第31話:獣王剣(完)
それからほどなくして、死風刀血が姿を現した。
アジトの目の前で威風堂々と立っており、右手には大剣を握っている。
死風刀血は、黒色のローブ着ている壮年の男だった。
身長は180センチほど。
頬には大きな傷があり、人相も悪い。
いかにも盗賊の親分という出で立ちだ。
だが、彼から発せられる霊力量は本物であり、超一流の武人であることが見て取れた。
以前戦ったサラザールよりもはるかに霊力量が多い。
奴が巨魔という話はどうやら嘘ではないようだ。
ロゼの情報によると、死風刀血は性格が非常に残忍であり、強盗殺人に快楽を得ている精神異常者。
神教の第一原則である一般市民には手を出してはいけないという規則を何度も破ったことでついには破門となった。
破門になる前は"五戒地獄道"という外道派閥を形成しており、女子供をこれまでに108人も殺している。
人は彼を殺人大晦日と呼んでいる。
死風刀血の姿を確認すると、ロゼが進んで前に出た。
「久しぶりね、死風刀血。本教を破門されたあとも、心を入れ替えずに人を殺しまわってるみたいね。本当にアナタって救いようのない屑なのね」
「き、貴様は天魔宝剣! なぜ貴様がこんなところにいる!」
「罪深きアナタを断罪しに来たのよ。ありがたく思いなさい」
「ふざけやがって!」
死風刀血はロゼの顔を知っているようで、ロゼの姿を確認すると激しく動揺した。
また、ザインを含めた朱雀団のみんなも、ロゼが天魔の娘である事を知って全員が驚愕する。
「ええ、えええええ!?」
「ロゼさんがあの天魔宝剣だったんですか!?」
「天魔宝剣といえば、若干14歳ながらすでに巨魔の領域に足を踏み入れている天才美少女剣士であり、教主様と同じ剣術……《暗花神剣》を習得しているお方」
「まさかロゼさんが教主様の娘さんだったなんて信じられない。ボクは夢でも見ているのか?」
とザインも唖然となっていた。
まあ、こんなところで教主の娘と出会うなんて普通思わないもんな。彼らの反応は至極当然といえた。
「死風刀血……いえ、盗賊に堕ちた哀れな男。懺悔の用意はできているかしら?」
ロゼは一歩前に出て宝剣を顕現させた。
普段はペンダントとして体に身に着けているが戦闘の際には通常の大きさに戻ってロゼの武器となる。
宝剣は、訓練で用いた三才剣と同じ長さの片手剣。
奴の所持する大剣よりも威力は低いが、ロゼの霊力を以てすれば威力などいくらでも上げられるだろう。
「ルクス。こいつは私が殺すわ。アナタは手を出さないで。天魔の娘としてこの屑野郎をこの世から排除する義務があるもの」
「承知した」
どうやらロゼが進んで戦うようだ。
本気状態のロゼの実力は俺も知っているので止めたりはせず、ロゼの戦いを静かに見守ることに決めた。
「天魔の威を借りているだけの小娘が。この俺に勝てるとでも思っているのか」
「弱い奴ほどよくほざく。それは、実際に私と戦えばわかるわ」
「小娘が、いきがりやがって。獣王剣『百獣の型』を極めた俺の恐ろしさ、その目に刻み付けてやろう」
死風刀血はそう叫ぶと、一直線にロゼに迫る。
ロゼも反応して前に出て剣で攻撃を受け止める。
剣と剣がぶつかり合って衝撃波が起きた。
それだけでは終わらず、今度は何十回も剣と剣を打ち合って、二つの黒い光が超高速で戦場を飛び交っている。
霊力武装を纏って、肉体の限界を超えたパワーとスピードを手に入れているので、彼らのバトルを肉眼で捉えるのはとても困難だ。
「す、すごい。ロゼさんってこんなに強かったんですね」
「普段は実力の十分の一も出していなかったようだな。霊力量も前回の1000から10倍に跳ね上がっている」
「霊力一万!? 霊力一万といえば、えっとザイン。お饅頭何個買えるっけ?」
「お腹いっぱいだ!」とザインが答える。
「すごい!!!!!?」
どうやら凛花は、剣術に精を出しすぎて学術的な部分は疎かにしていたようだ。
