第52話:神医(5)
青龍団は否定するが朱雀団との合同調査であることは事実のようであり、調査方法をどうするかで意見が分かれているようであった。
朱雀団の考えは、それぞれのリーダーのみで探索し、残りは街の守護に充てる消極論。
青龍団の考えは、町の守護は衛兵に任せ、自分達全員で調査にあたる積極論。
どちらの考えが正論かは考えるまでもなかった。
「ザイン。お前は馬鹿なのか? 上から調査の命令を受けたのだから全団員を以て調査する青龍団の考えが正しいに決まっているであろう」
俺はザインに対して説教をする。
朱雀団の方が親しいので彼らの肩を持ちたいのは山々であるが、彼の作戦は第三者から見ても消極的すぎるように感じた。
「で、ですがルクスさん。魔物の襲撃が普段の数倍以上になっているんですよ。こういう切迫化した状況だからこそ、いつも異常に慎重に動くべきだとボクは考えます」
「違うな。お前の考えは、一見すると正しいように聞こえるが、単に仲間を信用していないだけだ。ここには姿が見えないが、残りの二つの霊獣部隊もいるのであろう? だったら、朱雀団と青龍団の戦力をいたずらに残しておく必要もあるまい」
霊獣部隊は、朱雀、青龍、玄武、……えっとあと一つは忘れた。
なんだっけ?
とにかく、四つで構成されている部隊のはずだ。
全兵力の内半数も残っているのだから、わざわざ青龍と朱雀を待機させておく理由がない。
上層部だって迅速にこの問題を解決したいから依頼したわけなので、その意にそぐわないザインの指示はズレているように思えた。
街の守りが多少薄くなる事を考慮しても野外調査に全力を向けるほうが正しい選択と言えるだろう。
俺の手厳しい言葉を聞いてザインはなにかに気付かされたようで、刮目したあとはしばし沈黙する。
「たしかにルクスさんの仰る通りです……。ボクが傲慢でした。朱雀館には残りの仲間もいる。それに玄武団や白虎団だって各所で待機しています」
「わかればいいんだ」
俺は腕を組んで年長者ぶるように頷く。
リーダー格のザインが叱られて気持ちよかったのか、ざまあみろと言わんばかりの勢いで青龍団が笑った。
「ほら見ろ! やっぱり俺達の意見が正しかったじゃねえか!」
「おい謎のおっさん! おっさんにしては状況がよく見えてるじゃねぇか! 見直したぞおっさん!」
語尾みたいにおっさんおっさんと連打してんじゃねえぞチンピラ共。
この場でしばき倒すぞ。
囃し立てる彼らをギロリと睨む。
「ボクはこれまで叱られた経験がほとんどありませんでした。そんなボクでもルクスさんの言葉は心に強く響いてます」
ザインは目を輝かせながら俺を見つめた。
人前で恥をかかされたにも関わらずそれを憎む事なく諫言を素直に受け入れる度胸。
彼には人をまとめる大きな器があるようだ。
今はまだ経験が足りてないがもっと実践を積めば良いリーダーになれるだろう。
ところで、リーダーといえば、ロベルトは今頃どこで何をやってるのだろうか。
パーティ追放後の彼らの足取りはまったくわからないので俺は想像を思い浮かべることしかできない。
天下第一の剣士のロベルト。
紅蓮剣の正統後継者であるスカーレッド。
聖女セレナード。
それぞれ癖のある連中だったが全員が一流以上の武人だった。
きっと今ごろ順調に魔王軍攻略を進めているのだろう。
それはさておき、俺に刺客を差し向けた馬鹿女のことはいまだに許していない。
世界最高の美貌なのに本当の屑野郎だった聖女様。
彼女との記憶を思い出すと懐かしさより苛々が勝るので彼女の事は深く考えないようにした。
その後、俺は彼らと共に野外調査へと出向いた。
空気の読めるおっさん(二十代前半)として同行を許可されたのだ。
「あの~。ルクスさん。あの子はいったい誰ですか?」
凛花がイェルを指差しながら俺に尋ねる。
「俺の友人だ。今回の日蝕異変に協力してくれるそうだ」
「へえ、そうだったのですね。てっきりルクスさんのお子さんかと思いました」
「なぜそういう結論になるんだ」
俺とイェルの顔全然似てねえだろ。
「顔じゃなくて二人の雰囲気ですよ」
雰囲気ねぇ……。
そんな曖昧な表現をされてもピンとこないな。
「おいおっさん! どの辺を探る予定なんだ」
「おっさん言うな。殺すぞ」
「けっけっけ! この俺相手に中々肝の座った事言えるじゃねえか!」
イーノックという男性は俺の言葉に調子よく返した。
口調は悪く、性格もあまり良い奴とは言えないが、それなりに仲間に慕われているようであった。
少なからず親分としての器があるのだろう。
さて、自然な流れで意見を求められたわけだが、仲間の命を預かってるため適当な意見は言えない。
「悪いが何もわからないよ。俺はこの辺の地形に詳しくないからな。俺よりもお前らの方が詳しいからお前らが先導して決めた方が安全だろう」
「けっけっけ! 随分と素直な意見だな。たしかにおっさんの言う事は尤もだ。ここは俺達が決める方が説得力があるだろう! おいお前ら、全員俺様についてこい!」
イーノックは俺の答えに気を良くしたようで仲間を率いて先導する。
俺は、なにを考えているのかよくわからない、ボーっとした目で歩いているイェルに声をかける。
「疲れはたまってないか?」
「疲れはありませんが、段々眠たくなってきましたね」
「子供はおねむの時間だからな」
「子供扱いされるのは癪ですが否定はしないです。一日25時間眠らないと本調子にならないんです」
「25時間ってそれ一日超えてるじゃん……」
イェルの天然な言葉に呆れてると、
俺達の目の前に『黒幕』が現れた。
「黒幕~♪」
金髪縦ロールの容姿端麗な貴族令嬢っぽい魔人。
ゴスロリ衣装を身に纏っており、その背中には不釣り合いな大鎌を身につけている。
ふわふわと上空を漂いながら突如見参。
唖然となってる俺達に気づくと、彼女はにへらと笑って地面に着地する。
「聞くがよい。我こそがこの夜の世界の支配者であるぞ!」
なんだこいつ!?
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
イェル:神医。
ザイン:朱雀団団主。
イーノック:青龍団団主。
【読者の皆さまへ】
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