ケース4
「何をする! ここから解放しろ!」
「お前だな、最近コソコソと嗅ぎ回っていたのは」
記者は焦りと怯えの混ざった表情で、拘束具を取り付けられ、イスから動けない状態の体を虚しく揺らした。
囚われた彼の面前には並ぶ二つの人影がある。一人は文明開化美容室の店主だ。客の前で見せていたにこやかな顔はどこへやら、氷のような冷たい目線を記者に投げかける。拘束された記者の前で、いかにも拷問や殺傷に用いそうな禍々しい鉄器具の数々を事務机の上に並べている。
もう一人の男は、どうやら店主の上司のようだった。
「ヨシノさん、じゃあ“脳取り”で良いんですね」
「ああ、出来れば私に開頭をさせて欲しい。なにせ久々なんでな」
「ええ、もちろんです。気持ちいいですよ、空っぽにするんです、他人の頭を」
コイツらは何をいっている。ヨシノ? どこかで聞いた事のある名だが……。
記者はこの美容室で行われていた非人道的な背術を告発する為、情報を収集していた。施術の様子や、施術後の体感まで、何人もの人に聞き込んで、ようやく告発本があともう少しのところで完成という所に漕ぎ着けていたにも関わらず、囚われてしまった。
それにしても脳取り? そんなことが行われているなんて、事前の情報にもなかった。あまりに非人道的だ。人の脳は、その必要性がない限り、誰も侵してはならない人間の根幹部位であるはずだ。それをみだりに切ったり、全て取り去ったりなど、許されるはずがない。
記者は二人の面前でそう息巻きたかったが、拘束され、猿轡を噛まされた状態ではままならなかった。
「じゃあアンタ、悪く思うなよ」
店主はそう言うといつもの器具では無く、大きな鋸を手に持った。
「脳取りは器具が使えないからね、とっても痛いから頑張ってね」
そういうと、店主は記者は何か薬を打ち込んだ上で、ギコギコと私の頭上部に鋸の歯を当てて、大工よろしく前後に挽き始めた……
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「あぷぷーぷりぷりーちょんわー」
文明開化美容室からこんな奇妙な声を上げ、どこかへ走り去って行く記者の姿が目撃されたのはそれから程なくしての事だった。