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第43話:聖女の白刃(4)

 さて、どうやってこの状況を切り抜けましょうか。

 生存を第一に考えれば、仲間を切り捨てるのが一番手っ取り早いが、それでは戦力を失うばかりで戦況は悪化の一途をたどる。

 私の最終目標は自身の生存ではなく魔王軍の撲滅。

 逃げてばかりでは一生勝てない。


 それに、

 たとえこの身が戦いの中で滅びたとしても、私はエメロード教のために命を燃やす覚悟だ。


 聖法力を得る事が出来なかった私が、どの聖女よりもエメロード教のために尽くした。

 その証拠を生涯のうちに作りたい。

 その事実は、私自身の生きた証となる。


 自分が死んだあと。

 数百年後、数千年後の未来で、私は。

 仮初ではなく、正統な聖女として皆に認められたいのだ。


 だから、ここで逃げるわけにはいかない。


 私は聖女セレナード。

 エメロード教の頂点であり、秩序神エメロードの代行者。


 神の名の下に魔に鉄槌を!


 ロベルトとスカーレッドが隠れたまま動こうとしないので私の方から動いてやる。

 私は瓦礫をどけて立ち上がるとまずは衣服に付いた砂埃を払った。

 私の神官服は露出が多いので、こういう襲撃を受けると負傷してしまいがちだ。

 とりあえず、《回復ヒーリング》を発動して、全身のすり傷を治療する。

 気にするほどの怪我ではないが、強敵相手ではかすり傷も致命傷になりえるので、慎重なくらいでちょうどいいだろう。


「ロベルト、スカーレッド。いつまで眠っているつもりですか。戦わなければ死にますよ」


 私がそのように脅すと二人はおずおずと立ち上がった。


(……ルクスありきで戦ってきたツケが回ってきたみたいですね。この二人はもう使い物になりません)


