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第95話:我が神の名の下に(1)

 

 影を飛ばして半日後、影が息を荒げて戻ってきた。


「た、大変です、セレナード様! サレン村が奴らの襲撃を受けて消滅しました!」

「!?」


 影は早口で状況を説明した。

 どうやら奴らの正体は私の推測通りロベルトとスカーレッドの二人だった。

 問題はここからで、奴らは快楽殺人鬼のように大勢の人々を無差別に襲っていたのだ。


「冗談でしょう?」

「いえ、すべて事実でございます!」

「……わかりました。すぐにでも彼らを止めなければなりませんね。寸刻機動隊に奴らの討伐を伝えてください」

「了!」


 私の命令に合わせて影達は四方に飛んだ。

 誰もいなくなった部屋で佇んで、窓ガラスに映る私の表情をジッと眺める。

 氷のように冷え切った無表情。


「これが、過去に彼らを殺しきれなかった私の罪なのですね」


 前世で彼らを殺していればという後悔が押し寄せてくる。

 しかし、いくら悔やんでも彼らの凶行が止まるわけではない。誰かが動いて彼らを止める必要がある。

 それは、紛れもなく当事者である私の役割だろう。


 愛刀を手にして部屋の外へと出かける。

 廊下にはマチルダがいた。視線が合ったので、私は作り笑顔を浮かべる。


「マチルダ。ちょっと出かけてきます」

「もう夕食のお時間ですよ」

「急用なんです」

「……承知しました」


 マチルダは深くは追及せず、従者らしく丁寧にお辞儀をした。

 罪悪感を覚えながら彼女の隣を横切る。

 その際、「お気をつけて下さい」と小さな声で告げられた。


「はい。必ず帰ってきます」


 マチルダの方を振り返り、精一杯の笑顔でそう答えた。



 ◆ ◆ ◆


 目的地の村は森林地帯にあり、馬車を利用すると時間がかかるため、軽功を利用したダッシュでの移動となる。

 体力を消費してしまうが、少しでも早く襲撃のあった場所に向かわなければならない。

 一刻を争う事態だ。


 途中で影と合流し、一時間ほどかけて私は報告の合った村に到着した。

 村には多くの死骸が転がっていて腐臭が漂っていた。

 あまりにも悲惨な状況に、影達ですら口元を手で覆っている。


 近くを散策して、あの二人と思わしき食事の形跡を発見した。


(大量の肉と酒……。間違いなく彼らの仕業ですね)


 2年前と何ら変わっていない二人の嗜好。

 彼らはこうやってこの2年間を生きてきたのだろうか。人々を襲って奪って苦しめて自身の快楽だけを享受する。

 もはや怪物となんら変わらない。彼らと再会した時、彼らは人間の姿をしているだろうか。



 地面を観察し、足跡を見つける。

 同行してる影には生存者がいないか探索させ、私はその間に二人の足跡を単独で追った。


 足跡を辿りながら駆け足で突き進む。

 ほどなくして、ロベルト達の後ろ姿を発見した。


 彼らは私に気づき、肩をピクリと動かす。

 それを見て、私はその場に立ち止まった。


 長身の金髪男……ロベルトが振り返った。

 2年前と容姿はなんら変わっておらず、その服装すら当時と同じであった。

 それは隣にいるスカーレッドも同じだった。

 当時は14歳くらいだったスカーレッド。

 2年も経てば立派な大人の女性になるはずだが、いまの彼女は当時の面影を完全に残していた。


 外見面の変化のなさに、私は不気味さすら覚えた。


「おや、あの子の服装……。なんだか懐かしさを覚えるね」

「セレナードと同じ服装をしているわ。見てるだけで殺したくなるわ」

「あはは、キミは本当にセレナードが嫌いだね」

「そういうロベルトも」


 一方、雰囲気は大きく七年前と変わっていた。

 二人は淡々とやり取りをしている。

 その口調は柔らかいが、目の焦点があっておらず、忙しなく目玉を左右に動かしている。


「どうして村を襲ったのですか?」


 私は一番の疑問を二人に尋ねた。


「ボク達は誰も殺してないよ」

「そうよ。悪いのは彼らじゃない。私達は彼らが襲ってきたから殺しただけ」

「正当防衛ってやつ」

「子供の死体もありました」

「覚えてない。ボク達が殺したのは大人だけ」

「あっ、セレナードが殺しているのを見たかもしれないわ」

「うん。セレナードってやつが全部悪いんだよ。ソイツならあっちに行ったよ」


 ロベルトは適当な方向を指差して言い訳した。

 彼らの幼稚すぎる言い訳に嫌悪感を覚える。

 二人の話を聞いているだけで怒りで感情が支配されそうだった。


「言いたい事はそれだけですか? ゲス野郎共……」


 私はそう告げて、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。

 鏡のように磨き上げられた美しい刀身には、怒りに打ち震える私の姿が映し出されていた。

 おそらく、この怒りを全部抑えるのは無理だろう。


 それでも、彼らを確実に倒すために、限界まで自身の怨念を押し殺す。


「秩序神エメロードの名の下に、アナタ方をこの世から消します」


 感情のない冷たい声が、鬱蒼とした森の中に鈴のように響いた。


【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

セレナード:エメロード教の聖女。真の主人公。


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