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第50話:神医(3)

 病院と朱雀館の拠点を行き来することになって二日が経過した。

 ロゼの怪我はほぼ完治しており、特に問題もなければ明日には退院できるらしい。

 世直しの旅と称して動き続けていたロゼにとっては良い休暇となっただろう。

 俺はそう思いながら治療をしてくれたイェルに深くお礼を述べた。


 しかし、その日の昼頃。

 俺達の暮らす街にて異変が巻き起こった。


 太陽が突如闇に呑まれて忽然と消えてしまったのだ。

 いわゆる新月と同じ状況となったわけだが、新月の周期はもう半月ほど先のはずなので、この状況は明らかな天候異変といえた。


 また、太陽が消えた代わりに、周辺に暮らしている魔物達が活性化し始めた。

 襲われて病院に運び込まれた患者達の話を聞くと、大人しいはずである低級魔族ですら襲い掛かってくるようになったそうだ。


 全員が口を揃えてそう言っていたので、前述の状況から推察するに偶発的に起きた自然現象ではなく、何者かが作為的に裏から魔物達を操っていると考えた方が自然だろう。

 なんの意図を持って起こしたのかまでは定かではないが、今後の旅にも大きく響いてくるので早急に対応しなければならない。

 俺はロゼのいる病室に向かい、そこでロゼに事情を説明した。


「俺はこれからこの異変の調査に向かう。ロゼ。お前はまだ治療中だからこの病院で待機してろ」

「ええ、わかったわ。ルクスはこの異変を起こした奴を見つけてボコボコにするのね」

「ストレートに言えばそうなるな。まあ、俺以外にも動く奴は複数いるだろうし、その時は彼らに譲るよ。俺もあんまり目立ちたくないからね」


 規模のデカさから考えて俺以外にも異変解決に取り掛かる輩は多いはず。

 俺が出陣するのはあくまで保険だ。


「ルクスは相変わらず慎重ね」

「前にも言ったが、俺はもう武人を引退している。こうやって剣を握るのもほとんど趣味みたいなもんだ」

「その言葉を他の武人が聞いたら本気で激怒するでしょうね」


 ロゼは俺の言葉に呆れ、引き攣った笑みを浮かべた。

 本気で武人をやってる者からすれば、俺の考え方は半端かもしれないが、実際問題、勇者パーティを追放された時点で俺の武人としての人生は幕を閉じている。

 ぶっちゃけ俺としては、アビスベルゼの片田舎でスローライフを送りたいだけなのに、武人トラブルが頻繁に起きてるから仕方なくその対応をしてるだけだ。


 さて、敵の正体と目的が掴めないのは少々厄介だ。

 原因の究明にどうしても時間がかかってしまう。

 もし魔王軍関連なら俺が対処するのが筋になるが、内心複雑であった。

 魔王軍関連でないのを祈るばかりだ。


「ここは城壁があるから大丈夫だと思うが、もし魔物が侵入してきたら、その時は自力でなんとかしてくれ」

「安心しなさい。その辺の魔物に負けるほどやわじゃないわ」

「それは俺もよくわかってるよ」

「ふふっ、とにかく、いってらっしゃい。気をつけてね」


 ロゼに今後の指示を送ったのち、外に出かけるためにイェルのいる院長室前の廊下を横切る。

 扉は半開きになっており、なんとなく視線を送り、興味本位で室内を覗いてしまう。

 そこではイェルが不審な行動をしていた。

 普段身につけている紺の衣装に加えて、自身の右手に《手甲鉤》を装備していたのだ。


 手甲鉤とは、掌法でよく用いられる近接武器。

 敵の剣を受け止めたり、そこから敵の体を引き裂いたりできる。

 霊力による治療が使用できる時点でなんらかの武功を習得しているのはわかっていたが、掌法の武人だったのか。

 掌法は、剣法と比べると間合いが短いため、実戦級の強さに至るまでに時間がかかる。

 そのため、これを主戦力にする使い手の数は極めて少ない。

 ほとんどの武人は剣を手放した際の緊急対処手段程度に収めている程度だ。


 そのため、手甲鉤を扱うイェルの姿が珍しく映った。

 鋭い刃を爪のように怪しく光らせる横顔はとても妖艶である。


「そこにいるのは誰ですか?」


 イェルは振り返ることなくそう尋ねた。

 おっと、女性の着替えを覗き見するのは我ながら趣味が悪いな。


 ガチャリと扉を開けて、部屋の中に入ると、イェルがこちらを振り返る。


「覗き見して申し訳ないです。イェル先生」

「ルクスさんですか」

「ため口で全然構いません。あの、まるでこれからいくさにでも出かけるような装備ですけど……」

「そうですね。太陽がなくなったので、その原因の調査に向かおうと考えていたんです」


 どうやら俺と同じことを考えていたようだ。


「院長が病院を離れるのはやばいのでは?」

「この状況が長く続く方がもっとやばいので。それに、ここにやってくる患者なんて、他の町医者と比べると月とすっぽんですよ」


 さらっと自虐するイェル。

 たしかに、ここに来てから俺以外の患者は片手で数える程度しか見ていない。

 それも全員この前のゴロツキみたいな訳アリの輩ばかり。


 少なくとも儲かってる病院とは言えないだろう。


「イェル先生は戦えるんですか?」

「数十年ぶりですが、そこら辺にいる魔物には負けませんよ」

「それは大変心強いですね」

「本気で言ってます?」

「いや……大丈夫かなって思ってます」

「アナタは正直ですね。まあ暇つぶしみたいなもんですよ。こうして理由がないと、これから先、手甲鉤を装備する機会もないでしょうし」


 イェルは淡々とそう答えた。

 どうやら彼女もまた武人の世界から一度身を引いた存在のようだ。

 てか、さらっと数十年ぶりとか言ってたが、もしかして外見相応の年齢じゃないのか?

【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

ルクス:化境の武人。

ロゼ:天魔の一人娘。

イェル:神医。

ザイン:朱雀団団主。

イーノック:青龍団団主。


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