第20話:砂漠越え(完)
スカーレッドの提案は常軌を逸していた。
ルクスをパーティに引き戻せば、正派の長老達から大きな反発を受けてしまう。
他の武人だって良い顔はしない。
武術連盟にとっての最高の勝利とは四大門派による勝利。
正義ではない他の門派を味方として投入すれば、将来の火種を残すことに繋がる。
そんなことは彼女もわかっているはずだ。
「ルクスがいなくなってから、魔人がとてつもなく強くなったわ」
「それは彼が我々の情報を売ったからです」
「だからこそ、今の状況は危険だと思っているの。彼を野放しにしておくと、私達の身が危険に晒されてしまうわ」
「だから連れ戻そうと考えていらっしゃるのですね」
「それもあるけど、邪道なりに役に立つこともあるんじゃないかと考えたの。雷龍刀だっけ? あの飛び道具はかなり強力だったように思えるわ」
戦闘時にルクスがよく用いていた謎の暗器を思い出す。
攻撃範囲が広く、さらに肉眼では捉えられない速度で敵を一掃してくれる。
たしかに味方だと心強くはあった。
認めたくないが、ルクスは相当優秀な武人だ。
その事実を考慮すると、スカーレッドの意見も一理ある。
だが、理屈では正しくとも、立場的に我々が彼を仲間として認めるわけにはいかない。
我々が背負っているのは国家だ。
武術連盟の大義。
一個人の感情でそれを捻じ曲げるわけにはいかない。
私は小さく溜息を吐く。
「武人として大成すればいいアナタとは違って、私は聖女としての役割を全うしなければなりません。エメロード教の教義に反する邪悪な流派を認めるわけにはいかないのです」
「でも魔王を倒せなければ意味がないじゃない」
「なっ!? アナタは彼がいないと魔王が倒せないと仰りたいのですか!?」
「べ、別にそういう意味じゃないわ……。落ち着いて……。最近のセレナード、ちょっと怖い……」
これが落ち着いていられるでしょうか。
こっちも色々抱えて物事を動かしてるのに、それを『勝てないから』という単純な理由で全否定するなんて許されるわけない。
「アナタがなんと言おうと、私は聖女としてルクスを認めることはできません」
「そ、そうよね。わかった……」
「それに彼は、私と同じ異端にも関わらず、武人として超一流なのが気に食わな……」
発言の途中で口をとじる。
私はいま、なにを言おうとしたのだろうか。
私と同じ異端なのに?
まるで私がルクスに嫉妬してるかのような言い回しだ。
たしかに私は聖法力が備わっていない。
だが、私は誰よりも敬虔な信徒だった。
神聖剣の腕前だって同世代の中では一番だ。
しかし、同世代の中では一番優れているだけで、私よりも上の武人は探せばたくさんいる。
聖女は信徒を導く立場でなければならない。
当然、その能力も"頂点"でなければ示しがつかない。
本来あるべきはずの聖法力がなく、武人としても大成していない。
今の私は本当に聖女として相応しいのだろうか。
考えれば考えるほど、自分の存在に自信がなくなっていく。
アイデンティティが喪失しそうな気がして眩暈がした。
しかし、すんでのところに踏みとどまり、私は大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
(いいえ、私こそが本物の聖女です。聖法力という、生まれ持った資質だけで作られた、紛い物の聖女とは違う。私以上にエメロード教のために動いている聖女はどこにもいない…………そうですよね、エメロード様?)
私は神に尋ねる。
案の定、返事はなかった。
だが、それはもう慣れた。
そんなことよりも、今私の目の前にいる裏切り者であるこの女。
こいつをどう処遇すればいいか。
それに考えをシフトさせる。
エメロード教の未来のためには長老達に信頼される必要がある。
それゆえに、ルクスを仲間にするのは絶対アウトだ。
彼女もそれを知っているはず。
だが、それにも関わらず、ルクスを仲間にしたいと言い出している。
今も表面上は納得した顔をしてるが、内心ではルクスを呼び戻す策を練っているはずだ。
これは立派な敵対行為だ。
神に対する冒涜。
エメロード教の敵。
神の敵だ。
異教徒は許しても異端は絶対許さないのがエメロード教の教義。
神の名のもとに、この女はここで消す。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません。少しお疲れのようですから、《ヒーリング》をしましょうか?」
「ええ、お願いするわ」
私は気持ちを和らげると称して彼女の背後に立つと、大型動物も一瞬で眠らせる《スリープ》を発動する。
私に気を許していたこともあり、スカーレッドは数秒もしないうちにこてんと眠ってしまった。
スヤスヤと眠っている彼女を前にして私は、常備してる短剣を抜いた。
「スカーレッドさん。アナタが悪いんですよ。神の使徒である私の目の前で、神を冒涜するような発言をするのですから」
私はそう告げると、スカーレッドの喉元に向けて短剣を振り下ろした。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
セレナード:エメロード教の聖女。
スカーレッド:勇者パーティの一人。
ロベルト:勇者
【読者の皆さまへ】
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