第3話:エルフ族の少女
『神官三人との勝負に勝った。ルクスは賞金5万メルを手に入れた!』
神官達を木に縛り上げた俺は、彼らから所持金を徴収した。
彼らの所持金はセカンドライフに向けた軍資金として有効活用させてもらおう。
罵詈雑言を口にする三人を無視して俺は公園を離れた。
駅へと赴いてそこで馬車を探す。
アルエク地方行きの馬車を見つけたのでそれに乗車した。
俺を乗せた馬車が速度を増して街道を心地よい馬の足音と共に駆け抜けていく。
正門を抜けると人の数も次第に減っていき、山脈のつらなる雄大な大地が俺を出迎えた。
アルエク地方を新天地に選んだ理由は戦地から一番遠く離れているからだ。
スローライフを送るにはそこがぴったりだと判断した。
馬車の窓から外の景色を眺めつつ、旅行気分で馬車の旅を楽しんでると……
「あの、急にすいません」
隣に座ってる怪しい奴が俺に話しかけてきた。
黒色のローブを全身に纏っており、頭をフードで隠している。
声の高さから若い女性だとわかった。
「なんだ?」
「リーシャという名前のエルフ族の少女に心当たりはありませんか?」
「いや、一度も聞いたことない」
「そうですか……」
謎の女性はしょんぼりとした様子で項垂れた。
「お前、もしかしてエルフ族なのか?」
「ど、どうして私がエルフだとわかったんですか!? 長耳を隠すためにフードを深く被っていたのに!?」
女性はとても驚いた様子でこちらを振り向いた。
「なんとなくだけど……。いや、結構マジで」
「すごい……。なんとなくで当てるなんて……」
こんなしょうもないことで尊敬の念を抱かれても反応に困るな。
「俺はルクスだ。キミは?」
「私はアリアンナです」
「アリアンナか。この場だけの短い付き合いになると思うがよろしくな」
「はい、よろしくお願いします。あっ、フードを被ったままではルクスさんに失礼ですね」
そう答えて、アリアンナは被っていたフードを外して、自身の素顔を露わにした。
金色の髪を赤いリボンで束ねて結んでいる。
右耳から胸元にかけて縦ロール状に流れている。
容姿端麗で可愛らしい。
特徴的な部分はやはり耳が尖っていることだろうか。
本人も自分をエルフ族と名乗っていた。文献に書かれていたエルフ族と外見的特徴が一致する。
それにしても綺麗な女性だ。
街を歩けば10人中10人が振り返るレベル。
エルフ族を見たのは生まれて初めてだったが、話で聞いていたよりも遥かに美しかった。
年齢も俺とそう変わらなさそうだし、突然現れたとびきりの美少女に俺の心は胸躍っていた。
簡素な鎧のようなノースリーブの翡翠色の上着。
お腹周りは肌が露出している。
緑色のミニスカートと黒タイツの間には美しい絶対領域。
しばらく見惚れていたが、俺はハッとなり咳払いする。
「えっと、すまない。つい見惚れてしまった」
「いえ、殿方のそういう目線は慣れていますから」
彼女もそういう目で見られるのは好んでいないみたいだし、俺も発言には気をつけよう。
「アリアンナが探しているリーシャはいつからいなくなったんだい?」
「半年前です。リーシャは私と同じ里で暮らしていたんですが、ある日突然里からいなくなったんです。彼女を探してあちこち探し回っていると、この王国で目撃したという情報が入ったので、遥々やって来た次第です」
「アリアンナは友達想いなんだな」
「えへへ。リーシャは私の親友ですから」
アリアンナは無邪気な笑顔を浮かべた。
まるで花の妖精が目の前に現れたようだった。
「アリアンナの力になれるかどうかは自信がないが、俺も旅の途中で余裕があったらその子を探してみるよ」
「ありがとうございます。ルクスさんも旅人なんですか?」
「うん。特に目的地は決まってないけどスローライフを送れる場所を探してる」
「スローライフを送るなら私の里とかオススメですよ」
エルフ族の里か。
スローライフを送るにはうってつけの場所かもしれない。
「アリアンナがオススメする場所なら今度行ってみようかな」
「ぜひいらしてください。私、ルクスさんと会話するのは今日が初めてですが、いまのやりとりで、ルクスさんは良い人だということがわかりました」
「どうしてそう思うんだ?」
「普通の人間サンは、私がエルフだとわかると、有無言わずに拘束して奴隷にしようとしますから。ルクスさんのような紳士的な対応をしてくださる人間サンは生まれて初めてです」
え? なにそれ怖い。
キミの人間の常識ちょっとバグってない?
