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第72話:巨魔試験(8)

 馬車の外に出ると大勢の人々が港町に集まっていた。

 街全体が賑わっており、まるでお祭りでも開催されているかのようであった。


「わあー。たくさん人がいますねぇ。この人たちってみんな巨魔試験を受ける方々なんですかね?」


 マチルダは私の隣に立つと、私にのんびりとした声色でそう呟いた。


「マチルダ君。まさしくその通りだ。彼らは全員、巨魔を目指す勇敢な武人達だ」


 声につられて、私は後ろを振り返る。

 ちょうどスーツ姿の男性が馬車から降りているところだった。

 彼の右手には松葉杖が握られている。そして、腰にはサーベル式の剣が装備されている。


「この方々がみんな巨魔試験を……。お話では聞いていたんですが、実際の光景を見るとすごく圧巻です」


 と私は答える。


「はっはっは。喜んでもらえてるようで何よりだ。セレナードも何か聞きたいことはあればいつでも聞いてくれ」

「はい、お父様。今日はこんな素晴らしい場所に連れてきて下さり、本当にありがとうございます」


 私に続いてマチルダも一緒にお辞儀をした。

 目の前の男性はよりいっそう喜んでくれたようで優雅に笑った。

 彼の笑っている姿を眺めながら私は表情を綻ばせた。


 現在、私の目の前にいる男性は、現在の私の父だ。


 クエム地方の領主であり、かつては『砕月』と呼ばれていたほどの有名な巨魔らしい。

 現在は前線から退いており、普段はクエム地方の経営に尽力しているが、先日巨魔試験が開催されると通達があって、その試験監督としてこの港町にやってきた。


 私達の視線の先には巨大な船がある。

 この船に乗って試験会場のある離島へとこれから向かうのだ。

 そして、私も一緒にいる理由であるが、深い意味はない。

 父にとってはお仕事の一環だが、私にとってはただの観光旅行だ。

 父は子煩悩なので出張先まで私を連れて行く事が多い。

 今回もその一環である。


 初めて行く土地ということもあって多少不安もあるが、それ以上にワクワクが勝っている。


「セレナード様。今日は人が多いですので、迷子にならないようにだけ、充分注意してくださいね」


 私の表情を観察しながら、マチルダが丁寧な口調で釘をさした。


「わかってますよ、マチルダ。アナタの方こそ迷子にならないように」

「まぁ!?」

「はっはっは。二人とも相変わらず仲が良くて結構結構!」


 父は楽しげに笑った。

 彼は領主という身分でありながらマチルダのような使用人に対しても平等に接している善人である。

 私も彼の前ではできるだけ子供らしく振舞うように心がけている。


「お父様。あの大きな船に乗るのですか?」

「そうだ。セレナードのために一番いい部屋を用意したから寛いでくれたまえ」


 ふかふかのベッドで寝ると、馬車での移動の疲れも取れるので、私としてはとても嬉しい限りだ。


「ありがとうございます、お父様。ところで、この船に修練場はありますか?」

「セレナード様は本当に剣の練習が大好きですね」


 マチルダが呆れた様子でそう答える。


「お父様がかっこいいので、私もそれを真似したくなるのは当然です」


 と、このタイミングで一応父をヨイショしておく。

 すると案の定、私の言葉に父は感動し、私をギューッと抱きしめた。

 計算通り。

 幸せいっぱいの家族を演出できている自分に思わずニヤリと黒い笑みを浮かべる。

 見かけは子供でも頭脳は大人だからね。


 とはいえ、前世では家族の温かさを体感した事がなかったから、こういう父やマチルダとの触れ合いは素直に嬉しかったりする。

 別に、彼らを騙すために子供らしく振舞っているわけではない……。


 前世の生い立ちを思い出すと無性に切なくなるので、私はそれを一旦頭の中から消した。

 私を愛してくれるこの人達を幸せにする。

 それも今世の目標の一つだ。


「船の中には流石にないが、開催地のインフェルノには修練場がいくつもあるぞ」


 私は小さくガッツポーズをとる。


 普段と違う場所で剣の修行をすると、新鮮な気持ちになるのでいつも以上に修行が頑張れる。

 少しでも強くなってルクスみたいな白道の剣士に早くなりたい。


 私が心の中でそう張り切っていると、港の奥から女性の黄色い声が聞こえてきた。

 大勢の群衆が一人の青年を取り囲んでいた。


「きゃあああああ! ザイン様よ!」

「今回の巨魔試験の元凶となったアビスベルゼの期待の星! 剣聖ザイン!」

「強い上にイケメンだなんて素敵ですわ!」


 主に女性を中心に、彼の周りには人が集まっていた。

 ザインと呼ばれる青年はというと、人当たりのいい笑顔で彼らに手を振っていた。

 心なしか、冷や汗をかいているようにみえるが、多分気のせいだろう。


「ほう、『噂のザイン』か」


 父が感心したような声を上げた。

 すると、いつもの流れでマチルダが父に質問をした。


「旦那様。先ほどおっしゃった、噂のザインってどういう意味ですか?」

「マチルダ君。実はだね、一か月前に起こった『日蝕異変』を解決に導いたのは『彼』なのだよ」

「!!!!?」


 マチルダはのけぞるように驚いた。

 私自身も父の言葉に驚きを隠せなかった。


「あ、あんな若い方が『日蝕異変』を解決に導いたんですか!?」

「うむ。にわかには信じられないが、天枢の話によると本当のようだ」

「はわわわ!? 人は見かけによらないんですね。私から見たら普通の人みたいに見えるんですけど……」

「はっはっはっ、マチルダ君。それはきっと彼が『化境』の領域に達しているからだろう」

「化境……? お父様、流石にそれは……」


 私が狼狽えるように口を開くと、父は私の頭を優しく撫でた。


「セレナードよ。お父様の方が強いと思いたいのはよくわかる。だが、天枢の話が本当なら、彼はすでに私を超えている可能性が高いのだ」


 父は、悟りを得た人みたいな眼差しでザインを眺めている。

 しかし、私はどうにも彼が化境に達しているとは思えない。


 だって、霊力も駄々洩れだし、歩法を見ても普通の武人としか思えない。


 彼を不審に思いながらも、あまり人を疑うのも良くないなと前世の反省を思い出して、私はいったん彼から視線を外した。

 その後、父と一緒に『インフェルノ』行きの船に同乗した。

【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

セレナード:エメロード教の元聖女。前世ではロベルトに殺害されたが、なぜか7歳の少女に転生した。前世での行いを反省し、ルクスのような白道の武人を目指している。

マチルダ:セレナードの付き人メイド。

砕月:クエム地方の領主。本名はレオパルドン=クエムディス。


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