さて、ロゼの真の実力も判明し、安心して勝負を眺めることができるようになった。
戦局は今のところはロゼ側が優勢。
狂風暴雨、魂魄滅壁、神龍流水。
超一流の殺人技を呼吸するように淀みなく次々と放っていく。
死風刀血も決して弱いわけではないが、ロゼの習得している《暗花神剣》が一歩先をゆく。
ロゼが技を放つたびに、周囲に黒い花びらが吹き荒れる。
そしてついに、死風刀血の右肩に一撃が入る。
奴はとっさに避けたので致命傷には至らなかったが、それでもある程度のダメージは入ったに違いない。
怒りに溢れた表情でロゼを睨む。
「ぐうううううううう! この俺に傷をつけやがってえええ!! 絶対に殺してやる! くらえ、百獣の型、最終奥義『獣王喰い』」
霊力を限界まで凝縮させた剣ビームを放つ。
すると霊力の形が、巨大な獅子の姿へと変わり、ロゼに襲い掛かる。
それに迎え撃つ形で、ロゼは剣を上段に構えなおし、霊力を開放する。
「暗花神剣……奥義」
ロゼの背後に超巨大な魔法陣が形成されて、ロゼの霊力を限界まで集約させる。
凝縮した霊力は流水のように宝剣へと集中して天を貫くほど長くなる。
圧倒的なまでの膨大な霊力量。
それを線密に編み込んだ霊力の剣。
「『乾魂天華』!」
その叫び声と共に、猛然と突き進んでいく獅子めがけて一気に剣を振り下ろす。
お互いの霊力が衝突。
周囲の木々を吹き飛ばすほどの凄まじい衝撃波が発生する。
お互いの霊力がぶつかりあって激しく拮抗する。
表立って顔には出さないが、ロゼもかなり限界のようであり、眉間にシワを寄せながら歯を食いしばっている。
終盤、ロゼがさらに一歩踏み込んで二撃目を放つ。
それによって均衡が崩れ、ロゼの霊力の激流が死風刀血を飲み込んだ。
戦いの終わり。
死風刀血の肉体は文字通り、木っ端微塵に吹き飛んでこの世から消え失せた。
ロゼが勝利したのだ。
正直、どちらが勝ってもおかしくなかった。
お互いの必殺技はそれほどまでに洗練されていたからだ。
ロゼは奴の死を確認すると、崩れるように両膝をついて口から大量の血を吐いた。
「ロゼさん!?」
アリアンナが慌てて駆け寄り、ロゼに寄り添った。
「先ほどの戦いで内傷を負ったようだな。あまり無理をするからだ」
と俺はロゼを祝福しつつも、彼女が無理をして戦っていたことを咎めた。
「ふふふっ、ごめんなさい。反省してるわ」
ロゼは反省の言葉を述べつつも、巨魔に勝てたことが相当嬉しかったようで、口から血を流しながら笑っている。
「しばらくは治療に専念だな」
「どうやらそのようね。思った以上に強くて正直焦ったわ。腐っても巨魔ということかしら」
魔王軍の巨魔級に比べると若干質は落ちるが、この国の巨魔級もかなり高い水準の武人で構成されているようだ。
巨魔というのは、時代や組織によって強さにバラつきがある。
アビスベルゼの巨魔級:霊力1万
魔王軍の巨魔級:霊力5万
強さの水準は、大体こんな感じか。
あっちは巨魔が四人(※四天王)しかいないので、アビスベルゼのトップ層がこれに該当するのだろう。
仲間の勝利を喜ぶよりも先に強さを分析する……。
俺も武人の悪い癖がまだ抜けきっていないな。
自分自身に呆れながら、俺は改めてロゼの勝利を祝福した。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
ロゼ:天魔の一人娘。
【読者の皆さまへ】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
と思われたら、↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えて応援していただけますと嬉しいです!
多くの皆様に読んでもらうためには、どうしてもブックマークと星が必要となります!
よろしくお願いします!