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第88話:勇者の現在(3)

 第二次試験はトーナメント形式。

 第一回戦・第二回戦・第三回戦・準々決勝・準決勝・決勝という具合に六回武人と戦わなければならない。

 巨魔の席数から考えるに、準々決勝まで進出すれば自動的に巨魔になることができる。

 とはいえ、今回のトーナメントは、生死を問わず、どちらかが負けを認めるまで戦いが続くルールだと聞いたので、下手をすれば死んでしまう危険性もある。

 第二シードのロゼは第二回戦からの参戦となる。

 戦いを観戦していたが、第一回戦は、その大半が一流武人だった。

 二回戦では問題なくロゼは彼らを倒す事ができるだろう。


 トーナメントは順調に進んでいき、三時間が経過した頃、ロゼがついにステージへと登った。

 相手は第一回戦を勝ち抜いた男性の武人。手には二本の斧を握っている。


「お前が噂の天魔宝剣か。父親の名前だけで勝ち上がったと聞いているがそれは本当なのか?」

「ええ、本当よ。その父親のおかげで、一回戦では素晴らしい武人と戦う事ができたわ」


 ロゼはそう答えて、主催者席で観戦している天魔に視線を移した。

 天魔は還暦を迎えようとしている黒髪の男性で、精悍な顔立ちをしている。

 ロゼに現在睨まれているが、表情一つ変えずにロゼの成長を観察しているようだった。


「へっ。やっぱりそうだったか。だったら世の中の厳しさを教えてやらねえといけねえな。天魔の娘だからって手加減はしねえぜ!」


 武人はそう叫んで斧を振りかぶりながらロゼに迫る。

 ロゼは鞘に一瞬手をかけると、男の斧攻撃をすり抜けながら肉薄し、男の胴体に一太刀浴びせた。

 次の瞬間、男は腹回りから大量の血を噴き出して、断末魔を上げてうつ伏せに倒れた。


「救護班。彼はもう戦闘不能だから医者の所につれていきなさい」


 ロゼはクールにそう答えると、スタスタと優雅にステージをあとにした。そのまま観客席に座っている俺達の所まで戻ってきた。


「わあああ! ロゼさんすごいです!」

「随分と剣の腕をあげましたね」

「うむむ、前世の私に匹敵する強さかもしれません……」


 アリアンナ、イェル、セレナードの順番で先程の戦いの感想を語る。

 いまのロゼは極めて化境に近い存在だ。

 元々の高いスペックに加えて、俺やイェルといった化境の武人と日常的に稽古をしてきたことで急成長している。

 先程の一閃も、華麗で鮮やかだった。

 相手の攻撃を判断して見切る動作もそうだが、最小限の動きで敵を戦闘不能にする余裕。

 まさしく超一流の武人に相応しい王者の剣路だ。


「ルクス。このトーナメントが終わったら私は巨魔になるわけだから、どこかの土地を領主として管理しなければならなくなるわ」

「へー、それは初耳」

「その際、側近として誰かを側に置くことになるんだけど、ルクス。武人として誰かいい人を知ってる?」

「ちょ、ちょっとロゼさん。それって遠回しな告白じゃ……! きゃああああ!」


 アリアンナは黄色い歓声を上げる。一方で、セレナードが黒い殺気を発する。


「ロゼさん。私の体調がまだ万全じゃない時にルクスを誘うのは卑怯ですよ」

「あわわわ!? せ、セレナードさん!?」

「うむむ、どうやら彼女もルクスの嫁になりたいみたいですね。こんな男のどこがいいのでしょうか」


 イェルはすげえ失礼なことを淡々と述べる。

 アリアンナは慌てふためき、ロゼとセレナードは眼光で火花を散らせる。


 三者三様の反応に俺は言葉を返す事が出来ない。

 そもそも俺は誰とも付き合っていないし、誰かと結婚するつもりも今のところはない。

 俺はただただスローライフを送りたいだけなのだ。


 ロゼとアリアンナが俺に好意を持っているのは薄々気づいていたが、セレナードも俺に好意を持っていたとは驚きだった。

 数か月前まで俺を本気で殺そうとしていただけに、彼女の価値観の変貌にはとても驚かされる。


「というか、セレナードも俺と結婚したかったのか?」

「ち、違います! 別にアナタと結婚したいだなんてまったく思っていません。私はただ、武人としてアナタを尊敬してるだけで、それ以上の想いはありません。ただ、アナタがどこの馬の骨ともわからない女に奪われることに、すごくもやっとするんです!」


 セレナードは顔を真っ赤にしながら早口でそう弁解する。


「セレナードさん。その程度の想いなら私はアナタに絶対に負けないわ」

「え?」

「ルクスが他の女性に取られるのを我慢するくらいなら私はルクスを殺すわ」

「おい。いきなり何を言っているんだお前」

「セレナードさんにはそれができるかしら?」

「ぐぬぬ……私だって殺し屋を雇ってルクスを殺そうとした経歴があります。それも二回」


 おい、お前もなに言ってんだ。

 当時の黒歴史をしたり顔で語るんじゃない。お前本当に前世での行いを反省しているのか?


「でもそれはルクスが好きだからじゃないでしょう? 私はルクスが大好きだからこそルクスを殺せるのよ」

「くっ!」


 くっ!…………じゃねーよ。

 どうでもいい内容で競っている二人に俺は呆れてしまった。


 そんなこんなで観客席でのんびりしていると、二回戦も終了し、第三回戦開始の合図が鳴った。

 ロゼの準決勝の相手は青龍団長の『イーノック』だった。

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