「奴隷にされそうになったことがあるのか?」
「はい、これまでに3回」
「3回もあるの!?」
やべえだろ人間……。
治安の悪さが限界突破してる。
彼女の運の悪さもあるだろうが、同じ人間として申し訳ない気持ちになる。
「特に"正派"の武人が酷かったです。私を保護するとか言って宿屋に連れて行って、そこで私を強姦しようとしました。なんとか逃げ切れましたが、未だにトラウマです……」
「そんな目にあったのに、よく人間の俺に話しかけようと思ったな。俺なら絶対に話しかけないぞ」
「ルクスさんがすごく悲しそうな目をしていましたから。なんだか放っておけなかったんです」
アリアンナの言葉に思わずドキッとなった。
心の中では、追放の件をまだ引きずっていたのかもしれない。
俺は苦笑いを浮かべた。
「そんなに悲しそうだったか?」
「はい、とても。ルクスさん。もし宜しければ、私に事情を話していただけませんか? 解決できるかどうかはわかりませんが、誰かに話すだけでも気分が楽になると思います」
アリアンナが上目遣いで俺の目の前にぐっと顔を寄せる。
彼女の美しすぎる容姿がすぐそばまで接近して、目を合わせるのが少しだけ恥ずかしくなった。
彼女の両肩を掴んで顔から遠ざける。
「少し考えさせてくれ」
「はい。構いませんよ。ルクスさんの問題ですからね」
アリアンナはにこりと笑った。
その反応を見て、彼女は本当に良い子だと感じた。
アリアンナの言葉を頭の中で反芻する。
たしかにアリアンナの意見は一理あった。
一度口に出して吐き出してみたほうがいいのかもしれない。
「あまり楽しい話ではないが、問題なければ聞いてくれないか?」
「はい。もちろんです。どうぞお話になってください」
俺はアリアンナに事情を話した。
話が終わると、アリアンナは顔を真っ赤にして憤怒する。
「ひ、ひどい! ルクスさんが可哀想です! 私、ロベルトさんという方に説教してきます」
「まあまあ落ち着けって。俺はもう気にしてないから。それに、これからは自分のために生きると決めたんだ」
「ルクスさんはすごく前向きな方ですね。普通、こんな酷い目にあったら復讐してやろうとか少なからず考えるはずなのに、そういうのは一切なく、自分の人生に真摯に向きあっています。中々できることではありません。すごく尊敬します」
彼女との会話だけで一生分褒められた気がする。
すると、その時。
俺達の乗っている馬車が急停止した。
「きゃっ!?」
アリアンナがバランスを崩して前方の壁にぶつかりそうになったので咄嗟に腕を掴んで手元に引き寄せる。
「おっと危ない。アリアンナ、怪我はないか?」
「あ、ありがとうございます」
すると、アリアンナの顔が熟れたリンゴのようにすごく真っ赤になった。
長い耳も真っ赤になっている。
「熱でもあるのか?」
「ルクスさんの顔を見てるとすごく顔が熱くなるんです」
どうやらアリアンナを怒らせてしまったようだ。
でも原因はなんだろう。急に腕を掴んじゃったからかな。
アリアンナを怒らせてしまった原因を考えていると外から御者の悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃあああああああ!? と、盗賊だああああ!?」
「ひゃはははははははははははは! 男は殺して女は犯せ! あの馬車を襲撃しろ!」
大量の馬の足音が物凄い勢いで近づいてきてるのがわかった。
馬車の室内から窓越しに外を確認する。
大勢の盗賊が黒馬に乗って馬車を取り囲んでいた。
ざっと数えた感じだと盗賊の数は30人程度。
