第102話:西域(3)
それから数日が経過し、海上に海賊船の姿が見えた。
海賊船はなんと50隻もあり、賊軍とは思えないほどの一糸乱れない動きで港へと近づいて来ていた。
どこかでこちらの情報が漏れていたのかもしれない。
だが、その程度で崩れるほど天魔神教は弱くはない。すべての武人が精鋭である。
司令官の一声で数百の武人達が次々と小舟で海上へと突き進んでいく。
海戦が始まった。
俺はというと、戦場を見渡せる高台で優雅に戦いを眺めている。
数はあちらの方が多いが、練度の差でこちらが圧勝している。
俺が手助けをする必要もなさそうだな。
安心しながらも敵の弱さに退屈さを感じている。
一時間ほど経過すると、一隻の船が赤い旗を掲げる。
俺はそれを見てニヤリと笑みを浮かべた。
赤い旗は、一騎打ちの宣言。
どうやら総力戦だと分が悪いと判断し、頭だけでも倒しておこうと判断したようだ。
無視しても構わないが、天魔神教の強さを周辺諸国に見せつける絶好の機会なので、一騎打ちに応じてやろう。
俺は使者に一騎打ちに応じることを伝える。
すると、ちょうどそのタイミングでロゼがやってきた。
この二年間で身長が幾分伸びた。その美貌もさらに増しており、大人としての色気を感じる。
「どうした?」
「一騎打ちだけど、私に行かせて頂戴」
「危険だ」
「そんなこと、つゆほども思っていないでしょう。最近戦ってなくて体がなまっているから、今回の一騎打ちで戦いの勘を取り戻そうと考えてるの」
「俺も戦いたいんだけど」
「それじゃあ一緒に戦いましょうよ」
一騎打ちだけど、まあ相手も数人くらい出してくるだろう。
俺とロゼは戦場へと出発した。
一騎打ちは二連戦という形になった。
一戦目は副船長で、二戦目は船長だ。
こちらは、ロゼと俺の順番で戦う予定だ。
副船長が現れた。
手にはサーベルを握っている。体が大きくてなかなか強そう。魔力量からみるに、化境の武人って感じだな。
ロゼは臆することなく敵の船に飛び込んで剣を抜く。
「いつでもどうぞ」
その言葉の直後、戦闘が始まった。
副船長が嵐のような剣攻撃を仕掛けるが、ロゼはそのすべてをその場から動くことなく止めていく。
同じ化境であってもロゼは達人中の達人。副船長の攻撃は一切ロゼに通らなかった。
ロゼは一振りで副船長ごとその船を真っ二つにした。
「す、すごい!? これが小教主の実力!?」
「天魔神教万歳! 天魔宝剣様万歳!」
「ロゼ様最強!」
よし、どうやら副船長は始末したようだな。
今度は俺の番だ。
……って船長の乗っている船がビビって逃げ出している。
俺はため息を吐き、戦場に向けて手をかざす。
「雷天剣奥義『迅雷一閃』」
射程距離は∞。範囲は視界全体。
地平線の彼方まで突き刺さるほどの巨大な雷の光線が手から放たれ、海上の敵船をすべて消し飛ばした。
当然ながら味方には一切ダメージがない。
俺の一撃によって、海上では歓声が上がる。
俺達を称える歓喜の声がしばらく続いたのだった。