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第45話:聖女の白刃(6)

今回は狂気しかありませんので観覧注意です

 街は地獄と化していた。

 炎に包まれる建物。

 逃げ惑う領民達。

 見知った顔が、領民達を躊躇なく殺戮している。

 女子供関係なく無差別に大勢の人々が凶刃に倒れていった。


「ロベルト! スカーレッド! アナタ方はいったいなにをしているんですかッ!?」


 私は大声で二人に向けて叫んだ。

 すると、二人が私の声に気づいて振り向いた。

 二人のいまの表情を見て、全身に悪寒が走った。

 なんと笑っていたのだ。

 人を殺すという行為に対してなんの罪悪感を抱いていなかった。


「あれ、セレナードが生きてるわ。てっきり死んだものだと思っていたわ」

「意外だね、スカーレッド。でも、セレナードが生きていて安心したよ、彼女はボク達にとって大切な仲間だからね」

「そうね。私もロベルトの言葉に同意。私達三人はいつも一緒ですもの」


 彼らは支離滅裂なやり取りをする。


「うわああああああああああん! お母ちゃんを返せぇぇぇぇ!」


 すると、領民の一人と思われる幼い子供が泣き叫びながらスカーレッドに走り寄ってくる。

 スカーレッドは、その子供を躊躇なく斬った。

 断末魔すら上がる事なく子供は絶命する。

 それを目撃した領民がまた恐怖の悲鳴を上げた。

 だが、スカーレッドはその反応を見ても、なにも気にしている様子がなかった。

 ロベルトも同じ反応である。

 彼はもっと異常で、まるで朝の散歩のように街を歩きながら、逃げ遅れた人々を次々と殺して回っていた。


 そして、また新しい標的を見つけ、そいつを殺さんとロベルトが剣を振り上げる。

 私は我慢できずにロベルトの前に飛び出して、奴の凶刃を己の剣で受け止めた。


「うん? どうしたんだいセレナード? そんな怖い顔を浮かべて、綺麗な顔が台無しだよ」

「正気ですかロベルト? 罪もない領民達を殺戮するなんて魔族でもしませんよ」

「殺戮なんてとんでもない。これは全部作戦じゃないか」

「作戦?」

「うん。あの化け物二人から逃げるために囮が必要なんだろ? だからうんと多くの人々を殺しているのさ」

「囮は多ければ多いほど効果的ですものね!」


 と、スカーレッドが嬉々とした表情でそう答えた。

 それぞれの反応を見て、二人が完全に狂ってしまったのだと理解した。

 心当たりは数え切れないほどあった。

 勇者としてのプレッシャー。

 命を狙われる日々。

 いたずらに時が過ぎ、敵と相対するたびに非道とも取れる手段でなんとか生き延びてきた。

 なにより、それに対しての解決手段がない。


 心が弱ければ狂ってもおかしくないだろう。

 だからといって、罪もない領民に刃を向けるのは間違っている。

 彼らを守るために戦っているのだから、それと真逆の行いをしたら魔王軍となんら変わらない。


 もし、私が白道の武人であれば、彼らに説教でもかましているだろう。

 しかし、黒道に身を落とした私が正義の在り方を彼らに説いても説得力がない。

 だから私は事実だけを述べる。


「囮は必要ありません。あの二人は私がすでに倒しました」

「え?」


 ロベルトは私の言葉に驚きの表情を浮かべた。

 剣に体重を込めながら怒気を強めて口を開く。


「そんなわけあるものか。彼らはいまのボク達で勝てる相手じゃない。嘘を言うのも大概にしたまえ」

「それが嘘だったら私がここにいるのに矛盾が生じるはずです」

「……ッ!」


 ロベルトは下唇を噛みしめる。彼の苛立っている感情が剣を通して伝わってきた。


「ちょっと待ちなさいよ! じゃあ私達が今やってる事っていったい何なのよ!」

「意味のないただの殺戮です」

「ふざけないで!」


 スカーレッドは感情を爆発させて剣を大きく横に振るう。

 すると巨大な炎が発生して近くの領民を巻き込んだ。


「ぎゃああああああああああ!?」

「あついあづいよぉおおおおお!」


 領民達は大きな悲鳴を上げる。私はそれを目の当たりにし、間髪入れずに、


「やめなさい!」


 と強く叫んだ。

 しかし、スカーレッドには逆効果だったようであり、彼女は獣のように咆哮して業火を街全体に撒き散らしていったのだ。

【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

セレナード:エメロード教の聖女。腹黒。

ロベルト:勇者だったもの。

スカーレッド:貴族令嬢だったもの。


【読者の皆さまへ】

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