第28話:獣王剣(8)
同じテーブルで料理を囲みながら凛花と楽しく食事をとる。
彼女が獣王剣の使い手ということもあり、自然と会話の話題も獣王剣へと流れて行った。
獣王剣。
開祖は白狐族のリリア。
元々は一介の奴隷少女だったが、剣士の素質があったことで、剣を握って一年もしないうちに超一流の剣士へと変貌した。
また、主君への忠誠心が高く、自身が奴隷である事にもさほど気に留めていなかったらしい。
彼女が世界的に有名になったのは"百年戦争"での活躍だろう。
百年戦争とは、魔族と人間の全面戦争であり、人々が東方大陸に移り住むキッカケともなった大戦。
彼女はそこで大いに活躍した。
この世で最も多く魔族を殺した剣士として名を馳せている。
そんな彼女が遺した剣術が、この『獣王剣』である。
獣王剣の特徴は、生き物の動きを模倣した型が無数にある点だ。
超一流の獣王剣士は、複数の型を一瞬で切り替えながら戦うため、動きの予測が困難。
初見殺し性能が極めて高い。
だが、大きな欠点もある。
剣式にあるというよりも、人間の本質的な部分。
人間というものは単純で、自分が最初に覚えた型が一番優れていると考えがちだ。
そのため、同門内での対立が根深い。
四大門派の一つなので使い手の一人が勇者パーティに加わる予定であったが、誰が加わるかで大いに揉め、結局選出が定まらなかった。
まあ、誰がパーティに加わろうと、あの国の武人は、『四大門派以外は悪』の精神なので、俺が追放される未来は避けられなかっただろう。
一方で、アビスベルゼの獣王剣使いは優しく親切丁寧。
対面に座っている凛花も柔和な口調で俺達と会話を弾ませている。
ロゼの言う通り、剣術そのものに善悪はないんだなぁ……。
俺は改めてそう感じた。
「凛花に一つ聞きたいことがある。獣王剣に、弓矢を用いた武功があるというのは本当なのか?」
「はい、本当ですよ。クエム地方に暮らしてるサクラ小姐が弓矢の達人です」
昨日の道場主と同じことを口にしている。
そこそこ名の知れた武人なのかもしれない。
"そこそこ"と付け加えたのは、天魔神教の武人を大抵把握しているはずのロゼが知らなかったからだ。
本当にめちゃくちゃ強かったらロゼも把握してるだろうしね。
ロゼが把握してるかどうかは、俺の中での一つの指標となっている。
「せっかくなので推薦状を作りましょうか?」
「え? いいのか?」
「全然かまいませんよ。ここで出会ったのも何かの縁ですし、私も獣王剣の使い手が増えるのは大歓迎です」
「それならお願いしてもよろしいでしょうか」
とアリアンナがペコリと頭を下げた。
すると凛花は優しげな笑みを浮かべて頷いた。
「食事が終わったら、現在私が宿泊してる朱雀館に行きましょう。そこで推薦状を書きます」
やったぜ。
これでアリアンナが武功を学びやすくなった。
凛花の話によれば、クエム地方には歩いて一週間程度で到着する距離なので、目的地に到着するまでに学習のために必要な準備状態を作っておきたいな。
昼食後、俺達は凛花に案内されて朱雀館へと赴いた。
朱雀館は町の中央に建てられている。建物全体が赤い色をしており、門の部分には大きな朱雀のオブジェクトが置かれていた。
門をくぐると剣術の訓練をしている青年たちを発見した。
その内の青年の一人が俺達に気づいて手を止める。
身長は170センチ程度。全身がバランスよく鍛えられており、引き締まった体つき。
優しそうな相貌の好青年。
青色を基調としたオリエンタルな服を着ている。
「凛花。そちらの方々は?」
「この人たちは先ほど私を助けて下さった恩人です」
「恩人!? これは大変失礼しました。私は朱雀団の団主を務めているザインと申します。朱雀団の代表としてアナタ方にお礼を申し上げます。大切な仲間を助けて下さり、本当にありがとうございました」
ザインは、とても丁寧な口調で恭しく頭を下げた。
「ザイン。彼らは獣王剣を学びたいそうです」
「ほう! 凛花と同じ流派ですか。それは素晴らしいですね。凛花の剣術はとても綺麗ですから」
「ちょ、ちょっとザイン。綺麗だなんてそんな。私は普通に剣を振るっているだけで」
すると、凛花は顔を赤らめながら早口で否定した。
「ほうほう」
「ふむ、なるほど。二人はそういう関係ですか」
アリアンナとロゼが、凛花の今の反応に何かを感じ取ったようで、ニヤニヤと謎の笑みを浮かべ始めた。
どう見ても凛花の片思いにしか見えんが、他人の恋愛にどうこう言うつもりはないので俺は深く考えずに会話を続けた。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
凛花:朱雀団のメンバー。
ロゼ:天魔の一人娘。
アリアンナ:エルフ族の一人娘。
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