第4話:首謀者
「ルクスさん。これ差し入れです」
留置所にやってきたアリアンナが牢屋の中にいる俺にメロンパンを手渡した。
俺はメロンパンを受け取ってアリアンナに深く感謝する。
「ありがとうな、アリアンナ」
彼女が善意で買ってきてくれたメロンパンを半分に割る。
そこにはなにも入ってなかった。
どうやら普通のメロンパンのようだ。
庶民の間で流行っている大衆小説などではこのメロンパンに脱獄用道具が仕込まれていたりするものだが、彼女の場合はマジで普通のメロンパン。
口に運んでみる。
すごく美味しかった。
彼女の優しさが詰まっているようだ。
「この国絶対におかしいですよ。どうして悪党達を成敗したルクスさんが捕まって、悪党達は釈放されるんですか」
アリアンナは納得のいかない表情を浮かべる。
憲兵に盗賊達を手渡す際、盗賊達は自分達が正派の人間であると偽って、大声で叫んだ。
すると憲兵が邪派の俺を悪者だと決めつけて俺だけを拘束して牢獄にぶち込んだ。
正派は正義で邪派は悪。
この共通認識が末端まで行き届いている事実を嫌でも突き付けられた。
この国ももう長くないな。
完全に腐敗している。
今回の憲兵の対応を機に、この国を捨てて隣国に行こうという意志がさらに固まった。
「俺は正派の武人ではないからな。この国では正派でなければ武人は人権が与えられない」
「そんな……! 正派ひどい。あまりにも横暴です。何も悪いことをしてないルクスさんが可哀想です」
感情的になったアリアンナがその場でシクシクと涙を流す。
鉄格子の隙間から手を伸ばしてアリアンナの頭を撫でる。
彼女を慰めるためだ。
「ぐすんぐすん。ありがとうございます。ルクスさん成分を補給したおかげで、少しだけ気分が落ち着きました」
アリアンナは元気を取り戻して笑顔を作る。
直後、留置所に看守の怒号が聞こえた。
「おい、そこのエルフ娘。差し入れを届けたらさっさと外に出ないか!」
「むぅ……。もう少しルクスさんとお話ししたかったのに……。ルクスさん。また差し入れを持ってきますね。だから最後まで希望を捨てないでくださいね」
「ありがとうな、アリアンナ」
「ありがとうだなんて……私は当然のことをしてるまでです」
アリアンナは両頬を手のひらで覆って照れくさそうにモジモジとする。
アリアンナが牢屋を去って入れ違いになるように看守がやってきた。
「希望を捨てないでか。けけけ、あのエルフ娘。何も知らなくて滑稽だぜ」
看守は下品な笑い声を上げてそう言った。
「それはどういう意味だ?」
「お前はすでに第一級犯罪者として武術連盟から殺害指令が出ている。今回お前を拘束したのも裁くためではなく殺すためだ」
「な、なにぃ!?」
看守の言葉に俺は驚愕する。
「もう一つ良いことを教えてやろう。明日には聖女セレナード様がこの町にやってくる。お前を公的に抹殺するためにな」
「セレナードだと!? ま、まさか今回俺を拘束した首謀者は……」
「そう! あの聖女セレナード様だ。あのお方は、邪教であるお前を誰よりも排除したがっているのさ」
なんて恐ろしい女だ……。
たしかに真っ先に襲撃してきたあの神官三人も教会の人間だった。
教会のトップであるセレナードが裏で手を引いていたのなら辻褄があう。
さらに、予期せぬトラブルが俺に襲い掛かってきた。
「きゃああああああああああ!!」
「へっへっへ。どうやら始まったようだな」
「アリアンナの悲鳴……。お前たち、アリアンナに一体何をするつもりだ!」
「ひゃはは、奴はお前に手を貸そうとした大悪党だ。だから取り調べを行うのは正義として当然だろ。まあ、普段の取り調べとは若干手法が異なるかもしらねえけどな、へっへっへ……!」
「この屑共め……」
俺は目の前の看守を睨み据える。
正派め。
そっちがその態度なら俺も手段を択ばないぞ。
雷天剣の真の恐ろしさをお前ら正派に教えてやる!
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
アリアンナ:エルフ族の女の子。
【読者の皆さまへ】
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