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第42話:聖女の白刃(3)

「ロベルトさん。今は大事な時期です。ここで目立つのは得策ではありません」


 私はできるだけ丁寧な口調で優しく彼を諭した。

 聖女スマイルも健在である。

 しかし、ロベルトは不服そうに異を唱えた。


「セレナード。戦いで最も重要な事は何かわかるかい?」

「いえ、私は戦略家ではないので」

「ならば教えてあげよう。答えは『仲間を思いやる心』だ」

「は?」


 ロベルトが答えた意味不明の言葉に私は目を丸くする。

 いやいやアナタ、自分達が今までやってきた行いの数々をちゃんと理解してます?


 仲間の追放に、仲間の切り捨て。

 生き残るために外道な行いも散々してきたでしょ。


 私も共犯なので、ロベルトの行いをあーだこーだ咎めたりはしないけど、それにしても『仲間を思いやる心』はめちゃくちゃすぎる。

 自分の耳が腐ったのかと驚いてしまった。


 そんなロベルトの答えに、私は引き攣った笑みを浮かべるばかり。

 一方、もう一人の仲間であるスカーレッドはロベルトの言葉に共感する。


「そうね! 私もそう思うわ! 仲間を思いやる。すごくいい言葉ね。私、ロベルト、セレナード。この三人はいつも一緒! 最高の仲間ってわけねっ!」


 スカーレッドは目をぎらつかせながらそう叫んだ。

 半月前まで精神を病んでいた彼女であるが、ある日を境に精神が狂ったようで、ロベルト寄りの歪んだ思想になってしまった。


 今の彼女はロベルトと私以外を人だと思っていない。

 たぶん、その辺に転がっているゴミと同じ程度の価値だと認識している。

 まあ、そう考えないと当人はやっていけないのだろう。


 本気で勝つ気がない。

 勝利への諦め。

 自己保身。


 彼女はもう、これらの感情ですでに心が支配されている。

 こういう輩はもう役に立たないので即刻切り捨てるべきであるが生憎戦力が不足している。

 この役立たずでも上手く活用しなければならない。

 そうでなければ魔王軍に勝てない。


 虚ろな瞳でスカーレッドの精神状態を分析しながら私は静かに「そうですね」と答えた。

 ここで彼らと対立しても百害あって一利なし。

 この馬鹿共を上手く泳がしながら敵の幹部を叩くしか道は残されていない。


 私は改めてそう実感した。


(エメロード教の名の下に、すべての魔に鉄槌を)


 剣が収められたままの鞘を手に取り、自身の鼻先に近づける。

 やっぱり死臭は消えていない。

 どうやら私はまだ聖女でいられるようだ。


「そういえば、セレナードってよく自分の剣を嗅いでいるわよね」

「ああ、これですか。血の匂いが気になるんですよ」


 私が答えると、スカーレッドは私の鞘に鼻を近づけて嗅いだ。

 そして、頭の上に疑問符を浮かべた。


「別に全然匂わないけど。むしろいい匂いよ。アナタって神経質なのね」

「聖女ですからね。清潔さは人一倍気になります」

「あはは、それもそうね。私も野宿とかすごく嫌い」


 スカーレッドは私の言葉に笑顔で同意した。

 その後、私は二人の要望を呑んで石像を作るために石膏屋を目指すことになった。

 私はほんと何をしてるのだろうか……。


 ◆ ◆ ◆


 四天王の襲撃があったのはそれから三日後の事だった。

 数日かけて自身の石像を作ってもらっているロベルト。

 それをのんびりと眺めている私とスカーレッド。


 そんな平和な時間をぶち壊すように、現在私達のいる部屋が爆発と共に壊滅した。


「きゃああああああ!」


 その衝撃で吹き飛ばされる私達三人。

 スカーレッドの悲鳴が合わせて聞こえる。

 瓦礫に埋もれる形で、私は周囲の状況を急いで確認する。


 南東の方角から二人の魔人が近づいてきていた。


 一人は、赤髪の魔人。

 頭部には二本のツノが生えており容姿も凶悪だ。

 体格は私達よりも二回りも大きく、二メートルは軽く超えている。

 筋肉もりもりで強靭な肉体を誇る鬼の怪物であった。


 もう一人は、白髪で細身の男性。

 容姿端麗で、長笛を口に咥えている。

 先程の攻撃はおそらく奴が放った『音撃波』だと思われる。


 そして、その予想が正しければかなり厄介だ。


 この白髪の男はエイルーンということになる。

 音の武功を極めている魔王軍四天王であり、その強さは化境にも匹敵する。


 そして、その隣にいる武人は、おそらくバルダルドだろう。

 四天王ではないが十大魔将の一人であり、魔将の中でも極めて強い奴だ。

 昨日私が瞬殺した狼男とは比較にならないのは言うまでもない。


(まずいですね……。まさか四天王が直々にやってくるのはちょっと予想外でした)


 瓦礫の中に潜みながら状況を分析する。

 最悪極まりない。

 化境と超一流武人の敵が同時に出現。

 悪い夢だと思いたいくらいだ。


「そこにいるアナタ」

「!!」


 音功の達人エイルーンは私のいる位置から五メートルほど横に離れた別の位置を指差した。


「アナタが勇者ロベルトですね。初めまして、私は四天王のエイルーンです」

「そして俺様はバルダルドだ。お前達を全員殺しに来てやったぜ! がはははは!」


 二人は余裕綽々で自己紹介をした。


【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

セレナード:エメロード教の聖女。腹黒。

ロベルト:傲慢な勇者。

スカーレッド:尊大な貴族令嬢。


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