第104話:西域(完)
こうやって誰かと旅をするのは二年ぶりだ。
隣で肩を並べて歩いているアリアンナを見ると、当時の思い出が脳裏に思い浮かぶ。
二年前と違う点はルクスがいないことだろう。
今回、ルクスを旅に誘う選択もあったが最終的には遠慮した。
彼はもう天魔の長。
責任のある立場になっている。
天魔教のために日夜働いている。
そんな彼を私達のワガママに巻き込むのは忍びなかった。
私は立場上、小教主という役職を与えられているが、基本的にはフリーだ。
教主が動けない時に代理として行動する程度だ。
そのため、アリアンナの旅に随伴するのも許されたわけだ。
とはいえ、往復で数年以上かかる旅を許されたのは、私が先代の娘である事に他ならない。
私の役目は、アリアンナを護ること。
アリアンナは才能のある武人であるが、まだまだ荒い部分が多い。
一人旅をさせるには少々不安があった。
私自身は結構危険なことを小さい頃からしてきたが、それをアリアンナにも体験させようとは思えない。
そういう意味では私は過保護なのかもしれない。
そんなことを考えていると、私達の進行方向を塞ぐ形で山賊が十数名現れた。
彼らの手にはそれぞれ獲物が握られており、全員人相が悪い。
「へい、お嬢ちゃん。女性の二人旅は悪い大人に目をつけられるから危険だぜ」
「へへへ! なかなかの上玉じゃないか」
彼らの一人が刃を舐めながら舌なめずりをする。
典型的な三下ムーブだ。
「アナタ達は、私が誰かなのかをご存じない?」
すると、彼らの一人が下品な笑い声を上げた。
「んなもん知らねぇな。良いところのお嬢ちゃんなら尚更かわいがってやるよ」
「へへへ! 奴隷市場だと高く売れそうだな!」
アリアンナが困惑しながら私に視線を移す。
私は「心配するな」と目で相槌を打つ。
こういう輩はちゃんと強さを見せてあげないと何度もやってくるからね。
最初の対応がすごく重要だ。
二度と関わりたくないと思えるように本気を見せようかな。
私は、全身から魔力を解き放つ。
すると、身を包む黒衣が硬化して蝙蝠の翼のように左右に大きく広がる。
鞘から剣を抜くと、深い紫色の魔力が刀身を包み込んで業火のように激しく燃えている。
「それは私にとっても好都合ね。アナタ達をここで始末しても誰にもお咎めがなさそうですもの」
私の現在の魔力値は100万。
それを目の前で体感させてあげよう。
「はわわわわわ!?」
「喧嘩売る相手を間違えたですゥ!」
賊達は悲鳴を上げて逃げ出した。
私は鼻を鳴らして魔力の解放を止めた。その後、魔力を内に押し戻す。
「変な輩が近づいて来ても、全員追い払ってあげるから安心しなさい」
「ロゼさんはやっぱり頼りになりますね」
「ふふふ、さあ行きましょう」
私達は仲良く談笑しながら旅を再開した。