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第84話:天魔城砦(3)

 ロゼの膝の上で仮眠することおよそ一時間。

 目が覚めた頃には、これまでの疲労が嘘のように消えていた。意識は覚醒し、頭もすっきりとしている。

 感想だが、すごく心地よかった。彼女が嫌でなければまたしてもらいたい。


「どうやら疲れが取れたみたいね」

「ロゼのおかげだ。本当にありがとう」

「どういたしまして。私もアナタの寝顔を観察できて楽しかったわ」


 俺が元気になったのを確認し、ロゼは嬉しそうに頬を緩める。

 その後、俺達はその部屋をあとにして通路へと戻った。

 目の前に見える景色は一時間前と全く同じで、誰かが通ったような形跡もない。


「試験の性質上、死ぬことも充分ありえるから、みんな慎重に行動しているのかも」

「俺達みたいに堂々と廊下を歩いている方が珍しいのかもしれないな」

「ふふふっ、そうかもね」


 俺達は隠れている武人を気にすることなくロゼと共に通路を歩いていく。

 その間、三人ほど武人が俺達に奇襲を仕掛けてきたが、すべてロゼの一振りであっけなく真っ二つにされていった。


 普段は年相応な笑顔を浮かべるロゼも、戦闘が始まれば容赦なく敵の首を刈り取っていく。

 精神的な一面で考えれば、ロゼはすでに俺を超えている。俺はロゼのように切り替えて敵を殺すのは苦手だ。

 できなくはないが、やはり色々と思うところがある。

 しかし、ロゼはスイッチのように感情をオフにできる。おそらく、幼少期からそのように訓練されているのだろう。羨ましくも思うし、恐ろしくも思うところだ。だからといってロゼの魅力が薄れるというわけでもなく、より一層ロゼの魅力を引き上げた。


 暗花。

 月の裏側に存在する幻の花とされ、普段は目にすることができないが、この世のどんな花よりも美しく見える。

 ロゼを一言で喩えるならそれだろう。



 しばらく城内を散策してると、前方から禍々しい殺気が漂ってきた。

 俺達の前に姿を現したのは白髪の獣人。


 ケモミミが象徴的な白狐族の男性だ。身長が二メートルあり、体格全体に威圧感がある。

 年齢は20代後半といったところ。


「あんな子、今回の試験にいたかしら?」


 ロゼは首を傾げている。

 一方、俺はその男性を確認して眉根を寄せる。


「参加していないはずだ。なぜなら奴は魔王軍の幹部だからな」

「え? どういうこと?」

「奴は四天王の一人、ギルファード。獣王剣を得意とする化境の剣士だ」


 このタイミングでギルファードがやって来たことに俺は内心驚いていた。

 まさか俺を追ってきていたのか?

 その割にはタイミングが雑だ。


「ほう。どうやら俺を知っている者がいるみたいだな。お前は?」

「俺はルクスだ」

「ルクス。知らない名前だな。俺は人間の顔と名前を覚えるのが苦手なんだ。それより、オイお前ら。俺と戦えよ。俺は強い奴ともっと戦いてえんだ」


 ギルファードは大剣を俺達に突きつけてそう告げる。


「随分と好戦的な奴ね」

「それ、お前が言うのか……」


 戦う事が大好きなのはロゼだって負けてはいない。


「アナタに一つ聞きたい事があるわ」

「なんだ?」

「最近うちの領土で巨魔を殺しまわっている白狐族ってアナタの事?」

「ああ、そうさ。俺が全員殺した。なにか文句でもあんのか?」


 ギルファードは挑発的な発言で返す。しかし、ロゼは顔色一つ変えない。


「文句なんてないわ。戦いで死ぬことは、これ以上にない名誉な事ですもの。ただ……」


 ロゼは霊力を全解放してギルファードに殺気を突きつける。


「小教祖として、好き勝手に土地を踏み荒らしている武人を生かして返す事はできないわね」


 ビリビリと、霊気の圧が伝わってくる。


「ほう。なかなかすげえ霊気を発するじゃねえか。おもしれえ、俺と戦いやがれ!」


 ギルファードは嬉しそうにそう叫ぶと、こちらへと飛び掛かってきた。

 ロゼは動揺する仕草すら見せず、鼻を鳴らして鞘から剣を抜いた。


「ルクス。私一人では奴に勝てるか怪しいから手伝ってちょうだい」

「お前が自分から支援を頼むなんて珍しいな」


 先ほどの会話の流れから考えて、自分一人で戦うと思っていた。

 だから、ロゼの冷静さには俺自身も驚いている。


「勢いだけでは強者に勝てない。アナタと何度も戦ったおかげで、そのことはよく体に染みついているもの」


 と、ロゼは俺に視線を移して、意地悪な表情でウインクした。


「随分とその男を信頼しているようだな! だが、二人がかりだろうが俺に勝つなんて不可能だぜ!」

「それはどうかしら? その傲慢さがアナタの死につながるわよ」

「しゃらくせえ!」


 ギルファードがロゼに向けて大剣を振り下ろす。

 ロゼは、冷静に宝剣で受け止めて、そのまま攻撃の矛先を左へと受け流した。


「ルクス!」


 ロゼの叫び声に合わせ、俺は地面を蹴り上げる。


「無駄だ! 獣王剣奥義……」 

「『迅雷一閃』」


 バチバチバチィッッ! ズドオオオオオオオオオオンッッ!

 俺の速度がさらに加速し、ついには閃光となる。

 雷速の一撃がギルファードの胴体に深く直撃する。


「ぐふっ……!?」


 ギルファードが呻き声をあげる。状況を理解する間もなく続けざまに、


「消えなさい」


 感情の冷えたロゼの声が響き、ギルファードの首をすかさず切り落とした。

 この間、戦闘が始まってたった1秒。


 武人の世界で最初の一太刀は尤も重要とされている。

 相手の強さを見誤れば、その時点で隙が生まれてしまうからだ。


 達人相手に一対二で戦う事だって、本来ならあってはいけないことだ。

 だが、奴は自分の強さを過信してその禁忌を破った。

 死ぬのは必然である。


 返り血で衣服が赤くなったロゼを眺めながら、武人の世界の厳しさを改めて実感した。

 

【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

ロゼ:天魔の娘。巨魔になるために試験に参加している。


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