第82話:天魔城砦(1)
「仕方ありません。私はこれから巨魔試験に参加して、アリアンナさんを探します」
「ちょっと過保護すぎないか?」
「本人が望んで参加してるなら止めませんよ。ただ、そうでない可能性が捨てきれない以上、医者として、ただ指をくわえて黙っているわけにはいきません」
イェルは強い意志をもってそう答えた。彼女の覚悟は本物のようで止める事は難しそうだ。
「それなら俺も試験に参加するよ。イェルだけにアリアンナを捜索させるのは忍びないからな」
「ルクス……。ありがとうございます。なんだかんだ言いつつもアナタは良い人ですね。それでは二人で参りましょう」
「ああ、よろしくな」
俺達は受付に巨魔試験への参加を伝えた。
すると、銀色のメダルを一人一枚ずつ渡された。
メダルを観察すると、俺とイェルとでは絵柄が違うことがわかった。
俺が龍で、イェルが虎。
「それは一次試験の通過に必要なメダルです。今日から三日以内に同じ絵柄のメダルを三枚手にいれて、ここまで戻ってきて下さい」
「ふむ、説明を聞く限り、争奪戦のようなものか」
「その認識で間違いありません。そして、この場所は安全エリアで、この区域内での戦闘は固く禁じられています。違反すれば即失格です」
【一次試験 メダル争奪戦】
ルール:同じ絵柄のメダルを三枚手にいれて受付まで戻ってくる。参加者によってメダルの絵柄が異なるため、誰がどの絵柄のメダルを所持しているのかを見つける必要がある。
「肝心の試験会場は山頂にある《天魔城砦》です。一次試験はいつもこの城の中で行われるんですよ」
「城内はどんな構造なんですか」
「その先は自分の目で確かめてくれ!」
どうやら城の中がどうなっているかまでは教えてくれないようだ。
というか、ここから《天魔城砦》まで少々距離があるため、目的地まで行くにも骨が折れそうだ。
俺とイェルは、受付に礼を言って、《天魔城砦》を目指して走り出した。
横並びになってしばらく道を走っていると周囲に違和感を覚えた。
神経を集中させると、武人らしき人物が七名ほど景色に溶け込むように隠れていることがわかった。
「せこい連中ですね。《天魔城砦》には向かわず、戻ってきた人達をここで襲うつもりなのでしょう」
「まあ、その程度の奴らってわけさ。ものの数にも入らないよ」
「彼らをボコってメダルを奪いますか?」
「いや、アリアンナを探すのが先だ」
「了解です」
俺達は連中を無視してそこを通過する。
……つもりだったのだが、なにを血迷ったのか、こちらとの力量の差を理解できない武人が2名同時に左右から飛び出してきた。
両者とも男で人相はあまり良くない。
俺は雷龍刀を即座に抜いて、うち一人の剣を木っ端みじんに破壊し、唖然となっている男の顔面に向けて右ストレートを放つ。男は悲鳴を上げて吹っ飛んで気絶した。
ワンテンポ遅れて、残りの男が俺に向けて剣を振り下ろす。
しかし、俺はそれをひらりと横にかわし、また同じように顔面に右ストレートを放つ。
男は一撃で気絶した。
「いまだ! チャンスだ!」
「奴は隙を見せてるぞ!」
「ひゃっはー! メダルよこせー!」
「死になさい!」
戦闘開始と同時に、わらわらと残りの武人達も湧いてくる。
しかし、俺は特に動揺することもなく、電撃を前方に放ち、そいつらを全員感電させた。
あっという間に彼らは全員黒焦げとなり、次々とその場に倒れて行った。
というか、予想してたけどやっぱよえーな。準備運動にもならない。
死屍累々となった戦場を見回しながらそう思った。
……って、イェルの姿がもう消えている。
そして、前方には、米粒ほどの大きさになったイェルの後ろ姿が、遠くの方にちらりと見えた。
やれやれ、仙女様は人を待つという言葉を知らないようだ。
俺はイェルに呆れながら、いま倒した武人達からメダルを徴収する。
メダルは9枚となったが、もうこの時点で同じ柄のメダルが揃ってしまった。
青龍のメダル 3枚
玄亀のメダル 2枚
朱雀のメダル 1枚
白虎のメダル 4枚
このまま帰宅すれば一次試験突破だが、アリアンナを探す必要があるため、俺は天龍城砦へとふたたび走り出した。
………
……
…
なんということでしょう。
どうやら先程のような考えの連中が他にもチラホラいたようで、全員ボコボコにされてそこら中に倒れていた。
「いったいなにがあったんだ?」
と、うち一人に呼びかけてみる。
「今さっきここを幼女が通過したんだ。その幼女のメダルを奪おうとしたら逆にボコボコにされてしまったんだ」
だっさ。
こいつら本当に武人か?
武人の魂を失ってしまった情けない武人が溢れかえっている現状に、俺は悲観しながら彼らからメダルを徴収した。
結果、天魔城砦に到着するころにはメダルが50枚を超えてしまった。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
イェル:医術に長けた仙女。意外と常識人。
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