第92話:結婚式(完)
「一応確認なんですけど、俺みたいな部外者がアナタの娘さんと結婚して大丈夫なんですか? 色々と角が立ちそうだと思いますけど……」
「まったく問題ない。この国では強さこそが最大の価値を示す。家柄や財産など何の価値も持たない。お前は私と互角以上の勝負を繰り広げた。その時点でキミは、この国のどの男性よりもロゼに相応しい存在なのだ」
天魔は俺の強さを非常に高く評価しており、ロゼと結婚して欲しいと再度言葉を繰り返した。
どうやら世間体などは一切気にしなくてもいいみたいだ。
話を聞いた限りだと、俺達の結婚は民全体の総意みたいだから、ある意味安心した。
「そこでだ。結婚式の場所だが」
「お父さんは黙っていて」
「あの、話だけでも」
「いや。結婚式の場所は自分達で決めたいの!」
「しょぼーん」
先程と同じやり取りが繰り広げられる。
ロゼは意地でも結婚式の場所は自分で決めたいみたいで、断固として決定権を譲らない。
流石の天魔も、娘の言葉には強く言い出せないようで、説得の言葉に悩んでいる。
「まあまあロゼ。話だけでも聞いてあげたらどうだい。お父様にもそれ相応の考えがあるはずだ」
「ルクスがそう言うなら」
俺がそう言うと、ロゼはあっさりと頷いた。
「キミがいてくれて助かった」
「いえいえ。お気になさらないで下さい」
「私が結婚式として勧めたい場所は、『天幻山』だ」
「天幻山?」
聞いた事がない山の名前だ。
アビスベルゼに存在する山のことだろうか。
「天幻山は、このアビスベルゼでもっとも神聖な場所だとされている。天魔神教の今後に関わる事は、すべてその天幻山の頂上で行われるのが慣習なのだ」
「つまり俺達の結婚式は、天魔神教にとっても重要度の高い儀式だと言いたいのですね」
「その通りだ。強さ至上主義の世界とはいえ、ある程度の習わしは存在している。格式が尤も高い天幻山の頂上ならば、キミの強さを直接知らない武人であっても、天魔が認めた者として高く評価されるだろう」
天魔の言わんとすることは大体わかった。
格式が高ければ他の武人から尊重され、そうでなければ他の武人からも軽視される。
それはどこの世界でも同じだろう。
俺としてはどこで結婚式を挙げても構わないので、俺の方からもロゼを説得した。
その結果、結婚式の場所は天幻山の頂上ということに決まった。
その後すぐに、俺達の結婚の報せがアビスベルゼ全体に発表された。
あとは結婚式の当日を待つだけという状態になったわけだが、別の新たな問題が発生した。
「お前を倒せば天魔宝剣と結婚できて、さらに巨魔になれると聞いたぜ!!!」
「本家の人間になりたいからお前を殺す!」
「巨魔試験に合格するよりお前を殺す方が楽そうだな」
ヤベー連中が連日のように俺の元へ押し寄せてくるようになったのだ。
アビスベルゼの常識として、強き者こそ正義という価値観があるため、俺を殺せば天魔の跡取りになれるというおかしなルールができてしまっていたのだ。
「ど、どうしてこうなったんだ。俺はただ平穏に暮らしたいだけなのに」
「アビスベルゼの伝統ね。巨魔に昇進したことが広まれば、昇進した奴を殺しにたくさん武人がやってくるの。その巨魔を殺せば自分が巨魔になれるからね」
「なんちゅーとち狂った慣習や」
「でも退屈しないと思わない?」
「俺は今すぐにでもこの国から逃亡したい気分だよ」
「それはダメよ。アナタは私の旦那様になる方ですもの」
俺の心労とは裏腹に、ロゼはこの極限の状況すらも楽しんでいるようだ。
それから結婚式前日まで俺はひたすら戦いに明け暮れた。
そして、当日。
俺は五体満足の状態で天幻山の頂上にいた。
この一か月で何千人以上もの武人を倒した事で、俺の霊気はこれまで以上に洗練され、天魔に匹敵するほどの武人へと進化していた。
その証拠に、
いま、この式典には何百人もの武人がいる。
その中には俺の命を狙うためにやってきた武人も数名隠れていた。
しかし、俺の霊力量を目の当たりにし、そのすべてがそこから一歩も動けない状態になっていた。
本当に強い武人は、そこに立っているだけで敵を戦意喪失させてしまう。
神威。
入神境の極地に達した者のみが身につけている神の威光。
それを身につけた俺に逆らえる武人など、天魔を除けばもはや誰も存在していなかった。
次回より最終章となります。
魔王軍やロベルトと決着つけます。




