第69話:巨魔試験(5)
その日の夜。
朱雀館にいるロゼの元に使者がやってきた。
使者は二十代前半の小太りの男性である。
ふぅふぅと荒い息をしながらタオルで額の汗を拭っている。
そんな彼はロゼに一枚の紙を渡した。
ロゼは綺麗に折り畳まれた手紙をその場で開き文面を確認する。
すると、目を大きく見開いて驚いた。
艶のある桃色の唇を嬉しそうに引き上げる。
「ふふふ、ついに私も挑戦できるのね」
「何が書かれていたんだ?」
「あとで話すわ。それよりいま暇なら修練場までついて来なさい」
ロゼは言うだけ言って勝手にスタスタと立ち去っていく。
どうやら相当嬉しい事が記されていたらしい。
鼻歌までしちゃってとても微笑ましい。
彼女についていこうとしたが、使者に金を払い忘れていたのに気づき、俺はロゼの代わりに金貨を渡した。
「あへぇ!? き、きんかぁ!?」
「釣りはいらないよ」
使者が尻もちをついてたいそう驚くが、俺はそんな彼を無視してロゼのあとを追った。
ロゼは修練場の中でも一番広い第一修練場にいた。
石造りの正方形の舞台に、碁盤のような木目の床模様。
屋根はなく綺麗な星空が上空に広がっていた。
月下で佇む黒髪の美少女は自然と絵になった。
しばらくの間、ロゼに見惚れていると彼女はおもむろに鞘から剣を抜いた。
「ルクス。久しぶりに私を手合わせしましょう」
何の前触れもなくロゼはそう告げる。
ロゼが突然行動を起こすのは今に始まった事ではない。
別に断る理由もなかったので俺は雷龍刀を構えた。
そして合図もなく始まる剣の打ち合い。
ロゼが放ってくる技はどれも超一級品の殺人技であったが、不思議と殺気はなく、ロゼの表情もとても爽やかであった。
純粋に俺との戦いを楽しんでいるのがわかった。
「ルクス。さっきの手紙の話なんだけど」
お互いの剣が何十発も打ち合いを見せ、激しい火花が散っていく中、ロゼが嬉しそうに言葉を綴る。
「私、近いうちに巨魔になるわ」
「え? 今まで巨魔じゃなかったのか?」
精神面に不安があるとはいえ、ロゼの剣術の腕前は紛れもなく本物。
超一流武人なのは明らかだったのでてっきり巨魔だと思っていた。
しかし、どうやらそれは俺の勘違いのようであり、巨魔になるためには『巨魔試験』と呼ばれるものに合格する必要があるそうだ。
ロゼはその巨魔試験をまだ一度も受けたことがなかったため、剣の実力はあっても立場は『魔頭』に過ぎないそうだ。
「てか、魔将ですらなかったのか」
「なによその言いぐさ。別にいいでしょ、強さはとっくの昔に魔将を超えてるんだから」
「あの天魔宝剣がザインと同じ魔頭だとは誰も思わないだろ」
「むぅ。魔将は本教の任務をある程度こなさないとなれないの」
「巨魔は違うんだな」
「魔将までは軍功さえあれば誰だってなれるけど、巨魔は『純粋な武』がすべてなの。たとえどんなに軍功を積んでも、試験に合格しなければ決してなることはできないわ」
「そうなのか。結構面倒くさいんだな。試験は俺も苦手だ」
俺はそう言いながら、ロゼの放った雨のような突きの連打をすべて剣で捌いていく。
ロゼは体勢を変えて今度は上下に激しく釘を打ち込むように縦方向の斬撃の連打。
鋭く、速く、勢いよく。
ロゼの洗練された剣技はまさに絶世高手の極地と言えた。
今回の手合わせも俺の勝利に終わった。
とはいえ、ロゼの技量もだいぶ上昇しており、シャルロットや死風刀血のような超一流武人と比べても頭一つ抜けている境地に達しつつあった。
そのあとは、二人仲良くベンチに座って月見をした。
今日は満月。
しばらく眺めているとロゼが俺の右腕に自身の頭を預けた。
一瞬ドキッとしたが、よく見ると眠っていた。
どうやら睡魔に負けてしまったようだ。
戦っているときはあまり気にならなかったが、こうして彼女の体に触れてるとロゼの体は華奢で可憐でどこにでもいる少女とほとんど変わらなかった。
彼女が夜風で風邪を引かないうちに抱きかかえて朱雀館へと戻った。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
ロゼ:天魔の一人娘。
【読者の皆さまへ】
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