第76話:巨魔試験(12)
港に到着後、セレナードは島に建設された病院に搬送された。
引き継いだ医者は「なんて完璧な応急処置なんだ」と感心していたが、今は褒められて喜ぶ気分にはならなかった。
理由はもちろんセレナードの件。
イェルから聞かされた衝撃の事実に心を痛め、セレナードの境遇に憐憫の情を抱いていた。
「あの子の寿命はあと一年程度でしょう」
「冗談だろ……?」
「この状況で、私が嘘を言うような人間に見えますか?」
「でもどうして」
「生まれつき心臓が弱いんですよ。本来心臓には小霊脈が117か所あり、普通の人はそれが8割くらい機能しているのですが、あの子の場合3割程度しか機能してませんでした」
「小霊脈を活性化させる方法はないのか?」
「方法は一応ありますが、難易度が極めて高く、失敗するとあの世行きなので本人と保護者の了承が必要ですね」
化境のイェルですら難しいと言うくらいだ。
相当難しい手術なのだろう。
現在、病室にはセレナードの父と従者の二人が付き添っている。
俺とイェルは病室の外で経過を見守っている状況だ。
そして巨魔試験の状況であるが、クラーケンによる襲撃トラブルは起きたものの予定通り明日開催されるそうだ。
弱き者は死に、強き者だけが生き残る。
これが巨魔試験の基本原則。
いたずらに死者が増えれば国の戦力が減るので、怪我の治療等は一応してくれるが、それでも三割程度が毎回死んでるそうだ。
また、ロゼとアリアンナは俺と別行動中だ。
元々ロゼの試験なので、俺がついていなきゃいけない理由はなく、本人もあまり気にしてない様子。
アリアンナは少し寂しそうであったが、事情を説明すると納得してくれた。
今日出会ったばかりの女の子とはいえ、この辺の事情はしっかりと伝えておかないと不憫である。
本人の反応によっては、あえて真実を話さないこともあるかもしれないが……。
いずれにせよ、彼女を放置したまま病院を離れる気にはならなかった。
やるべきことをしっかりとやってからロゼの応援に行きたい。
しばらく待っていると、セレナードの父親らしき人物が病室から出てきた。
俺達に感謝の言葉を一言述べると、明日の巨魔試験に向けてそのまま病院を出て行った。
こういう状況で娘さんの側にいられないのは気の毒だと思った。
それからほどなくして、
従者の喜ぶ声が病室から聞こえてきたので、俺は扉に近づき、病室の扉を開けた。
セレナードはすでに眼を覚ましていた。
あの時の従者が泣きながら抱き着いている。
セレナードが俺に気づき、力のない笑顔で少しだけ微笑んだ。
俺はベッドの真横まで近づいて、横になっている彼女に目の高さを合わせる。
親が子供を見守るような感じ。
「またアナタに迷惑をかけてしまいましたね」
「気にするな。それより体調の方はどうだ?」
「いまは胸が苦しくありません」
「そうか。あまり無理はせずに、この島にいる間は安静にした方がいい」
「はい」
セレナードはこくりと頷いた。
それを確認した俺は、ようやく安堵できた。
とりあえず、巨魔試験の期間中はセレナードに関しては大丈夫だろう。
心臓の話はおいおい説明するとしよう。
少なくともいまは話す段階じゃないな。
俺はそう納得し、部屋から出て行くためにふたたび立ち上がる。
が、セレナードに上着の裾を握られた。
「いかないで」
なんとなくだが、その声には切実さを感じた。
俺はゆっくりと後ろを振り返った。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
セレナード:エメロード教の元聖女。前世ではロベルトに殺害されたが、なぜか7歳の少女に転生した。前世での行いを反省し、ルクスのような白道の武人を目指している。
イェル:仙人。外見は幼女だが年齢は千歳を超えている。「~です」という変わった語尾を使う。
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