第53話:神医(6)
俺達の前に現れた謎の女。
なんというスピード感。
楽しそうに人生を満喫する彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「あっ! 見てザイン! この異変の元凶が私達の目の前に現れたわ!」
突然現れたこいつはいったい…?
「私はシャルロット。この《深淵》を満喫してる吸血鬼の魔人よ」
「吸血鬼といえば日光が苦手な種族。きっとこいつが黒幕ですよ! だって自分から黒幕って言ってますもん!」
「本当に黒幕なのか?」
「その答えを知りたくば私を倒してから聞き出すのですね」
すると、シャルロットと名乗る吸血鬼は大鎌を握り天高く掲げた。
「随分と好戦的な魔人ですね」
「いずれにせよ、元凶かどうかは奴をぶっ倒せばわかることだ!」
イーノックはそう叫ぶや一人猛然と前に飛び出す。
鞘から剣を抜いてシャルロットに果敢に斬りかかった。
だが、シャルロットの刃によって攻撃を阻まれる。
シャルロットは笑みを浮かべたまま大鎌をブンブンと高速で振り回す。
大鎌を振るう速度が尋常じゃなく速いため、遠目からでは巨大な刃が空中を飛び交っているように見えた。
敵はまだ全力を見せてないようで《霊力武装》を纏っていない。
素の力であれほど大きな武器を、手足のように自在に扱えるのは中々恐ろしいな。
「あははは! 人間にしては随分と抵抗しますね! だったら少しギアを上げますか!」
シャルロットはそう叫ぶと、上半身のバネのみだけで振っていた動きから、全身を活用した動きへと切り替わり、先ほど以上のスピードと威力でイーノックに襲い掛かった。
これにはイーノックも耐え切れず、数十メートル後ろに吹き飛ばされた。
彼の刀身からは黒い煙が上がっている。
「なんちゅう火力だ。腕が吹っ飛ぶかと思ったぞ」
「イーノック。ここは一時休戦してみんなで奴を倒そう」
「ああ、気に入らねえが、思った以上に強い女だ。『巨魔級』に匹敵するかもしれねえ」
「ふふふ、なんたって私が黒幕ですからね」
シャルロットはドヤ顔でそう答える。
本当に奴が元凶かどうかはさておき、『超一流武人』の実力があるのは確かだろう。
同じく超一流武人のロゼが普段側にいるので感覚がマヒしてるが、超一流武人は『一つの武功を究極に極めた』とされる最高峰の武人。
そこらへんからポンポンと無尽蔵に湧いてくるわけがない。
彼らのような一流武人とは天と地ほどの実力差がある。
本気を出せば彼らごとき一瞬で捻りつぶせるだろう。
現に、青龍団と朱雀団のメンバーに取り囲まれているにも関わらず、一切の焦りを見せていない。
強者特有の尊大な余裕を見せている。
朱雀団+青龍団 VS 黒幕シャルロット
第二ラウンドが開幕した。
「獣王剣『蛇の型』! 秘儀『蛇骨来夏』!」
「南魂剣奥義『蒼穹』!」
「地竜滅牙剣奥義『爆烈牙』!」
彼らは一斉に自身の持つ大技を放つ。
シャルロットは大鎌を天高く掲げ、大声で叫ぶ。
「絶技《血塗られた断頭台》」
そして、
勢いよく地面に向けて大鎌を振り下ろす。
すると次の瞬間、それにより巻き起こった強烈な衝撃波によって、向かってきたものを全員一斉に吹き飛ばした。
「「「「「ぐあああああああああああ!?」」」」」
彼らは大きな悲鳴を上げて次々と倒れていく。
ド迫力の一撃。
だが、派手さはあるが威力は控えめのようで致命傷は避けられた。
即死しなかったのは奴の酔狂か余裕か。
いずれにせよ、全然相手になっていないのだけは俺でもわかった。いまの一撃で全員殺されてもおかしくなかった。
「ぐぬぬ! 隙ありです! 狐の型『九尾』!」
すると、奴の背後から凛花が飛び掛かってくる。
霊力の爆発を利用し、剣を前方に向けて強烈な突きを放つ。
だが、相手の方が一枚上手だ。
油断してるように見えて奴からは隙が一切消えていない。
凛花の高速攻撃を逆に弾き返し、カウンターを入れる形で大鎌を振るう。
身動き取れない体勢で、眼を見開いたまま、自身の眉間に迫ってくる狂刃を受け入れるしかなかった。
凛花は死ぬのは火を見るよりも明らかだったので俺は即座に飛び出して間に割って入り、シャルロットの刃を《雷手》を以て受け流した。
ズドーンと轟音が響く。
俺の視界の先には、着弾を真横にズラされた刃が深々と地面に刺さっていた。
「ふむ。初めて対応する武器だったが、案外成功するものなんだな」
予期せぬ乱入者に驚いているシャルロットをよそに、俺は初めて戦うタイプの武器に興味津々になっていた。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
イェル:神医。
ザイン:朱雀団団主。
凛花:朱雀団のメンバー。
イーノック:青龍団団主。
【読者の皆さまへ】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
と思われたら、↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えて応援していただけますと嬉しいです!
多くの皆様に読んでもらうためには、どうしてもブックマークと星が必要となります!
よろしくお願いします!