第39話:快刀乱麻(完)
一撃の下でロゼの全力投下を粉砕した俺。
彼女が内功を負傷してなければここまで優勢に戦えなかっただろう。
万全だったら、三日三晩戦い続ける羽目になっていたかもしれない。
そう考えると、天運も俺に味方していたようだ。
切り札が敗れたのを確認したロゼの表情は、驚愕しつつもどこか嬉しそうであり、俺の勝利を祝福しているように感じた。
万の言葉を並べるよりも、一振りで相手を納得させる一撃。
快刀乱麻を断つ。
複雑に絡んだ面倒なしがらみさえ、武人の魂より勝るものはない。
ロゼはいさぎよく敗北を認めた。
同時に、口から大量の血を吐いて仰向けに倒れた。
俺はすぐさまロゼの真横へと跳んで倒れているロゼの経穴を衝く。
経穴とは、霊力の循環で重要視されるツボのことであり、武功に深く関わる経穴は18か所存在する。
そのうちの4か所を狙った。
いずれも霊力の内傷を止めるための治療の役割がある。
(気脈の乱れを正したおかげで、走火入魔は避けれたが、内傷が思ったよりも酷いな。ちゃんとした医者の治療を受けたほうがいいな)
内傷を悪化させたロゼに呆れつつ、俺は彼女を担ぎ上げた。
いわゆるお姫様抱っこのような体勢。
恥ずかしがり屋のロゼはこれを知ったら赤面するだろうが彼女は現在気絶している。
俺がなにも言わなければ気づくことはないだろう。
「おい。そこのお前」
俺は近くで観戦していた野次馬に呼びかける。
「は、はいィ!?」
彼は高い声を発して狼狽える。
周りにいる野次馬たちも同じ反応を見せる。
俺達の戦いを目の当たりにした今、彼らの前に映る俺の姿は、人の皮をかぶった怪物にしか見えないだろう。
「ななななんでしょうか!?」
「アナタ様に逆らおうだなんて畏れ多い事は絶対考えましぇええええん!」
「こ、これから先一生悪い事しないのでどうか許してくだしゃい!」
彼らは次々と土下座をする。
地面に額を擦りつけながら命乞いを始めた。
だが、俺は彼らを制裁するために話しかけたわけではない。
俺の第一優先はあくまでもロゼの治療。
彼らなど眼中にない。
「この街でもっとも優れた医者を紹介しろ」
「お医者様ですか?」
「ああ、そうだ。この子を治療するためだ」
「そ、それでしたら、町外れに『神医』が暮らしています」
「神医?」
「はい。イェルという名前の医者です。容姿は……えっと、これくらいの小さい子供です」
男は、十歳にも満たない背丈を手の平で表現した。
俺はそれを見て、霊力を一気に解放する。
「この状況下で冗談を言えるとは中々肝が据わっているな」
「ひいいいい!? う、ウソではありません!」
「子供ですが、医術の腕前は天下一品です! この町にいるゴロツキ達はみんな彼女にお世話になっているんです!」
一同そう述べながら、どうにか必死に信じてもらおうと必死であった。
どうやら嘘を述べている様子でもないので、神医の住処を知っている男を数人指名して、彼らと一緒にイェルという医者のもとへと向かった。
彼らが案内したのは会話にも出てきた町外れ。
スラム化しており、プレハブ小屋や長屋が多くあった。
都心部と比べると地区全体の建物がみすぼらしい。
本当にこんな場所に神医がいるのだろうか。衛生的にも問題しか感じない。
正直嘘を言っているようにしか思えないのだが……。
「あ、あそこの屋敷です」
男の一人が指差すその先。
スラム街の中では、かなりまともな方である、二階建ての屋敷があった。
男が扉を数回叩くと、
「むにゃむにゃ、こんな夜更けに尋ねてくる常識知らずは、いったい誰です?」
と、眠そうに眼をこすりながら、十歳前後の幼女が姿を現した。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
ロゼ:天魔の一人娘。
【読者の皆さまへ】
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