第6話:霊糸
セレナードの事件以来、俺とアリアンナの関係がよりいっそう親密になった。
彼女の危機を救った事でアリアンナは俺を信頼するようになり、俺と一緒に行動を共にしたいと願い出た。
特に断る理由もなかったので俺はアリアンナの同行を許可した。
単純に話し友達が欲しかったという理由もある。一人旅というものはやはり寂しいものだ。
アリアンナのような美しい花が近くに咲いていれば旅も華やかになる。
アリアンナと行動を共にするようになって数日後。
俺達は徒歩で隣国を目指している。
浅い水辺が断続的に広がっている湿原地域と木々が群生している森林地域が混ざったような土地。
大自然の恵みに溢れているので山菜がよく取れて食料の確保には困らない。
個人的に肉を食べたいところだ。
俺の願いが通じたのか、俺達の目の前に貴重なお肉がやってきた。
「はわわわわわ!? ルクスさんルクスさん大変です! あのレッドベアが出現しました!」
山道を道なりに進んでいるとアリアンナが悲鳴を上げた。
彼女が指差した先には赤い熊がいた。
体長は3メートル以上。
奴らはレッドベアと呼ばれている獰猛な肉食動物だ。
「レッドベアか。久しぶりに見たなー」
「なにのんきなこと言ってるんですか! は、早く逃げましょう! 奴らは私達の弓矢が全然効かないんです!」
アリアンナはそう言うや否や、背中を向けて我先にと走って逃げ出した。
「がおおおおおおお!」
「きゃああああ!? ななななんで私のところに向かって来てるんですかあああ!?」
すごく楽しそうだ。
アリアンナの微笑ましい反応に思わず笑顔になる。
彼女は不幸属性があるのか、こういう貧乏くじをよく引いている。
今回も真っ先に逃げたはずなのに、真っ先にレッドベアに襲われている。
「た、助けてえええええ!」
アリアンナの悲鳴が聞こえてきた。
さて、そろそろ助けてやるか。
俺は木の枝を手に取り、レッドベアの頭部に向けて"霊糸"を飛ばす。
その糸に沿って木の枝を投げる。
その瞬間、
―――――――ッッッ!!!!!!!
俺の投げた木の枝が雷の弾丸となってレッドベアの頭部を貫いた。
「ぎゃあああああああああ!!」
レッドベアは断末魔を上げて、うつ伏せに倒れて動かなくなった。
「本日は熊鍋だな」
「はぁはぁ……。レッドベアと遭遇してそんな淡白な反応ができる方は世界広しといえどルクスさんくらいですよ」
アリアンナは肩で息をしながらそう告げた。
そうか?
図体でかいから狙いやすいし、俺としてはすごく倒しやすい相手なんだがなぁ……。
「話は変わるんですが、ルクスさんは投擲がお上手ですね。結構遠くのものに向けていつも投げてますが、百発百中じゃないですか。なにかコツでもあるんですか?」
「あー、それか。俺は投げる前に"霊糸"を飛ばしてるんだ」
「霊糸ってなんですか?」
「霊糸とは霊気で作った特殊な糸の事だ。俺の流派《雷天剣》では霊糸を併用して様々な技を使用するんだ」
「へー」
霊糸。
雷天剣の基本技の一つであり、暗器を飛ばす時に用いるものだ。
霊力によって霊糸を作り、その糸に乗せて暗器を投げると百発百中の必中技となる。
さらに、糸自体は俺の霊力で作ったものなので、俺の意思で暗器の軌道を自在に変化させることができる。
「試しに一つ技をみせてやろう」
「本当ですか! 見せて見せて!」
アリアンナは興味津々の可愛らしい反応を示す。
俺は適当な木の枝を拾う。
「絶招二式『雷撃抗戦』」
投げた瞬間に糸の軌道を稲妻型に変化させる。
すると、投擲物もそれに合わせて稲妻の軌道で動いて直線上の岩に突き刺さった。
「わあ! すごくかっこいいです!」
アリアンナは柔らかな笑みを浮かべながら俺の目を見つめた。
その目には俺を全面的に信頼している敬意の念が宿っていた。
「ルクスさんがいれば、怖い正派がやってきてもへっちゃらですね」
「ああ。俺に任せてくれ。アリアンナに近づく危険な輩は全員俺が追い払ってやるよ」
と、俺は柄にもなくキザな台詞を返した。
「私もルクスさんのお役に立てるように一生懸命がんばりますね!」
「張り切りすぎて怪我をしないようにな」
「えへへ、気をつけます。こんなやり取りをしていると、なんだか私達って恋人……みたいですね」
話の途中で急に彼女の声が小さくなり、後半の内容が上手く聞き取れなかった。
「え、なんだって?」
「ううん、なんでもありません! ルクスさんルクスさん! 私、熊鍋は初めてなので食べてみたいです」
「じゃあさっそく作ろうか。アリアンナは辛いのは平気か?」
「全然平気です。熊鍋って辛いんですね」
「香辛料としてレッドハバネロを少量使うからな」
包丁二本を手に取り、俺はレッドベアに近づく。
そして、手のひらに霊力を込める。
「霊力武装《雷速解体術》」
シュパパッパパッパパパッパパッパッパパッパパパ!
俺は素早く両手を動かす。
その結果、レッドベアを5秒で解体した。
解体後は料理作業に移る。
水を張った鍋の中に熊肉を入れてじっくりと煮込む。
魚介類の煮干しで下味を整えて、レッドハバネロ等の香辛料で味付けを行いながら、最後に山菜を入れて蓋をして煮込んだ。
あっという間に熊鍋の完成だ。
小皿にすくってアリアンナに渡す。
「おいひい!? ルクスさん、これすごく美味しいです! 絶品です! 熊鍋ってこんなに美味しかったんですね!」
「喜んでもらえてよかった。材料ならたくさんあるからお腹いっぱいになるまで食べてくれ」
「はーい! おかーさん!」
彼女は無意識で俺をお母さんと呼んだ。
そして、自身の発言に気づいて赤面した。
かわいいぜ。
俺達は仲良く談笑しながら心行くまで熊鍋を楽しんだ。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
アリアンナ:エルフ族の女の子。
【読者の皆さまへ】
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