第83話:天魔城砦(2)
天魔城砦の入り口に到着したタイミングでイェルと合流する。
しかし、すでに彼女を取り囲むように数名の敵がいた。
彼らはそれぞれ剣を所持しており、イェル一人を狙って襲い始めた。
しかし、イェルは化境にも達する最強クラスの武人。
両手に装備されている手甲鉤を巧みに操り、連中の攻撃をすべて弾き返して、ものの数秒ですべて返り討ちにしてしまった。
連中はすべて気絶し、その場にはイェル一人が静かに立っている。
「見事な戦いだな。まるで妖精がワルツを踊っているようだ」
「お世辞は結構です」
「嘘じゃない。本気にそう思っているんだ。イェルの戦う姿はとても美しい」
「そ、そうですか。そこまで言うのなら一応信じてあげます」
イェルは顔を背けながらそう答える。
頬が紅くなっているのでもしかして照れているのかも。
「ルクス。ここまで続く道のりは一本道でしたので、アリアンナさんはこの城の中にまだいると思います」
「すぐに見つかればいいけど」
「結構広そうですからここは二手に分かれましょう」
「そうだな。先にアリアンナを見つけたら、合図を送ってくれ」
「了解です。合図はアナタがわかればなんでもいいですよね」
「ああ、それで構わない」
お互いに合図を送る約束をしたのち、俺たちはその場を離れ、イェルは西の塔、俺は東の塔へと足を踏み出した。
天魔城砦の中はかなり入り組んでおり、地図なしで足を踏み入れれば、すぐに迷子になってしまいそうだ。
また、戦いの形跡も各所にちらほらと残っている。
倒れている武人の数も多く、中には遺体もあった。
ここでの戦闘の激しさが伺える。
アリアンナは無事だろうか。
通路を歩いていると、曲がり角の向こう側に、凄まじい気を放つ武人がいることに気がついた。
相手もすでに俺の存在に気づいているご様子。
さっきがこちらまで伝わってくる。
俺は警戒を解かずに曲がり角の手前まで差し掛かる。
そして、待ち構える相手に向けてこちらから一気に飛び出した。
「!?」
だが、その先は見知った顔。
俺は刃を止める。
相手も同じ反応で、お互いに体勢を崩し、俺たちは折り重なるように倒れた。
「いたた……」
「すまんな」
その正体はロゼだった。
「えっと……どうしてルクスがここにいるの?」
「アリアンナを探すために試験に参加したんだ。アリアンナは一緒じゃないのか?」
「さっきまで一緒にいたけど、誤って私が罠を踏んだからはぐれちゃったのよ」
どうやら先ほどトラブルが起きたご様子。
だが、現在、アリアンナの近くにはザインがいるから心配はいらないと教えてくれた。
たしかにザインがいるなら大丈夫か。
普段はほわほわしてるけど朱雀団の団長だしね。
じゃあとりあえずは問題なしって感じか。
イェルに報告しないとな。
そう考えながら起きあがろうとしたが、なぜかロゼが俺の上着にしがみついたまま離れようとしない。
「?」
「ねえ、ルクス。もしかしてアナタいま寝不足?」
「え? まあ、昨夜は色々あったから寝てないかも」
「それは良くないわね。小一時間くらい寝た方がいいわ」
「別に大丈夫だよ。こういうのは慣れてるし、一週間くらいなら寝なくても平気だ」
「そういう問題じゃないの。そこに小部屋があったからひとまずそこで少し休みましょう」
別にいいのに……と思いながら俺はロゼの言葉に従って近くの小部屋へと足を踏み入れた。
そこは応接室のようで、ソファが二つ並んで置いてあった。
ロゼはそのソファに腰掛けると、ポンポンと自身の膝を軽く叩いた。
「ほらルクス。膝枕してあげるから頭を私の膝に乗せなさい」
この状況で膝枕!?
ガッツリ俺を寝らせるつもりのようだ。
というか、ロゼってこういうのは全部NGだと思っていたから、彼女が膝枕というワードを口にした時にとても驚いてしまった。
そして、その申し出を受け入れるか否かだが、特に断る理由もないので、俺はその申し出を快く受け入れた。
なにより、他ならぬ親友の言葉だ。
ごろんとソファに仰向けになり、ロゼの膝に頭を乗せる。
「け、結構あっさりと頭を乗せるのね」
よく見ると少し緊張しているようで、顔が少しこわばっている。
そんな彼女の表情が、いつも以上に可愛らしく映った。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ロゼ:天魔の娘。巨魔になるために試験に参加している。
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