最終話:あの日の続き
遠ざかっていく二人の背を、俺はただ黙って見送っていた。
ロゼは振り返ることもなく、迷いのない足取りで進んでいく。肩を並べるアリアンナは、時おり何かを話しかけていて、それにロゼが口元を緩めて静かに頷く姿が、距離越しにも分かった。
ああやって並んで歩く姿は、なんというか——絵になるってやつだ。
旅人としての風格と、ほんの少しの親しさが、背中越しに滲み出ている。
かつては、あの並びに俺もいた。
二年前の記憶が、まるで昨日のように蘇る。
今の俺は、ここで見送る側だ。
だけど、それが嫌だとは思わなかった。
寂しさがなかったと言えば嘘になる。
けれどそれ以上に、あの二人の背中が、まぶしく、そして誇らしく見えた。
ロゼは強い。
力だけじゃない。芯の強さってやつだ。
誰よりも誠実で、冷静で、誰よりも人を見ている。
肩書きなんてものがなくても、彼女の本質は決して揺るがない。
アリアンナも随分変わった。
小さな頃から真っすぐで、時に危ういほど一直線だった彼女は、今もその本質を変えずに、でも確実に成長していた。
ロゼの隣を歩くのに、今の彼女はちょうどいい。
そしてアリアンナの隣を歩くのに、今のロゼもまた、ちょうどいい。
——きっと、うまくいく。
旅は、甘くなんてない。
楽しいこともあるだろうけど、それ以上に苦しさも、痛みも、理不尽もある。
でも、あの二人なら、乗り越えていける。
きっと笑って、また前を向ける。
「……行ってらっしゃい、ロゼ」
誰にも聞かれないように、風に紛れるように、そっと呟いた。
吹き抜けた風が、草を揺らす。
その風の流れに合わせるように、ロゼがほんの一瞬、立ち止まった気がした。
振り返ったかもしれない。
錯覚かもしれない。
でも、それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなった。
俺はその場に背を向けて、歩き出す。
空は高く澄んでいて、旅立ちに似合う青だった。
——また、いつか。
そう思いながら、俺は静かに空を見上げた。