第10話:謎の少女(4)
書庫から戻ってきたロゼが俺に《潜魔神書》を手渡した。
一見すると普通の巻物のように見えるが、開いてみると普通の巻物ではないことがわかった。
リアルタイムで俺達の現在位置が表示されており、半径10キロの地理が詳細に記載されていた。
特に驚くべきことは、周囲にいる人々の霊力が数値化されて地図上に表示されており、彼らの動きが揺らめく炎として可視化されていた。
例えば、武人ではないアリアンナは霊力5
霊力は厳しい修練と共に蓄積されていくものなので、彼女は武術的な訓練を一切していないということになる。
対して、ロゼらしき人物の炎は霊力1000と表示されている。
一般的な武人の霊力は100程度なので、ロゼはかなり強い武人だということがわかった。
そして、俺の霊力はというと……。
なんとアリアンナと同じく、霊力5である。
あまりにも少なすぎる。どんだけ修行をしていないんだー(棒読み)
正確には、ちょこっとだけ霊力の対外放出量を抑えているので、実際の霊力は画面上には表示されていない。
まあ、そこまで対応してたらチートすぎるか。
リアルタイムで人の動きがわかることから、おそらくこの地図は生き物のように周囲の霊気を感じ取っているのだろう。
錬金術でいうところのホムンクルス的な存在だと考えられる。
「使い方はとても簡単よ。巻物を開くだけ。すると、現在位置が自動で表示されるわ」
「中央が地図本体か」
「この地図にはアナタだけでなく、ほかの人物の霊力も表示されるから、所持してると敵に奇襲されづらくなるわ」
「素晴らしいものをプレゼントしてくれてありがとう。砂漠越えで大きく役に立ちそうだ」
「ロゼさん、ありがとうございます!」
アリアンナが笑顔で感謝の言葉を述べた。
ロゼもそれに微笑み返した。
「今日はもう遅いから宿屋に泊まるといいわ」
「ああ、そうするよ」
「あの、ロゼさんはどこで宿泊するんですか? 旅の途中だと先ほど仰ってましたが、お金は全部ルクスさんにあげちゃいましたよね」
「心配はご無用よ。野宿には慣れているから」
「一人での野宿は危険ですよ。私達と一緒に泊まりましょう!」
「アリアンナの意見も一理あるな。ロゼの分の宿泊代は俺達が出すから、今日は同じ宿屋で休憩しようぜ」
元々はロゼのお金だからな。
彼女の分の宿泊代を出してあげるのは不自然ではない。
「二人ともすごく優しいのね。それならお言葉に甘えさせてもらおうかしら」
ロゼも俺達の提案を受け入れて一緒の宿屋に宿泊することが決定した。
最近野宿ばかりで贅沢もほとんどしてないので今日はちょっと奮発していい宿屋に泊まろう。
休めるときにしっかりと休まないとな。
ロゼの案内で町一番の宿屋に泊まることになった。
二階建ての趣のある大きめの建物。
店内に入ってみると高級感のあるインテリアがあちこちにあって、華やかな服を着ている女将が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~。旅人の方ですね。何名様ですか?」
「三名だ。俺とこの子は同じ部屋で、こちらの銀髪の方は別の部屋を用意してくれ」
「承知しました。本旅館は頭金として宿泊料の一部を頂くのですが大丈夫ですか?」
「もちろんだ。えっと、これで足りるか?」
俺は金貨を三枚渡した。
「え……? こ、これは金貨……?」
「あー。もしかして足りないか?」
この町で最高の宿屋らしいからな。
俺はさらに金貨を三枚追加で渡す。
「あひゃあああああああああああ!? む、むしろ逆です! 足りすぎます! 金貨は硬貨の中で最も価値のある存在で、一般平均収入の1年分に匹敵するのにそれをポンと三枚お渡しできるなんて!?」
驚きすぎてひっくり返った女将は俺達に最高クラスの接待を行うことを決めたようだ。
従業員全員が一階に召集されて、
いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! 何かお飲み物でもいかがですか? お荷物持ちますよ! この方々に最高のご料理を持ってこい! と大騒ぎしている。
「なんだか皆さん慌ただしいですね」
「どうやら金貨はこの国では俺達の思っている以上に価値があるようだ」
