第77話:巨魔試験(13)
セレナードは従者を部屋から退出させた。
この部屋には俺とセレナードの二人だけが残っている。
俺達はお互いに見つめ合い、無言のまま口を閉じている。どちらが先に話を始めるかでお見合いをしているみたいだ。
「セレナード」
「ルクス」
ほぼ同じタイミングでお互いに口を開いた。
それぞれの名前が交錯した。
俺達は少し驚き、今度は会話を譲り合った。
そのせいか、中々会話が始まらなかった。
結局、セレナード側が先に折れて、ゆっくりと話を始めた。
「アナタに伝えたいことがあるんです」
セレナードは布団の裾をギュッと握りながら真剣な表情で言った。
俺はその言葉に静かに耳を傾ける。
「アナタをロベルトのパーティから追放したのは私です」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
俺は一度聞き返す。
すると、セレナードはまた同じ言葉を繰り返した。
だが、俺は未だに彼女の言葉を理解できない。
脳が理解を拒んでいるのだ。
俺は大きく深呼吸をして、
「…………もしかしてお前、聖女セレナードか?」
と冷え切った口調で最終確認をした。
「そうだと言ったらどうしますか?」
その言葉を聞くや否や、俺は即座に雷龍刀を抜いて、セレナードの首筋に刃を突き付ける。
「ここからは慎重に喋った方がいいぞ。下手な事を言ったら首が飛ぶと思え」
「そうですね。死にたくないので慎重に喋ります」
「人を苛立たせる皮肉った言い回しは健在だな」
アイツとわかった途端、これまでの情が嘘のように消えてしまった。
できる事ならこの場で首を刎ねたいくらいだ。
だが、それをしないのは、アイツがこの子の体に取り憑いている理由がわからないからだ。
「最初の質問だ。この子の体を乗っ取ったのか?」
「それは私にもわかりません」
「ふざけるな。本人がわからないわけがないだろ」
俺はそう言うと、セレナードの上に腹ばいで乗っかかる。
無理やりにでも理由を吐かせるため、
首に手をかけギュッと力を込めると、彼女は苦悶の表情を浮かべた。
「くる……し……」
「答えろ」
「……ル……ク…………ス……」
消え入りそうな弱った声。
そこから発せられた自分の名前で俺は我に返り、慌てて首から手を離した。
敵とわかれば誰であろうと容赦しない自分の冷酷さに少しだけ動揺した。
セレナードは激しく咳込んでいる。
目には大粒の涙を浮かべていた。
「げほっ、げほっ……! この子の体に私がいる理由は本当にわからないんです。ロベルト達に殺されて、気がつくとこの子になってました」
「殺された? いったい何を言っているんだ?」
「言葉の通りです。私は一度死んでいるんです」
すると、セレナードは説明を始めた。
パーティが崩壊した事。
ロベルトとスカーレッドが狂ってしまった事。
死んだあとに、この子の体に転生した事。
にわかには信じられない話だったが、嘘を言っているような顔には思えなかった。
どうする?
目の前には俺を追放した首謀者がいる。
だが、今の話が全部本当ならコイツは少なからず変わろうとしている。
だが、それを加味しても心はまだ許せない。
散々俺を殺そうとしておいて考えが変わったから許して下さいなんて虫がよすぎる。
許すか、許さないか。
自分でも選択を決めかねていた。
「信じて下さらなくても構いません」
「そんなわけのわからない話を聞かされてすぐに信じられるわけないだろ」
俺はそう答えてセレナードを睨む。
今の彼女は、前世とはその姿がまったく異なるが、どことなく面影が残っているようにも見えた。
きっとアイツの話を聞いて頭がおかしくなったのだろう。
くそっ。
今のままだと正常な判断ができない。
俺はいったん自分を落ち着けるために、その病室から逃げるように離れた。
途中、イェルとすれ違い、なにやら喋りかけてきたが、感情的になっている俺はそれを無視して病院をあとにした。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
セレナード:エメロード教の元聖女。前世ではロベルトに殺害されたが、なぜか7歳の少女に転生した。前世での行いを反省し、ルクスのような白道の武人を目指している。
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