第41話:聖女の白刃(2)
翌朝、教会への礼拝を済ませた私は、宿屋への帰路にて、町民たちの噂話を小耳に挟んだ。
宿屋付近の修練場で魔人の死体が発見されて、朝から大騒ぎになっているそうだ。
「なんでも魔人は即死のようだ。首を一撃で切り落とされているってよ」
「魔人相手にそいつはすげえ。間違いなく名の知れた達人だな」
「ああ! それに比べて今の勇者パーティは本当に情けない……! このお方とメンバーを入れ替えた方がいいんじゃないか?」
私は嘆息して、そのまま彼らの横を無言で通り過ぎた。
ここ数か月結果を残せていないので、勇者パーティの評判は次第に悪くなっている。
特に、領民の間での評判は著しく悪い。
幹部はまだ何も言ってこないがそれも時間の問題だろう。
早い段階で、陣法の対策と新しい仲間を迎えなければならない。
教会には既に連絡を送っているが返事は芳しくない。
幹部が表に出ると領民が不安になる。だからお前達で対応しろ。この一点張りである。
手紙が返ってくるたびにそれを破り捨てる日々。
イラつきすぎて頭がおかしくなりそうだ。
問題は山積みであるが、それを解決しようとするとまた別の問題に直面する。
悪循環に陥っているのが自分でもわかった。
『ルクスがいなくなってから、魔人がとてつもなく強くなったわ』
ふとした瞬間にスカーレッドのあの言葉の記憶を反芻してしまう。
私も一人の武人だ。
その言葉の意味にまったく気づいていないわけではない。
ただ、その事実を信じたくないだけだ。
いまは、奴が我々の情報を売ったと決めつけているが、奴が仲間を傷つけるような外道ではない事は半年間の振る舞いでわかっている。
むしろ、本当の外道は私を含めた武術連盟側だ。
四大門派以外を絶対に認めない凝り固まった歪んだ思想。
いまの武術連盟はそのような思想の持ち主が幹部として君臨している。
しかし、それを私一人でどうにかできるかと言ったら答えは不可能だ。
この国では、彼らの思想に則って行動しなければ排除されてしまう。
もはやこの国に白道など存在しない。
だが、正義がいなくとも世界は回る。私はそれを痛いほど理解している。
それに、エメロード教を浸透させるには、彼らの思想を受け入れなければならない。
ルクス一人の犠牲で済むなら私はエメロード教の発展を選ぶ。
そして。
これが一番の理由になるだろう。
私は今日に至るまでに数多くの者を処刑してしまった。
私の剣には血と怨念がこびりついている。
いくら浄化しても死臭が消えない。
今更罪を悔いたところで白道に引き返すことなんてできやしない。
だったらやる事は一つ。
毒を喰らわば皿まで。
私はエメロード教の『絶対的執行者』として聖女を死ぬまで全うするつもりだ。
エメロード教に仇名す存在は皆殺しにする。
その覚悟が私にはある。
「エメロード様。今の私は間違っていますか?」
私は天を仰いで神に尋ねる。
やはり、神からの答えはない。
いっそのこと、間違っていると咎めてくれた方が気持ち的にも楽なのに。
「…………お腹が空きましたね。今日の朝食はなんでしょうか」
感情のない声でそう呟き、重い足取りで宿屋へと帰還した。
ロベルトとスカーレッドはすでに朝食を終えて部屋で寛いでいた。
「おかえりセレナード。今日はいつもより遅かったね」
「毎日礼拝するなんてアナタも真面目ね」
「私は誰よりも敬虔な信徒ですから」
そう答えつつも、心の中ではどこか神を信じられなくなっていた。
もちろん表情には出さないが。
「今日の朝食は?」
「ありきたりな庶民の食事さ。半分も食べれなかったよ」
「私なんて一口食べて全部残したわ」
二人は笑いながらそう答えた。
彼らの言葉に内心嫌悪感を覚えながらも私は外面のいい笑みを浮かべる。
「いけませんよ、お二人とも。すべての食材には秩序神エメロードの加護が宿っているのですから」
「はいはい」
とスカーレッドが適当に返事をする。ロベルトも同じ反応を見せた。
「それよりロべルト。今日はどこに行く?」
「そうだな~。石膏屋にでも出向いて俺達の銅像でも作ってもらおうか。勇者パーティといえばやっぱりこれっしょ!」
「いいわね! 魔王を討伐した後だと忙しくなりそうだものね!」
こ、こいつら……。
自分達のいまの立場がわかっていないのか?
戦況を立て直すために、あえていったん戦場から一歩身を引いているのに、ここで目立つ行為をしたら意味がなくなるだろ!
二人の考えなしの行動に私は言葉を失ってしまった。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
セレナード:エメロード教の聖女。腹黒。
ロベルト:傲慢な勇者。
スカーレッド:尊大な貴族令嬢。
【読者の皆さまへ】
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