オーラの薄さから雑兵水準ばかりだ。
「はわわわ!? どどどどどうしましょうルクスさん!」
アリアンナは酷く動揺しており、ガタガタと体を揺らして震えている。
「俺が奴らに話をつけてくる」
「む、無茶ですよ! 相手は恐ろしい盗賊ですよ! それに数もたくさんいます!」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
俺がそう答えるとアリアンナはさらに顔を真っ赤にした。
「ズルいですよ。そんなこと言われると信じるしかできなくなるじゃないですかぁ……!」
そう答えて、アリアンナは両手で顔を隠しながら俺に道を譲った。
さてと、話し合いで解決できるといいが……。
………
……
…
結論から話すと交渉は失敗した。
「はやっ!? ル、ルクスさん! 説得するっていまさっき言ったばかりじゃないですか!」
「そんなこと言われたって仕方ないじゃないか」
すると、盗賊達が下品に笑う。
「へへへ! 俺達と出会ったことを後悔するんだな」
「エルフ族のイイ女がいるぜ。今夜は楽しくなりそうだ」
彼らは舌なめずりをしている。
いかにもTHE悪役って感じだ。ここまでわかりやすいと清々しいな。
「アリアンナに手を出すことは俺が許さない」
「へっ。かっこつけやがって。俺達は30人もいるんだぜ。この人数に勝てるわけないだろ!」
たしかに人数は相手のほうが優勢だ。
だが、全員が有象無象の雑兵なので対処は容易。
俺は袖口より暗器の"雷龍刀"を取り出した。
刃渡りは手のひらよりも短く、刃の形状は勾玉の形をしている。
持ち手の部分は薬指と小指で覆い隠せるほどだ。
「なんだぁ? そのおもちゃは?」
「おもちゃかどうかはすぐにわかるさ」
だが、これこそが俺の愛刀だ。
刀身の素材は雷天龍の牙であり、刃には雷の霊気が宿っている。
この霊気によって刃と持ち手は密着している。
俺の武功。
"雷天剣"はこの雷龍刀を自在に操ることで敵を無力化する。
愛刀に気を込めると群青色の稲妻が発生して、俺の右手を包み込む。
「絶招一式『迅雷一閃』」
自身の右手を頭上から直角に振り下ろすと、前方に範囲1キロにも及ぶほどの超巨大の雷が落ちる。
「「「「「「ぎゃああああああああああああ!?」」」」」」
盗賊達は大きな悲鳴を上げて全員戦闘不能となった。
ライトニングは広範囲を攻撃できるのでとても使い勝手がいい技だ。
「す、すごい! あんなにたくさんいた盗賊達を一撃で倒してしまうなんて!」
馬車の中で今の戦いを眺めていたアリアンナが驚愕していた。
親指を立ててサインを送ると、アリアンナはますます顔を赤くして馬車の中に隠れた。
あれれ? 馬車の中に引っ込んじゃった。
アリアンナにとって今の技は刺激が強すぎたのかな?
彼女は武人ではない一般人だし、それも仕方ないか。
反省反省。
その後、俺は盗賊団を全員縄で捕らえて隣町の憲兵に送り届けた。
これにて一件落着!
と思いきや……。
「こ、こいつ全国指名手配されてるルクスだぞ!」
「今すぐ捕まえろ!」
「いやあああああああああ!? なんで! なんで!? なんでルクスさんが捕まっちゃうんですか~!!」
憲兵に本名を教えるや否や、彼らは俺を問答無用で拘束した。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
アリアンナ:エルフ族の女の子。
【読者の皆さまへ】
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