「それがたくさん財布に入ってるってことは……ルクスさんはお金持ちって……コト!?」
「これだけお金があれば、王都の超人気スイーツ店にあるストロベリーサンデーを、腹いっぱいになるまで食べられそうだ」
「所持してるお金のわりに考えてる夢の規模が小さすぎる……!」
アリアンナは苦笑いを浮かべながらそう答えた。
別室のロゼとはこのタイミングで別れて、俺とアリアンナは同じ部屋へと移動した。
案内された客室は貴族階級が宿泊するような豪奢なインテリアで華やかに彩られている。
高級感のあるカーペットに、暖色のカーテン。部屋の奥には天蓋付きのベッドが置かれており、壁際には衣装棚と姿見鏡が設置されている。
中央の白い丸テーブルにはティースタンドが置かれていた。中にはマカロンなモンブランなどのお菓子が入っている。従業員によると好きに食べていいらしい。おかわりも自由。天井にぶら下がってる赤い紐を引くと従業員がやってくるシステム。
旅館とほとんど同じ質の極上のサービスを受けられるので、これまで溜まっていた疲れは取れそうだ。
「すごく素敵な部屋ですね。こんないい場所に泊めていただいてありがとうございます」
「今日はしっかりと休んで明日に備えよう」
「そうですね。一つ気になることがあるんですが、ベッドが一つしかないのはどうしてでしょうか?」
「俺達が恋人同士だと思われてるんだろう」
「ルクスさんの恋人……!」
アリアンナは頬を赤くして恥ずかしそうに体をもじもじとくねらせる。
同じ部屋に若い男女がいてベッドが一つ。
シチュエーション的には完璧だろう。
彼女は魅力的な女性なので欲情する男性も多い。
しかし、俺まで狼になってしまうと彼女は安心して旅ができないので、俺はアリアンナを邪な目線では見ないように心がけている。
彼女の事は大切な仲間だと思っている。
「俺にとっては嬉しい勘違いではあるが、アリアンナにとっては負担だろうから、二人用のベッドがある部屋にすぐに変えてもらおう」
俺はそう言って紐を引こうとするがアリアンナが慌ててそれを止めた。
「ルクスさん。私は全然平気なので部屋を変えないで下さい!」
「しかしそれだと俺と一緒に寝ることになるぞ」
「私はルクスさんを全面的に信頼してるので大丈夫です」
「アリアンナが問題ないならそれでいいが……」
俺が紐から手を離すとアリアンナはホッと胸を撫で下ろした。
彼女から信頼されてるのがわかったので俺としてはすごく嬉しい限りだ。
その後、俺は一枚の扉を挟んで客室に併設されているバスルームで身体を洗った。
こちらも一般的な浴槽と比べるとかなり大きくて高級感があり貴族のためのお風呂という感想を覚えた。
夕食として出てきた料理は肉類が中心。
主食はパンでメインディッシュはステーキ。
砂漠が近くにあるものの、巨大な運河が近くを流れているので魚料理も一部並んでいた。
「あれれ、おかしいです。ルクスさんが三人います」
「完全に酔ってるな」
どうやらアルコールの効いた料理も出されていたみたいで、アルコールに弱いアリアンナはすっかりと酔っていた。
アリアンナは椅子から立ち上がると俺のすぐ側までやってきて俺に抱きついた。
「えへへ。ルクスさん捕まえた〜」
「捕まえられた」
と俺は棒読みで返事をした。
アリアンナは酔った勢いで何度も俺にキスをした。
どうやら彼女はお酒を飲むと彼女はテンションが上がるようだ。
この程度の絡みならかわいいものなので、俺は特段気にせずに食事を楽しんだ。
食後、酔い潰れたアリアンナをベッドに寝かせる。
書き置きを残して俺は宿屋を一時的に離れた。
最近、充分な鍛錬ができていなかったので、この落ち着いた機会に鍛錬を行おう。
村を徘徊して俺が辿り着いたのは町外れの広場。
周りには遮蔽物もなく、修行をするにはぴったりの修練場だ。
さて、今日は久しぶりに基礎からやってみるか。
俺は翌日の朝まで鍛錬を行った。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
アリアンナ:エルフの女の子。
【読者の皆さまへ】
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