世界に来る時、『異世界転移をする』と言われた。
つまり、あの時の姿で、そのまま異世界に行ったことになる。
俺はあの時全く気付いていなかったが、身体を持っていない状態だったようだ。
おそらく、俺は体から魂が抜けた状態で、あの場所に居たのだろう。
あの時俺がもらわなかったプレゼント…あの中には、俺の肉体が入っていたに違いない。
俺は選択を誤り、肉体を持たないままこの世界に来てしまったのだ。
日本のように、お化けが視認されていない世界なら…まだ生きやすかったのかもしれない。
しかし、今俺がいるこの世界は、肉体を持たない種族も数多く生息していて始末が悪かった。
半透明なくせにものを食べることができて、排せつまでする。
向こう側が透けているのに、髪の毛も伸びるしケガもする。
自分の知る常識が通用しない、明らかに異質な世界。
俺はこの世界で、明らかに浮いていた。
半透明のヒトダマ状が基本である一族、布に憑依して生きる一族などに嫌悪され、人間やキメラ、魔族や獣人はもちろん、モンスターたちにまで後ろ指をさされるくらい、俺は異質な存在だったのだ。
とても計画を実行できそうにないので、片っ端から自分の能力を使って味方を増やそうと試みた。
しかしまたもや、想像の一万キロ先を行く展開が待ち受けていた。
物騒な大人をガキにすれば、ものを知らないただのガキになった。
ジジイを若返らせれば、知識の足りなかったころの頭の悪いおっさんになった。
赤ん坊をさらってきて大きくしても、何の知識もない…ただの大メシ喰らいで泣いてばかりいる、本能のままにいろんなものを垂れ流す姉ちゃんになった。
記憶は時間と几帳面に紐づけられていて、自由に載せ替えることはできなかったのだ。
経験していないことはいきなり肉体に宿ったりはしないし、経験した事でも時間を剥がしてしまえば簡単に消滅した。
100歳の爺さんを40歳にすれば、40歳までの記憶しか肉体には残っていない。
100歳の時にかわした約束は40歳の時には存在していないため、守られることはない。
5歳の子供を20歳にすれば、5歳の記憶と知能を持った20歳になる。
どれほど言い聞かせても大人の図体で駄々をこね、微塵も言う事を聞かない。
一度時間を剥がすと、かつて肉体に刻まれていた記憶を再び元に戻すことができないのがやっかいだった。
100歳の爺さんを40歳にしたあと100歳に戻しても、40歳までの記憶しか持っていなかった。
5歳の子供を20歳にしたあと5歳に戻せば、5歳の記憶を持った5歳になった。
俺自身は、自分の姿かたちを若返らせても記憶は消えなかった。
おそらく、記憶は肉体に刻み込まれるものであり…肉体がない俺は存在そのものに記憶がねじ込まれているため消去されなくなっていたのだ。
不愉快極まりないのは、肉体がないくせにものの考え方が年齢に引っ張られる事だった。不用意にガキになれば頭の悪い考えしかできなくなるし、後先考えずジジイになれば物忘れや頭の固い考えしかできなくなるのだ。
確かにチートではあるが、使いどころの難しさに手を焼いた。
自分の常識が一切通用しない、新しい常識がまかり通る世界に翻弄された。
手当たり次第にジジイ、ババア、乳児を増やしているうちに…集団で俺に向かってくる奴らがあらわれた。
おかしな魔法を使って捕らえられた俺は、断罪されることになった。
だが、何度首を落とされても、何度燃やされても、何度消滅させられても、死ぬことができなかった。
……俺は、ここに来る前に、あの箱の中に肉体と命を置いてきた。
命を持たずに転移してきたせいで…、死ぬことができなくなっていたのだ。
幽閉され、封印され、発掘され、利用され、罪を着せられ、使い捨てられ…俺はだんだん気力を無くしていった。
俺を細かく刻んでは、復活していく様子を楽しむ野蛮人ども。地獄で、王宮で、コロッセオで、牢屋で、見世物小屋で、街の片隅で…、強力な魔法、伝説の武器、厳つい魔力、爪、牙、パンチ、キック、ショボい小石、俺にいろんなもんをぶち込んでは、凝集して元の姿になるのを笑って見物するクソども。
頭の悪い原住民どもにおもちゃにされて…どれほど時間が経っただろう。
長く続いた地獄よりも過酷な日々だったが、あるとき、おかしな修道女が…俺に付きまとうようになった。
どうせまた騙されると思ったが、気まぐれに…女の声を聞いてやった。
新生児になれというのでなってやったら、途端に眠気が襲ってきた。うとうとと眠っているうちに女の胸に抱かれて町を抜け、森に着いた。
俺は修道女と共にしばらく暮らした。
が、ある日突然また一人になった。
森の中をさまよううちに、干からびた女の骨と…手配書を見つけた。
乳飲み子の俺、子供の俺、少年の俺、青年の俺、中年の俺、老齢の俺の絵が描かれており、懸賞金がかかっている。
もう俺は見世物に、慰み者になりたくはなかった。
一時、たった一度だけとはいえ、この世界に生きるものの愛を知ったせいで…俺は欲張りになってしまったのだ。
一人で森の恵みを食みながら…思いついた。
この手配書には、老齢の俺の絵までしか載っていない。
限界まで年を取れば、まだ誰も目にしたことのない容貌になれるのではないか。
この世界には、黒々とした髪を持つ者も白い髪を持つ者も、いないことはないが…かなり希少だ。
だがしかし、ハゲている者はそこらかしこにあふれていている。
手配書にある80歳の俺は、少々毛量が減り始めた白髪頭でやや前傾姿勢の…小ぢんまりした背格好をしている。おそらく年を重ねるほどに髪は抜け落ち、背中が曲がるはずだと踏んだのだ。
急激に年齢をあげて、ボケてしまっては元も子もない。
川に映る自分の姿を見ながら、少しずつ様子を見ながら年齢をあげて行くことにした。
90歳、まだ髪の毛が生えている。
95歳、まだ髪の毛が生えている。
100歳、ようやく地肌が見え始めた。
102歳、だいぶハゲてきた。
104歳、ハゲてる…、アタマ なでる。
105歳、あたまが…かゆい……。
かわ うつるじぶ すがた、よぼよぼでしわくちゃで…。
……ええと、なんだったかな。
ちょとちょろと流れる川の音。
自分の足元でも、ちょろちょろと…なんだ、この感じ?
ああ、のどがかわいたな、よっこらせ・・・。
じゃぶんと落ちて、おもいっきり のんだ・・・。
ああ、はらへっ 。
…そうだ、食事の時間だった。
たべものは…どこ かな?
さかな・・・くさ・・・。
もぐ、もぐ・・・。
じゃり、じゃり・・・・・・。
~選択肢がありません~
貴方は何も選べません。
またの機会をお待ちください。




