第1話:正義の流派ではないので
それは、魔王軍の四天王の一人を倒した後の出来事だった。
戦場から街に帰還して、宿に泊まり、食事の後にロベルトの部屋に呼ばれた。
ロベルトは王国第一の武人であり、今代の勇者。
王国で最も強いとされている。
ロベルトは足を組んで椅子に座っていた。
金髪の伊達男で年齢は二十代前半。
俺と同年齢。
皇帝より授けられた最上級の装備を身につけている。
その装備の中でも彼のみが扱える聖剣『レイスアール』は超一級品であり、腰ベルトに括りつけられ、星のようにキラキラと煌めいて、一際大きな存在感を示している。
彼の左右には旅仲間の二人が立っていた。
二人とも若い女性で俺よりも年下。
赤髪の少女は最も年齢が若く、十代前半である。
紅蓮剣の使い手であり、戦場を炎の海へと変える"煉獄姫"のスカーレッド。
神聖剣の使い手であり、死者すらも蘇らせる"聖女"のセレナード。
二人とも有名門派の後継者であり、高い地位を秘めている。
そんな二人は、魔王を倒すために勇者ロベルトに同行している。
門派は違えと志は同じ。
俺はそのように考えているが、なんだか二人の雰囲気が怪しい。
彼らは厳しい目つきで俺を睨んでいる。
「キミを追放する」
すると、ロベルトが開幕一番に告げた。
俺は彼の言葉に唖然となった。
「どうして。一緒に魔王を倒そうと誓った仲じゃないか」
ロベルトは幼馴染だ。
七年前には義兄弟の契りを結んで打倒魔王を掲げた親友。
訳あってしばらく別々の場所で暮らしていたが半年前に偶然再会した。
その際、お互いの志は変わっていなかったので王国の平和を取り戻すために共に戦うことになった。
ロベルトほど強くないとはいえ、俺もある程度は戦える。
剣罡だって放てる。
剣罡とは、霊力を纏って放つビームの事だ。
これを放てることは一流武人の証とされている。
だからこそ、今回の追放勧告はあまりにも突然だった。
「自分が一番わかっているはずだ。キミは僕を裏切り続けた」
「……裏切る?」
俺はロベルトの言葉に首を傾げた。
彼を裏切った覚えはなかった。
「キミの流派は邪道だ」
「!!」
「半年間も一緒にいたのに"正派"へと流派を改めなかった。ボクはそんなキミに失望した。キミはもはや仲間ではない!」
「そ、そんな……。たしかに俺の武術は"正派"じゃない。だけど、志はロベルトと同じだ。この王国を魔王の魔の手から救いたい! ロベルトよ、考え直してくれ」
「黙れ! 邪道に落ちただけでなく、勇者のボクに指図するつもりか!」
「別にそんなつもりじゃ……」
すると大きな舌打ちが聞こえてきた。
舌打ちをしたのはロベルトの左側に立っている少女、スカーレッド。
面はいいが目つきは良くない。
赤髪の少女で、体格は小柄。
露出の多い薄緑色の衣装を纏っている。
彼女は俺の目の前まで近づいてきて、下から睨みつけながら俺の顔に人差し指を突き付ける。
「いつも背後でコソコソ動いてて不快なのよ。アンタは雑魚の役立たずなんだから黙ってパーティから去りなさいよね」
高圧的な言葉遣いであり、配慮の一切ない拒絶の言葉。
それは鋭利な刃のように俺の心に突き刺さった。
スカーレッドに続き、今度はセレナードが口を開いた。
「邪悪な剣術を使用する者とは一緒に戦えません。同じ空気を吸っているだけで吐き気がします」
白銀の髪を腰まで伸ばし、白色の神官服を身に纏った美しい女性。
今世紀最高の美女と称されているほどだ。
しかし、物腰は柔らかくとも、彼女の言葉には優しさが一欠片も残されていなかった。
戦場で共に戦った仲間達から、まさかそんな風に思われていた事実にショックを受ける。
虚しすぎて何の言葉も出てこなかった。
「どうやら二人とも僕と同じ気持ちのようだ。キミの存在は有益どころかむしろ害となっているのさ。だから目の前から消えてくれ」
親友の口から繰り出された残酷な言葉に、俺の中の熱い感情が完全に消え失せた。
王国を救うなんてもはやどうでもよくなった。
魔王軍との戦いは、正派同士で勝手にやってくれ。
俺はもう疲れた。
ロベルトの瞳に映る俺の表情は、怒りを通り越して"無"だった。
俺は一人寂しくトボトボと宿屋をあとにして街を離れた。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
ロベルト:傲慢な勇者。
スカーレッド:尊大な貴族令嬢。
セレナード:冷徹な聖女。
【読者の皆さまへ】
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