第93話:聖法力がなかったので(1)
ここからはセレナード視点で物語が進んでいきます。
ルクスがロゼと結婚して2年が経過した。
その間、私が暮らしているクエム地方では問題らしい問題は起きなかった。
変化があったとすれば、私の身長が伸びたことだろうか。
私も成長期を迎え、前世の身長とほとんど変わらなくなった。
体格が近づいた事で剣速も増した。
昨夜大雨だった修練場の中央。
深く集中し、剣式に沿ってゆっくりと剣を動かしていく。
洗練された武功の前には万物の常識は通じない。水面の上を歩いているにも関わらず、水面には波紋一つ発生していなかった。
朝早くから始まった修練は正午過ぎまで続く。
すると、修練場の入り口から見知った顔が現れた。
私の従者のマチルダである。
お弁当を届けに来てくれたみたいなので、私は剣の訓練を一旦止めた。
「お嬢様。そろそろ昼食にしませんか?」
「もうそんな時間なんですね。剣に集中するとすぐに時間が過ぎてしまいます」
「それだけお嬢様が頑張っておられる証拠です」
マチルダの言葉に気を良くした私は修練場に併設された東屋に向かう。
彼女の隣に座り、彼女が作ってくれた弁当箱を眺める。
マチルダが弁当の蓋を開けると、そこにはたくさんの白米が目の前に現れた。
白米の他には、漬物や煮野菜なども入っており、ダシ巻き卵などの私の大好物もあった。
「いつもありがとうございます。相変わらず美味しそうです」
「どうぞお食べになって下さい」
箸を手に取り、料理を一つずつ丁寧に口へと運ぶ。マチルダの愛情が伝わってくるとても美味しい料理だ。
ちょうどいい量のお弁当だった。
全部美味しくいただくことができた。
「ごちそうさまです」
私は手を合わせて食材に感謝する。
「あっ、そういえば、お嬢様のお友達から手紙が届いてましたよ」
「私の友達?」
同世代に友達がおらず、基本ぼっちな私に手紙を送るような人なんていたっけ?
首を傾げながら、私はマチルダより手紙を受け取った。
差出人はアリアンナだった。
最後に会ったのは一年前だろうか。
つい先日、巨魔試験に合格した事が記されていた。
「すごいですね~。あの若さで巨魔になるなんて」
「彼女の周りにはとても優秀な武人がたくさんいますからね」
「教主様、小教主様、凛花様、ザイン様、イーノック様、ムトル様、ベルドン様、アギト様……全部数えれば両手では足りませんね」
入神境に達しているルクス、化境のロゼ、超一流武人の凛花・ザイン・イーノック。
彼らはこの2年間で急成長を遂げた。もはや彼らだけで諸外国の戦闘力に匹敵するほどだろう。
「ですが、お嬢様も負けておりませんよ。ご自身の持病を克服してからは、クエム地方ではほかに右に出る者がいないほどの素晴らしい武人になったのですから!」
マチルダは私をヨイショする。
たしかに、私も何もしなかったわけではない。
前世の反省を生かして、夜間だけでなく日中での練習量を増やした。
神聖剣の剣式そのものはすでに全部知っていたので、それを把握した上での効率的な訓練もやった。
少なくとも、一般的な剣士よりは遥かに強くなったし、いまの強さは超一流武人と言っても差し支えないだろう。
しかし、私は未だに化境の領域には至っていない。
前世が超一流武人だったので、それより上の領域に進むのは簡単な事ではないとわかっていた。
それでも強くなりたい気持ちはなくならない。
彼らの大躍進を知るとその気持ちはさらに強くなる。
どうすれば私はもっと強くなれるのだろうのか……。
そんなことを考えながら私は書面に視線を落とす。
アリアンナの筆跡の中にはルクスの事も一部記されていた。
『ルクスさんは教主になってからも毎日ロゼさんの尻に引かれているみたいです(笑)』
一年前、ルクスは天魔神教の新教主となった。
三日三晩にも続く激闘の末、入神境の領域に達していた前天魔を下し、天魔神教の頂点に立ったのだ。
神様の領域になった旧友を懐かしく思いながら、前世の強さとあまり変わっていない自分を比較すると、少しだけ悔しい想いに包まれた。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
セレナード:エメロード教の聖女。転生後は反省して心を入れ替えているが、腹黒なのは変わっていない。
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