 敵の威圧感に委縮し、恐怖を内包した表情を浮かべているロベルトとスカーレッドを横目に、私は冷静に判断を下した。

 ここにいても戦いの邪魔になりそうだ。二人とも消えてもらうか。


「ロベルト、スカーレッド。この二人は私が引き受けますので、アナタ方は市民の誘導を頼みます」

「あ、ああ! わかったよセレナード!」

「そうね! 市民が一番大事ですものね!」


 二人はそういうや否や、戦場から我先にと走り去ってしまった。

 私はそれを感情の消えた瞳でただただ傍観した。


「がはははは! 俺たち二人を相手に一人で戦おうとは、中々肝が据わってる姉ちゃんじゃねえか!」

「やれやれ、なんて無様な人間達だ。どちらが勇者かわかりませんね」


 豪快に笑うバルダルドに、ロベルト達に侮蔑的な目を向けるエイルーン。

 一方、私は心を鎮めて奴らの出方を伺う。

 迂闊に攻め入れば私が殺されるので、ここは下手に動かないのが最善だろう。


 戦局が硬直すればするほど足手まといが逃げる時間稼ぎにもなる。

 だが、私の意図を見透かしたエイルーンは、同情しながらも「戦争ゆえに仕方なし」と唱えて音功による《音撃波》を私に向けて放つ。


 その威力は、投擲された大槍が直撃するのと同等である。

 直撃すれば即死。

 音波ゆえにその身で避けることは不可能であるため、私は剣を風車のように高速回転させて衝撃波をシャットアウトする。

 直後、三日月型に形成された衝撃波が何十発も放たれるも、それも必要最小限の動きで剣で弾いていく。


「ふむ、中々防御が上手いみたいですね。だったらこれは防げるかい?」


 奴は、先ほどの二種類の攻撃に加えて、追加で上空に向けて別の音撃波を放つ。

 私の頭上にて花火が起きて、無数のレーザーが私めがけて降り注いでくる。


 心の中で小さく舌打ちをついて、自身を中心にドーム状の制空園を形成する。

 制空園とは、防御型の剣士が好んで用いる剣式陣法。

 霊力のバリアを周囲に展開し、バリアに触れた敵の攻撃を自動で叩き落すというもの。

 極めて強力な防御陣法である。

 だが、弱点もある。

 霊力の消費が大きい点だ。

 永続的に展開し続けることは不可能で、あくまでも危険な全体攻撃から身を守るための緊急防御手段でしかない。


 不本意ながらそれを今使わされている。

 あまり気持ちいい状況ではない。

 焦る気持ちを押し殺し、私は表情を一切崩すことなく二人の姿を視界から外さない。

 もしどちらか片方を視界から外せば、それが私の最期に見る景色になるだろう。


「…………」


 相手が音速攻撃なら、こちらは《追魂飛蝶》の理を用いるまで。

 蝶の動きはたいへんゆっくりであるが、素手で捉えようとすると中々捕まえられない。

 それは蝶が潜在的に身につけている柔の概念が働いているからである。

 遅い事は必ずしも不利というわけではない。

 緩急を活かし相手を翻弄することが最も重要だ。


 敵の音撃は激しさを増していくが、私の動きは次第に遅くなっていく。

 しかし、敵の攻撃は確実にすべて相殺しており、私の追魂飛蝶が通用しているのがわかった。


 すると、ピタリと奴の攻撃が止んだ。

 自身の顎を撫でながら私の動きを分析し始める。

 尤も、解説したところでそれを上回る武功がなければ突破は不可能である。


「ふむ、追魂飛蝶ですか。それもかなり洗練されているようだ。どうやらバルダルドと同じ領域に足を踏み入れているみたいだよ」

「がははっは! 面白いことを言うんじゃない! 俺はあんな遅い動きはしねえぜ!」

「そういう意味じゃなくてだね。武人として実力があるって事さ」

「そうかい! それは嬉しいことを聞いた! おい、エイルーン! お前ばかりあの女と戦ってズルいぞ! 俺にも戦わせろ!」

「やれやれ、キミは本当に戦う事が大好きだね。私の標的を奪おうとするなんて少し悪食ではないかい?」

「がはははは!」


 どちらが私と相手をするかで、二人は楽しげに会話をしている。

 やれやれ、私は彼らにとっては遊び道具でしかないようだ。


「……面倒なので二人同時にかかってきて構いませんよ」

「ほう! なかなか骨のある台詞をいうじゃねえか! だったらお望み通りかかってきてやるぜ!」

「あっ、おい!」


 すると、バルダルドが威勢よく向かってくる。

 左と右の拳に力を込めて同時に前方へと放つ。


 すると、ただのパンチが衝撃波となって放たれる。


(噂通り、掌法を習得してるみたいですね)


 掌法とは、徒手空拳を主体とする技全般を指す。

 バルダルドはそれを主戦力として扱うことが武術連盟の情報としてわかっている。

 拳とはいえ侮ることなかれ、鍛え抜かれた掌法は大型武器にも匹敵する。

 現に奴の拳の威力は、私の防御陣法を粉砕しかねない破壊力があった。

 音波ほど速くはないが、その威力は桁違い。

 まるで爆弾である。

 下手に奴の攻撃を受ければ、その威力で隙ができてしまうのは容易に想像できた。

 即座にそう判断し、左右に跳んで身をかわす。


 バルダルドは豪快に笑いながら攻撃を連打。

 その度に巨大な衝撃波が飛んでくる。

 だが、幸いにも私の方が数段速い。

 私は地面を滑るように移動し、バルダルドの攻撃をすべてかわしながらエイルーンへと迫り、斬撃を放つ。


 しかし、エイルーンは音功によるバリアを使用して私の斬撃を受け止める。

 それだけではなく、奴が笛をより強く吹くと、衝撃波が大きくなり、私は至近距離でそれを受けてしまった。


 咄嗟に剣で防いだが、私は数メートル後ろに飛ばされる。

 と、すると今度は私の背後からバルダルドが攻撃を仕掛けてきた。

 剣を翻して奴の攻撃をいなし、バルダルドの首筋に刃を押し付けるが、こちらも刃を弾かれてしまう。


(……こっちは《金剛不滅》ですか。中々厄介ですね)


 金剛不滅はあらゆる攻撃を無効化する剛の気。

 楽に勝てるとは思っていなかったが、予想以上に奴らが強くてげんなりする。


「俺の完璧な肉体を破るには神を殺すほどの一撃がなければ不可能だぜ!」

「聖職者に主を殺す度胸なんてないですよ」

「がはははは! それもそうだな! じゃあここで死ぬしかねえな!」


 自慢げに笑うバルダルド。

 特性は厄介だが、こっちは案外楽に殺せそうだ。

 タイマンなら勘付かれたかもしれないが、現在は1対2と相手側が優勢。

 自然と心に余裕が生まれる。

 そして、私はその隙を絶対に見逃さない。


 私は身を低くし、バルダルドの攻撃を待ち構える。

 攻撃が飛んでくる瞬間に合わせて、私は剣を鞘に戻し、居合の構えを取る。


 そして、普段は隠している霊力を瞬間的に解き放つ。


 次の瞬間。

 バルダルドの全身に無数の線が走る。


「神聖剣奥義『神に捧げるセプレット』」


 静かにそう告げて、バルダルドから視線を外す。

 全身から霊力が爆発したような音が聞こえた。

 それは、奴の死を意味していた。


「我が主に刃を向ける度胸はありませんが、『神を殺せない』とは一言も言ってませんけどね」


 肩越しに振り返り、群青色に燃える遺体にそう告げた。


「なななっ……!? バルダルド!」


 視界の端から、エイルーンの声が聞こえる。

 どうやらエイルーンは、バルダルドが負けるとは思っていなかったようで、動揺を隠せない様子であった。

 私はそれを見てニコリと微笑み、こう続けた。


「ご安心ください。アナタもすぐにお仲間の所へ送って差し上げますので寂しくなんてありませんよ」


【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

セレナード:エメロード教の聖女。腹黒。

エイルーン:魔王軍四天王。

バルダルド:十大魔将。


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