第29話:獣王剣(9)
「ところで凛花。青龍団との交渉は上手くいったかい?」
「それが……」
凛花はザインに青龍団との交渉が失敗した事を説明する。
ザインは難しい表情を浮かべた。両腕を組んで悩ましげに唸っている。
「ごめんなさい。私が我慢できなかったばかりに」
「いいんだ。キミが師匠想いなのはボクも知っているから。だが困ったな。このままではボク達だけで奴らを倒さなければならなくなる」
「奴らを倒すって、何の話をしているんだ?」
と俺の方からザインに尋ねてみた。
横から話を聞いた限りだと、これから戦に出かけるようなやり取りだ。
「実は昨日、ここらで暴れまわっていた盗賊の一味を捕まえた旅人がいらっしゃいまして、その方々のおかげで奴らのアジトが判明したんです。そして、その盗賊団の完全討伐依頼が朱雀団に舞い込んできました」
「ふむふむ」
「ですが、奴らの頭数は少なく見積もっても50人以上います。我々だけでは危険だと判断して青龍団に応援を要請したんです」
「俺達は他所から来たから知らないんだが、朱雀団や青龍団というのはいったいなんだ?」
「えっと、天魔神教に存在する魔人育成機関『四霊獣』の一つです。朱雀団、青龍団、白虎団、玄武団の四つが存在してて、全員が魔頭以上で構成されているのが特徴です」
ロゼに視線を向けると、ロゼは小さく頷いた。
その後、ロゼが言葉を付け加える。
「彼らは、天魔神教の未来を担う若手達よ。特に、四霊獣の団主は、いずれお父さん……じゃなくて天魔直下の近騎士になりえるから超エリートね」
未来を担う若手……。
"勇者パーティ"みたいなもんか。
勇者パーティは意図的に若手中心で構成されており、四大門派の連盟幹部はメンバーとして選出されていない。
理由はたしか、連盟幹部が表に出てくると民全体が動揺するからだっけか?
戦争が長引く方が民全体が困ると思うのだが、幹部達はなんだかんだ言い訳をして戦場には絶対出てこない。
そんな腐った幹部しかいないから、あそこまで差別意識が強いんだろうな。
四霊獣がどのような意図をもって作られたのかは天魔教主にしかわからないが、斜に構えた偏見はできるだけ持たないようにしよう。
「エリートだなんてそんな。ボクはまだまだ修行中の身です」
ロゼの言葉にザインは照れながら謙遜する。
彼の言葉には嫌味を感じられず彼の性格が良さがよく表れていた。
「もう一度交渉するのか?」
ザインは首を振る。
「いえ、そんな時間はありません。期間が空くと盗賊達に勘付かれますので、明日の明け方には町を出発して、我々の手で盗賊団を倒します」
ザインは真面目な顔でそう告げた。
彼の表情には強い意志と使命感が含まれている。
とはいえ、先ほど敵の数が多いと聞いたばかりなので、彼らだけに任せておくのは少し心配だ。
ロゼも同じ気持ちだったようで、彼らのために討伐隊への志願を提案する。
「ねえルクス。ここで出会ったのも何かの縁ですし、私達も彼らに協力しましょうよ」
「ああ。そうだな。敵の数も多いし、戦力は多いに越したことない」
俺もロゼの提案に賛同した。
「え!? もしかしてルクスさんたちも協力して下さるのですか!?」
凛花は驚きながら嬉しそうに顔を綻ばせた。
「凛花。彼らは旅の方だ。ボク達の問題に巻き込んじゃいけないよ。それにあの盗賊団には死風刀血という達人もいる。ボク達じゃないと倒せない」
しかし、ザインがそれに待ったをかけた。
彼は責任感が強く、俺達部外者を危険な目に合わせたくないようだ。
「そ、そうですよね」
と凛花は残念そうに頷いた。
「旅の方。今回はそのお気持ちだけ受け取っておきます」
ザインのその言葉で俺たちは盗賊団討伐メンバーから外された。
その後、凛花から推薦状を書いてもらい、俺達三人は朱雀館をあとにする。
「ロゼ。さっきの話をどう思う?」
俺の方からロゼに尋ねる。
「危険ね。死風刀血は神教から破門された男だけど、その実力は巨魔にも匹敵するとされている。朱雀団のメンバーは魔頭から魔将級で、巨魔には太刀打ちできないはずよ」
「そうなのか。だったらやることは一つだな」
「でも、応援は必要ないとザインさんは言ってましたよ」
「アリアンナ。彼らの応援をしにいくわけじゃない。たまたま彼らと行き先が同じだけさ」
「なるほど!」
「確かに行き先が同じだけなら仕方ないわね♩」
俺の言葉にアリアンナとロゼはいじわるな笑みを浮かべた。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
ロゼ:天魔の一人娘。
アリアンナ:エルフ族の一人娘。
ザイン:朱雀団団主。
凛花:朱雀団のメンバー。
【読者の皆さまへ】
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